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観察 Observation

研究室メンバーによる自然についてのエッセー

小さな質問

2014-10-23 12:21:48 | 14
今年、文一総合出版が出している「このは」という雑誌が骨特集をするというので、協力した。麻布大学の標本が紹介されてよかったと思う。出版されてしばらくしてから、eメールが届いた。それは小学2年生の男の子からで、実際は彼のお母さんが書かれたものだったが、質問そのものはその子のことばで書かれていた。10ほどの質問が箇条書きにしてあり、中にはかなり詳細な質問もあった。どうやらその子はしばらく前にころんで縫わなければならないほどの頭のけがをしたようだ。そういうことは多かれ少なかれ誰でも体験することで、ふつうならそれで終わるところだと思うのだが、その子はそれで骨に興味をもったらしい。質問には
「ぼくの頭は大丈夫でしたが、それはぼくが石頭だからですか」
というかわいいものがあった。彼は、骨の丈夫さを不思議に思ったらしい。それでいろいろ調べて人の体には何本の骨があるのだろうかとか、人とイヌの骨はどう違うのだろうかと、興味がどんどん広がったようだ。私はそれにひとつひとつ返事を書いた。

 そうしながら私は自分が中学生のときに同じようなことをしたのを思い出した。昆虫採集や飼育に熱中していた私は、蝶のことで知りたいことがあったのだが、本を読んでも書いてない。それで大胆にも図鑑の著者である九州大学の白水隆先生に手紙を書いたのだ。当時、中学生が図鑑の著者に手紙を書くというのは相当珍しいことだったと思う。それがふつうでないことは私にもわかったから、質問状を出したものの、返事はないだろうと思っていた。ところがしばらくするときれいな字の返事が返ってきたのだ。質問の内容は略すが、便箋2枚にわたる丁寧な手紙をもらったことは忘れられない思い出になっている。

 そういえば、私は、今でも続いている「みんなの歌」が大好きで、NHKに返信用封筒を入れて歌詞カードのリクエストをしていた。そうすると歌詞を書いたパンフレットのようなものが送られて来るのだった。15センチかける20センチくらいの2つ折りで、2色刷りだった。「夕日が背中を押して来る」とか「小さな木の実」などがお気に入りだった。

 山陰の小さな町に育ったから、東京が輝くような存在だったし、テレビで流れる歌を歌う「杉並少年少女合唱団」というのがどういう集まりなのかあれこれ想像した。また大学がどういうところなのか、研究するというのはどういうことなのだろうかもあれこれ想像した。そして返事が来ることで、そういう存在とつながりができたようでうれしかった。
 「骨少年」に返事を書いたときにとくに意識はしなかったが、私の心の底のほうに、その頃の気持ちがあったかもしれない。

シカの行動調査に参加して

2014-10-23 12:05:19 | 14
3年 山本楓
 10月1日から10日まで宮城県にある金華山にシカの行動観察に行きました。今まで3月、7月、8月にも金華山に行きましたが、秋のシカは全然違うことに驚きました。オスは袋角もむけて冬毛に変わり、体に泥を塗って黒くなっていました。泥には自分の尿も混ぜているので独特なにおいがしました。そんなにおいが漂っている場所でシカの行動調査ができると思うとわくわくしました。
 調査は人馴れしたシカがいる神社の境内一帯で、調査の前半はシカがどこにいるかを記録するために、1時間ごとにシカの市を地図上にプロットしました。境内はトビヒノ、タロウ、中央、三角、食堂前など、名前がつけられています。オスジカは個体識別されていて、名前がついているのですが、角や耳の特徴と名前がなかなか一致せず、何回も識別ブックや野帳を見返しながら覚えました。角も一頭一頭個性的で、見ていてすごく楽しかったです。
 調査の後半は角切り行事が終わったので、シカが角切場から出されました。そのため前半とは様子がガラッと変わりました。
 今まで中央にいたBOSSというシカの姿が見えなくなり、そこにオクニヌがなわばりを取りました。私はオクニヌの個体追跡をして記録を取りました。個体追跡は8月に練習をしたので、今回は本格的に記録することになりました。秋ですから、繁殖期なので、繁殖関連の行動にはとくに注目しました。この時期のオスの行動はこれまでとまったく違いました。観察を始めて何日か経ったときに、ついにオクニヌの交尾の瞬間を見ることができました。野生動物の行動を詳しく観察できるというだけで感激ですが、「オスがメスと交尾したのを見た」というのではなく、「自分が知っているオクニヌが交尾した」という観察ができたことは、意味が全然違うと思いました。
 金華山では長年シカの研究がされていて個体識別もされているため、このように個体をみる研究をすることができます。この金華山での調査の歴史に私も関わることができてすごく感慨深く思いました。


