◆ 性被害告発でリコール失職
海外メディアも注目した前草津町議のその後 (日刊ゲンダイ)
昨年12月、国内外のメディアに大きく取り上げられた群馬県草津町の町議会議員解職請求(リコール)住民投票。
結果は賛成多数で、対象となった新井祥子議員(当時)は失職した。あれから7
カ月余り。新井さんは、今どうしているのか?
=あの人は今こうしている=
◆ 前草津町議会議員 新井祥子さん52歳
「私は逃げも隠れもしません。今も草津町に住んでいますし、これからも住み続けていくつもりです。大好きな町をもっと良くしていきたいですからね」
新井さんと会ったのは、草津町の中心部から少し離れたカフェ。
新井さんを支援する中沢康治草津町議も同席したが、やはり、本音で話すには、誰が聞いているかわからない街中というれけにはいかないようだ。
「住民投票後、精神的な疲労も量なり体調を崩してしまいました。それで勤務先は休職扱いにしていただき、貯金を取り崩しながら生活しています。独身ですから、何とかやりくりできてるって感じです」
勤務先というのは議員と兼職していた会社のこと。リコールまでの経緯はこうだ。
2019年11月、電子書籍「草津温泉漆黒の闇」で、15年1月に黒岩信忠町長から性的暴行を受けたと告発。
町長は否定し、新井さんと著者を名誉毅損の疑いで告訴した。
19年12月、町議会は「言論の品位に欠ける」と新井さんを除名処分。
県は20年8月、この処分を「違法」と認定し、処分を取り消した。
そのため、審決を不服とする町議会議長や町議らは解職の賛否を間う住民投票を同12月6日に実施。新井さんは賛成多数で解職された……。
そして黒岩町長は、12月14日、都内の日本外国特派員協会で記者会見。
「新井氏に指一本触れたことはありません」と述べ、性的暴力を全面否定。「新井氏は被害を訴えながらも被書届を出さず、民事訴訟も起こしていない。《中略》うそであることの証拠」だと言い切った。
一方、新井さんはその4日後、同じく日本外国特派員協会で記者会見。「性被害は事実です」と黒岩町長の発言を否定し、両者の主張は平行線のままだ。
今年1月7日、新井さんは群馬県選挙管理委員会に「解職投票における選挙の効力に関する審査の申し立て」を行ったが1月25日に棄却。
2月24日、東京高裁へ採決の取り消しを求める訴訟を起こした。
「これが6月9日に棄却されたので、同22日に最高裁に上告しました」
黒岩町長が主張しているように、強姦罪や強制わいせつ罪で訴えることが可能なのに、告訴していないのはどうしてか?
「それは大きな誤解で、当然、15年に暴行を受けた時も所轄である長野原警察署へ行こうと思っていました。でも町長から『警察とはつうつうの仲』と聞いていたため、握り潰されるのが怖くていったんは諦めたのです。
でもその後、19年に群馬県警に相談に行っていますし、タイミングを見計らって告訴することを検討中です」
性被害問題に取り組む団体「Spring」と「One Voice」が昨年11月に発表した調査(回答数5889件)によると、被害者のうち、83・8%が警察に被害を相談しておらず、警察に相談した894件のうち、約半数が被害届を受理されなかったと回答している。
「告訴、告訴と簡単に言うけれど、それは男性目線であって、被害者にしてみれば、ハードルはとても高い」(全国被害者支援ネットワーク)
現在、町内の賃貸マンションに住んでいる新井さんだが、町議会では「居住実態の有無」も問われた。
「当時住んでいたアパートは顔見知りだった大家さんのご厚意で借りたのですが、水道が壊れていて使っていなかったため、水道料金が支払われていないということが疑惑の種になったのです。しかし、契約書もちゃんとあり、解約したこともありません」
草津町の解職請求住民投票については、「多数派が少数派の意見を封じ込める手段として悪用される懸念を払拭できない」(岩崎忠・高崎経済大学教授=自治実務セミナー21年3月号から)と自治法の専門家からも疑問の声が上がっている。
最高裁の判断が注目される。
(取材・文=高鍬真之)
『日刊ゲンダイ』(2021年7月29日)
海外メディアも注目した前草津町議のその後 (日刊ゲンダイ)
昨年12月、国内外のメディアに大きく取り上げられた群馬県草津町の町議会議員解職請求(リコール)住民投票。
結果は賛成多数で、対象となった新井祥子議員(当時)は失職した。あれから7
カ月余り。新井さんは、今どうしているのか?
