どんぴんからりん

昔話、絵本、創作は主に短編の内容を紹介しています。やればやるほど森に迷い込む感じです。(2012.10から)

長い長いお医者さんの話・・カレル・チャベック

2020年01月04日 | 創作(外国)

    長い長いお医者さんの話/カレル・チャベック・作 中野好夫・訳/岩波少年文庫/1952年初版

 

 チェコのカレル・チャペック(1890-1938)の童話集で、兄のヨセフが挿絵をかいていて、表題の「長い長いお医者さんの話」のほか8編。初版が1952年とだいぶ前ですが、はじめて読みました。

 ずっと大昔、ヘイショヴィナ山にマジャーシュという魔法つかいが住んでいました。よい魔法使いもあれば、悪い魔法つかいもいますが、マジャージュは、ちょうど真ん中ぐらい。

 ウメの実をポリポリかじっていたマジャーシュは、間違って種ごと飲んでしまってウメの種がのどにつまって声が出なくなってしまいます。
 苦しそうなマジャーシュの様子を見て、弟子のヴィンチェクは大慌て。フロノフのお医者さんを呼んできますが、声も出せないマジャーシュを見て、フロノフのお医者さんは、これは大分重い病気で、すぐに手術をしなければ命にかかわる、ただ一人では手が回らない。もし手術の決心がついたら同僚をよび、手術会議を開くことにするといいます。

 ほかの三人の医者がくるまで、たいくつまぎれにフロノフの医者は、ソリマンのお姫さまの話をはじめます。

 ソリマンのお姫さまは、なんのまえぶれもなく、元気がなくなっていたのです。
 魔法使い、占い師、巫女、八卦見、陰陽師、祈祷師、天文学者、神主さん、お医者さん、やぶ医者などなど国中の人間が呼び集められますが、誰もお姫さまの病気を治すことが出来ません。
 ひとりの旅商人からヨーロッパから医者をよぶことをすすめられた王さまは、「ほんとうにえらいお医者には名前の前にドクトルがつく」というのをたよりに、ヨーロッパに使いをだします。ソリマン国使節団は、間違って木こりのドルヴォシュテープをドクトルと勘違いして連れてきます。

 ドルヴォシュテープじいさんが、病気をなおせないというと、王さまは「姫の病気をなおせないなら首を切る」とまでいいだしました。

 城のまわりの木がしげっていて御殿の中はてんで日が当たりません。これじゃ部屋もじめじめして、カビが生えたり、虫食いができたりするだろうとドルヴォシュテープじいさんは、御殿をかこんでいる木立を一本一本きりたおしはじめます。

 腕をいかし、日当りをよくすると、お姫さまの病気がころりとなおってしまいます。たしかに医者よりも環境の方が大事です。

 四人の医者がそろい見立てがはじまると、急性ウメタネ炎、ウメマク炎、タネ性カタルとそれぞれが見立てますが、結局は四人の見立てをつけた急性ウメタネマク気管支カタルと結構無責任な決定。

 それでも、すぐに治療がはじまるのでなく、コステレツの医者が人々を脅かして楽しんでいた妖精のヤカマシ小僧の病気を治してやった話をはじめます。

 耳までさけた口にボロぎれをまきつけた小僧が声が出なくなってやってきました。

 しめっぽい森の中で人を驚かそうとするのがそもそもダメで、おばけのまねをやめて、日当りの良いところに引っ越ししたら、のどの病気もよくなるだろうといわれたヤマカシ小僧は、何年かたってから政治家になって、とんとん拍子に成功して国会議員になって、はぶりをきかしているという。

 政治家の素性もさぐってみればうさんくさいというのが相場です。

 ヨウダルという年よりカッパが風邪かインフルエンザらしい症状で、ハヴァロヴィツェの医者のところにやってきます。医者はリュウマチだから、からだをあたため、しめりっけを遠ざけるように言いますが、カッパは水なしにはいきていけません。

 医者は温泉をすすめます。温泉はリューマチでこまっている年よりがッパのために、とくに神さまがつくってくださったものだときっぱり。それから温泉ガッパは地の底からお湯をくみ上げているので、世界中からリューマチの人間が湯治にでかけてきます。

 ホルシチュキの医者は、ダンスをしていて月の光につまづいて足を痛めてしまった妖精に、トンボのハネについているヒラヒラのうすい膜と、お月さまの光の青の光線をぬきだして包帯がわりにつかいなんとか治療してあげます。

 さらに医者は、妖精がまだこんなところにいるのかわけがわからない、ほかの妖精はハリウッドにでかけ、さかんに活躍していることを話し、映画のことを考えるようにいいます。

 それ以来、このあたりには妖精がひとりもいなくなってしまいます。

 本家本元の妖精を、映画に登場させてもうけたハリウッドにたいするあてつけです。

 ところで、ウメの種をつまらせた肝心のマジャーシュさんは、背中をおされて無事、種がでてきてもとどおりに。

 魔法使いがのどに種をつまらせるところからはじまるので、このまますすんでいくかと思いきや、四人の医者をあつめるための舞台設定だったようです。たしかに長い長いお医者の話でした。

 魔法使いにたいする医者のすすめも現代風です。サハラ砂漠に行って、おとくいの魔法で作物が実るよう工夫するようすすめ、みんなが大きくなるころは村や町ができあがっているかもしれないと結びます。