角を突き合わせて戦うオスジカ

変な赤い「実」

2014-09-26 23:16:57 | 14
3年 渡部晴子

 長野県浅間山で、8月の調査中に変な「実」を見つけた。ヤマブドウの葉の上に、ぽつぽつと真っ赤な先がとんがった実がついている。直径約5mm、高さは1cmほどの実が1枚の葉の上にいくつもついている。


変な赤い実たち

葉を裏返してみると、「実」のついている部分だけ赤く膨らんでいる。その様子を見ると血管が想像されて、なんとなく不気味だった。


「実」がついている葉の裏側

 後日調べてみると、これはブドウトックリタマバエというハエの仲間の虫こぶだということがわかった。虫こぶとは、虫が植物に寄生してできるこぶ状のもので、これは虫が作るのではなく植物に作らせているそうだ。この赤い「実」の中には、ブドウトックリタマバエの幼虫が一匹入っているという。幼虫は虫こぶの中で少しずつ成長し、秋になると虫こぶは葉から離れて地面に落ち、中の幼虫はそのまま越冬するらしい。ブドウトックリタマバエの幼虫にとっては、いるだけで栄養がもらえる上に、冬越しもできる快適なお家なのかもしれない。
大学に入ってから、虫媒花とそこに訪れる昆虫、おいしい果実とそれを食べて種子を運ぶ役割を果たすタヌキなど、動物や植物のつながりについて学んだ。ブドウトックリタマバエとヤマブドウも、このようなつながりのひとつなのだと思った。(ただし、先に挙げた2つの例では双方にメリットがあるのに対して、タマバエとヤマブドウのペアはおそらく寄生するタマバエにしかメリットがないという点でこれらは異なっている。)ブドウトックリタマバエは、ヤマブドウを利用して巧みに生き残ってきたのだと思うと少し感動する。それにしても、なぜこんなに目立つ色をしているのか疑問だった。鳥に食べられてしまったりはしないのだろうか。
 9月になってまた調査地を訪れると、この虫こぶたちはまだ葉についていた。中には、虫こぶが落ちたからか、他の理由からかはわからなかったが、葉に直径5㎜程の穴がいくつも空いているものもあった。一応下を探してみたが落ちた虫こぶは無く、少し残念だった。ブドウトックリタマバエには悪かったたが、虫こぶをひとつ開かせてもらった。写真が上手く撮れなかったが、中には黄色い小さな幼虫が収まっていた。来月調査に行くときには、もう葉から落ちているだろうか。
 森や藪の中を歩いていると、思わぬ発見があって面白いと知った。私は、まだまだ、転ばないようにと足元ばかり見て歩いているので、そこにいる色々な生き物たちに気づかずにいると思う。何気なく見過ごしている身近な動植物たちも、実は巧みに生存や繁殖の工夫をしている。そういう生き物たちについてもっと知りたいと感じた。