=あの人は今こうしている=
◆ 前草津町議会議員 新井祥子さん52歳
「私は逃げも隠れもしません。今も草津町に住んでいますし、これからも住み続けていくつもりです。大好きな町をもっと良くしていきたいですからね」
新井さんと会ったのは、草津町の中心部から少し離れたカフェ。
新井さんを支援する中沢康治草津町議も同席したが、やはり、本音で話すには、誰が聞いているかわからない街中というれけにはいかないようだ。
「住民投票後、精神的な疲労も量なり体調を崩してしまいました。それで勤務先は休職扱いにしていただき、貯金を取り崩しながら生活しています。独身ですから、何とかやりくりできてるって感じです」
勤務先というのは議員と兼職していた会社のこと。リコールまでの経緯はこうだ。
2019年11月、電子書籍「草津温泉漆黒の闇」で、15年1月に黒岩信忠町長から性的暴行を受けたと告発。
町長は否定し、新井さんと著者を名誉毅損の疑いで告訴した。
19年12月、町議会は「言論の品位に欠ける」と新井さんを除名処分。
県は20年8月、この処分を「違法」と認定し、処分を取り消した。
そのため、審決を不服とする町議会議長や町議らは解職の賛否を間う住民投票を同12月6日に実施。新井さんは賛成多数で解職された……。
そして黒岩町長は、12月14日、都内の日本外国特派員協会で記者会見。
「新井氏に指一本触れたことはありません」と述べ、性的暴力を全面否定。「新井氏は被害を訴えながらも被書届を出さず、民事訴訟も起こしていない。《中略》うそであることの証拠」だと言い切った。
一方、新井さんはその4日後、同じく日本外国特派員協会で記者会見。「性被害は事実です」と黒岩町長の発言を否定し、両者の主張は平行線のままだ。
今年1月7日、新井さんは群馬県選挙管理委員会に「解職投票における選挙の効力に関する審査の申し立て」を行ったが1月25日に棄却。
2月24日、東京高裁へ採決の取り消しを求める訴訟を起こした。
「これが6月9日に棄却されたので、同22日に最高裁に上告しました」
黒岩町長が主張しているように、強姦罪や強制わいせつ罪で訴えることが可能なのに、告訴していないのはどうしてか?
「それは大きな誤解で、当然、15年に暴行を受けた時も所轄である長野原警察署へ行こうと思っていました。でも町長から『警察とはつうつうの仲』と聞いていたため、握り潰されるのが怖くていったんは諦めたのです。
でもその後、19年に群馬県警に相談に行っていますし、タイミングを見計らって告訴することを検討中です」
性被害問題に取り組む団体「Spring」と「One Voice」が昨年11月に発表した調査(回答数5889件)によると、被害者のうち、83・8%が警察に被害を相談しておらず、警察に相談した894件のうち、約半数が被害届を受理されなかったと回答している。
「告訴、告訴と簡単に言うけれど、それは男性目線であって、被害者にしてみれば、ハードルはとても高い」(全国被害者支援ネットワーク)
現在、町内の賃貸マンションに住んでいる新井さんだが、町議会では「居住実態の有無」も問われた。
「当時住んでいたアパートは顔見知りだった大家さんのご厚意で借りたのですが、水道が壊れていて使っていなかったため、水道料金が支払われていないということが疑惑の種になったのです。しかし、契約書もちゃんとあり、解約したこともありません」
草津町の解職請求住民投票については、「多数派が少数派の意見を封じ込める手段として悪用される懸念を払拭できない」(岩崎忠・高崎経済大学教授=自治実務セミナー21年3月号から)と自治法の専門家からも疑問の声が上がっている。
最高裁の判断が注目される。
(取材・文=高鍬真之)
『日刊ゲンダイ』(2021年7月29日)
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