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紅茶の島のものがたり vol.27 冨井穣

2009年10月02日 | 金曜(2009年4月~):冨井穣さん
第27話
夢の世界へ


 山城紅茶は会社設立から2009年で3年目を迎えた。3という数字は何かと物事の節目になりやすく、「ホップ、ステップ、ジャンプ」と飛躍の段階に見立てられることもあれば、逆に「3日坊主」のようにマイナスの側面も持ち合わせている。それでは山城紅茶はどうかといえば、現在のところはまだどちらにも当てはまらず、「石の上にも3年」という形容がぴったりかもしれない。やや贔屓目に見れば前者に近く、飛躍のための萌芽が少しずつ芽吹き始めてきた段階と言えるだろう。飛躍の萌芽とは、山城念願のカフェ(直売所)建設がようやく現実味を帯びてきたということだ。
 2009年3月、山城紅茶は有機JASの認証を取得した。これは農林水産省が2001年に定めた有機農産物とその加工食品の規格のことで、適合検査に合格し「有機JASマーク」を張ったものでなければ、「有機●●」「オーガニック●●」などの表示をしてはいけないというルールである。ちなみに農林水産省の定めによる「有機」表示の条件は、「3年以上化学合成農薬や化学肥料を使わなかった田畑で生産された農産物」であり、「無農薬」などの表示は「栽培期間中に農薬を使わないこと」である。父の代から20年、30年と長きに渡って有機無農薬の茶樹を作り続けてきた山城紅茶はこの審査を無事にクリア。名実ともに有機無農薬の紅茶として世間に売り出せるようになった。
 さらに同月下旬、沖縄県から経営革新計画の承認を受けた。沖縄県は2006年から、「中小企業の新たな事業活動の促進に関する法律」に基づき、新商品の開発、新たなサービスの提供、新分野への進出など、新たな取り組みにチャレンジする中小企業を資金面などでサポートする「経営革新支援制度」を導入。承認企業は設定した経営目標を達成するために、政府系金融機関からの低利融資や設備投資の税制優遇などの支援策が受けられるメリットがあり、山城と崎浜は「これをカフェ建設のための契機にできれば」と考えたわけだ。実際に承認を受けた計画内容を見ると、テーマは紅茶製品の開発ではなく「体験・観光型紅茶農園への発展」と掲げられている。会社設立当初の目標だったカフェ建設に向けて、構想は大きく動き出した。
 体験・観光型とあるように、施設内には直売店を併設したカフェと紅茶作り体験作業場を設置するとともに、茶摘み体験ツアーの受け入れ体制を整備。さらに紅茶加工を見学できる工場を新設し、多くの人に紅茶文化そのものを丸ごと体感してもらうのが目的だ。新茶の試飲発表会を開いたり、茶樹のオーナー制度を導入したりするのも面白いかもしれない。
 そしてこれらの構想はすべて循環型農業をベースに組み立てられており、環境意識の啓蒙につなげたいという2人の考えがある。将来的には、太陽光発電システムを導入して工場やカフェをオール電化にし、光熱費はすべて自家発電で賄う。茶葉の運搬には車を使わず、馬を飼って馬車で移送する。カフェを訪れた人に乗馬体験をして楽しんでもらってもいいし、馬ふんは牛ふん同様、堆肥の原料として再利用できる。
「馬車は手作りでいいだろうと軽く考えていたんですが、調べたところ国内にはれっきとした輸入馬車専門店があることが分かりました。カタログを眺めてみると、おとぎ話に出てくるような馬車がゴロゴロ載っていて、これはすごいな、と。中古でいいから、やっぱり本物を導入したいですね」
 計画は着々と進行中だ。
 また以前にも触れたように、店を開けていれば農閑期でも客足が期待できるから、生産調整にかける労力は大幅に軽減される。要は販売予想に合わせて畑をコントロールすることなく、作りたいだけ作ればいいという理想の状態に近づくことができるのだ。
「それでも生産が追いつかなかったら?自分たちで新たに茶畑を開墾したり、茶農家の人と契約を結ぶ方法などが考えられますが、そこまで手を広げようとは思っていません。理想的なのは、県内各地の茶畑で紅茶作りが行われること。発酵のメカニズムは非常に複雑で、同じ加工手順を踏んだとしても茶葉の産地が異なればまったく別の味になるから、紅茶には必ず地域性が生まれるんです。だから例えばスリランカのように、中部なら私たち山城地区の紅茶、北部に行くなら奥地区の紅茶といったように、沖縄全体が“紅茶の島”として活気づいていけばいいですね」
 いつになく控えめに話す山城だが、沖縄産紅茶が本当に産業資源として定着していくならば、彼がその先陣を切っていることは間違いない。




赤いつなぎ姿で経営革新事業の認定書を受け取る山城



text:冨井穣




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