野外調査に参加して

2014-09-25 22:23:43 | 14
3年 三井志文

 この夏休みに東京西部の日の出町にある谷戸沢処分場へ初めて行った。当日の朝は小雨で不安定な天気だった。八王子駅で奥津先輩に車で拾ってもらい、谷戸沢処分場まで乗せていもらい、車の中でその日の調査内容を教えてもらった。ひとつは、カヤネズミの生息範囲を知るために設置してあるトラップの改良型を作るのを手伝うこと、もうひとつは旧型のトラップを回収して、改良型を設置することだった。
 トラップの作るときには、これまで出会った問題をのりこえる工夫を試行錯誤して来た話を聞き、今までこの研究テーマにどれだけの時間と気持ちを入れて来たかを感じ、その情熱に敬意を感じた。
 フィールドでは、土の層が薄いため植生の遷移が進みにくいという説明をきいた。また、そこらじゅうに見られるクズがなぜ駆除しにくいのかとか、外来種のセイタカアワダチソウのアレロパシーによって周りの植生が枯れていることなど教えてもらった。そこで気づいたことは、同じ景色を見ていても「知らない」で見えている景色と「知っている」で見ている景色は全く異なる物であるということだった。谷戸沢処分場に入った時と出た時ではまるで違う所にいる気分だった。そして、自分がまだ見ているつもりでいても全く見えていない世界が目の前に広がっている事を想像し、生態学や他の学問を勉強することによってそれが見えるようになれるかも知れない可能性に対してドキドキした。
 調査が終わり、帰りの車の中では奥津先輩の本業の教育について話を聞いた。小学生、中学生は常識という鎖に縛られないため、実に想像力豊かな質問や発想が来るという話だった。その中でも一番印象的だったのが生物の授業で「花にはなぜ様々な色が存在するのか」と言う質問に対して「土の中に赤や黄色や紫などの様々な色の素が存在していてそれを種が吸収するから」という生徒の答えだった。常識と言う枠の中で考えていたら絶対に現れなかったこの答に自分はすごい魅力を感じた。今回の調査では生物に関する純粋な知識のみだけではなく、常識などの枠によって視野を自分で小さくするのではなく自由な視点で物事を見る大事さを学んだ。これから自分の研究をするにあたっても、様々な視点からそれに注目することによって見える世界が多々存在する事を意識していきたいと思った。

木に登ったイグアナ

2014-09-25 20:03:29 | 14
4年 岩田 翠
 私は先日、夏休みを利用してエクアドルのガラパゴス諸島へ行きました。ガラパゴスにはそこにしかいない多くの生き物が生息しています。私も実際に海イグアナや陸イグアナ、フィンチなど様々な生き物を見ることが出来ました。
 そこで見たのが、ある1匹の陸イグアナです。陸イグアナとは、ガラパゴス諸島に生息し主にサボテンを主食としているイグアナです。このイグアナは木に登ることができないので、サボテンの葉肉や花が落ちてくるのを待つ様子が多く見られます。
 ところが、多くのイグアナが地面にいる中、なんと木に登っているイグアナがいたのです。それもかなりの高さで、研究員でもあるガイドさんはとても驚いて言いました。
「最近の陸イグアナは木に登る個体が確認されているけれども、こんな高く登っているのを見るのは初めてだ」


木に登ったイグアナ

 島にあるサボテンは陸イグアナに食べられないよう葉が高いところについています。ガラパゴスは乾燥地ですから、サボテン以外の植物も少なく、食べ物はほとんどありません。地面に近いところには食べ物がないので食べ物を目指して木に登ったのかもしれません。
 この時私は、生き物が環境に合わせて変化していくこととはこういうことなのかと思いました。この変化が次世代に受け継がれ、残っていくことを考えるとなんだか自分が貴重な現場に居合わせた気がして、わくわくしました。こういった生き物の変化をテレビや授業などで見たり聞いたりすることはありましたが、実際に見る事ができるとは思ってもみなかったので驚きました。生き物の力はすごいなと感じさせられるそんなひと時でした。