福島のむかし話/福島県国語教育研究会/日本標準/1977年
昔話というと、ひとのいいおじいさんと欲深いおじいさんがでてきたり、末っ子を大事にしない兄弟がでてきたりと、対立の構造が目立ちます。ただ、この話はこうした対立がないので、安心できます。
むかし、西鬼といわれるおっかねえ鬼になやまされていた村の人々。この鬼の話を聞いた人々は、岳街道を通らず、鬼もいたずらはできないし、人の物をとることもできなかったから、岳山から人里近くまででてくるようになりました。
この鬼退治にかけたのは、力自慢で頭のいい大三という若者。若造に大事な役がつとまるかと村人は心配したが、それでも大三に頼むしかないので、酒やさかな、食いものや着物まで用意し、大三に鬼退治を託します。
岳街道をのぼり、もうちょっとで坂の上というところで一休みした大三。ガサガサ、ピチャピチャという音が聞こえてくるので、じっと音のする方をみると、赤銅色の鬼。
よくみると、鬼は頭の毛もひげも伸び放題、ぼろぼろの着物で、力なく沢の水をガブガブ飲んでいた。「鬼のやつめ、何日もなんにも食わねえで、体がまいっているだんべ」と思った大三は、鬼退治にきたことも忘れ、持ってきた食い物を全部広げて、鬼にくれてやった。鬼はちょっとのあいだ、びっくりしたようだったが、目の前の食い物が山盛りにおいてあるので、夢中になって食いはじめた。
満腹になった鬼は、大三の情けが身にしみて、大粒の涙を流し、なんどもなんどもお礼をいいます。大三が、「これ、鬼よ。おめえがいままでしてきたのは、悪いことだったんだぞ。んだから、村の人や旅の人は、どれだけ難儀したかしんねぞ。おれはおまえをつかまえにきたんだが、どうしたらいいべな」とさとすように言うと、鬼は両手を広げて大三の前にさしだします。鬼を村につれていくと必ず殺されると思った大三は、これからは決して人里に出てきたり、いたずらをしないようにといい、鬼を逃がします。
このまま、村にかえることもできねえし、大三がこれからどうしようと考えていると、鬼が、でっけえ石をもってもどってきました。よくみると、その石は鬼そっくりの形をしていました。鬼は、この石をここへおくと鬼退治した証拠になるといって、笑って別れました。
次の日、村人は大三の案内で、おっかなびっくり、退治した鬼を見にきましたが、鬼の形をした石をみて、みんなたまげて、村ににげもどりました。
それから鬼は、人里にあらわれなくなり、鬼石は、いつまでもおなじところにころがっているという。
「原瀬の才木(西鬼)」という地名がでてきますが、二本松市に原瀬というところがありました。この原瀬には、縄文時代集落跡があり原瀬上原遺跡として整備されています。