京都 洛北の時計師 修理日記

時計修理工房「ヌーベル・パスティーシュ」京都の洛北に展開する時計修理物語。
夜久野高原で営業再開しました。

時計師の京都時間「時計師の冷や汗」

2016-09-09 09:21:01 | 時計修理

9月9日金曜日。重陽の節句の日。
本来京都では重陽は菊の花を飾り無病息災を楽しみ宮中行事。
ところが旧暦の行事なので菊の花どころかセミが鳴くような蒸し暑さ。今日も猛暑予報の30度超えヨロズ気温に気をつけよ!
旧暦の9月9日を新暦に直すと10月9日今年は大安の日曜日にあたるのでそちらで楽しみましょう。

時計師には冷や汗は付き物です。大規模な時計の作業場は汗臭い独特なにおいが充満します。
ちょうどクラッシック音楽の楽屋のにおいに近い。一般の人は冷や汗をかくことは日常生活の中であまり出会わないでしょう。
私たちは毎日のように冷や汗時計に出会います。
真冬に極寒の中一人だけ汗をかくこともあります。汗は背中に一本だけスーッと流れる。

昨夜、「ボチボチ仕事道具をかたずけ始めましょうかね~。」といつものcello最後の曲サンサーンスの白鳥を弾きはじめた。
ふと人の気配がする。入口を見ると年齢不詳の女性客さんが立っていました。
「亡くなった主人から最後にプレゼントされた時計です。電池交換で動くかしら?」
時計はスイス・シーマでした。
いまや中国ブランドに変わり安物時計扱いのグループに入っているが1970年代以前はオメガと並ぶような高級品です。ムーブメントもオリジナル設計のスイス製。
(いったいこの人の年齢はいくつか?1970~1980年代のシーマ?)ざっと50年前の時計を20歳くらいにプレゼントされたなら今は70才過ぎているはず。ところが見た目40歳台なのだ。
夕日も落ちた暗闇の中で顔もよく見えません。
時計はほとんど新品状態で使用された形跡はない。ただムーブメントだけは古い。
電池カバーがバネで抑えられているモデルを何とか交換して時計は動いた。
「時計ってプレゼントされた本人より長生きするものですね~!」と言いながら1000円札を頂く。

お客様が帰った。難しい作業の後なのでしばらくボンヤリしていました。
ところが作業台の上にが小さなガラスの破片が3個ほど散らばっている。冷や汗が吹き出す。ありえない!作業台に敷く紙の上のごみは毎回ごみ箱に捨てる。

作業中にシーマのガラスが割れたなら時刻を合わせる際に割れたことが解かるはず。
シーマから落ちたガラスの破片ということはありえない。お客様に渡す際に時計の確認をした時には何も問題がなかった。
では一体このガラスの破片はどこから来たのか?この仕事を続けていると不思議なことはよくおきます。
「私の嫁さんに最後にプレゼントした物はプラダのバッグか?」次の嫁さんの誕生日にはこのシーマのような私より長生きするものを贈ろうと思う。

もうすぐお彼岸!今日は重陽。菊の花はまだ咲いていない。ガラスの破片を片付けながらとっくに日が暮れた外を眺めていました。
時間が過ぎてしまいバスに乗り遅れてしまい、さっさと楽器をしまって表に出ると冷たい風が頭を冷やしてくれました。




コメント
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