みかん日記

省農薬ミカン園の様子や農薬ゼミの活動内容を伝えます。

2011/05/06 ゼミ

2011-05-10 10:57:37 | ゼミ活動
お久しぶりです、おがわ です。
今週は、研究室の都合がついたこともあり、久しぶりにゼミに出て、発表しました

発表といっても、今回は論文を紹介しつつ、意見交流という形にしました。
(単に自分でまとめて発表する準備ができていなかったのが主な理由ですが…


選んだ論文はこちら。


有田博之. (2009). 農業生産基盤の被害特性と復旧への取り組み(<特集記事>新潟県中越地震から5年-復旧から復興へ-), 自然災害科学, 28(3), 214-221


2004年の新潟県中越地震における、農業生産基盤の地震特性と復旧対策について、小千谷市を取り上げて紹介している論文です。




中越地震の災害復旧では、災害復旧事業(40万円以上/件を対象)に加えて、新潟県中越大震災復興基金で創設された「手作り田直し等支援事業」(40万円未満/件を対象)が実施されたことが大きな特徴です。
これまで、小規模被害に対する広範な補助体制はなかったそうで、この田直し事業は新たな対応の道を拓いた点で注目されるそうです。

ただし、東日本大震災では、被害が大きい(地震による被害額としては過去最大)ので、
小規模被害に対する補助というものが、どれだけできるのか難しいですね。

また、この論文では「目に見えない被害」が取り上げられていました。
地盤内に亀裂の発生などがあっても、地震直後には顕現せず、時間をおいて確認される被害のことです。
被災直後の目視では判別困難であり、
・水田やため池の湛水・貯水段階において水がたまらないことが分かり、亀裂の存在に気付く
・農業集落排水施設(農村下水道)の供用を再開後、汚水の不通によって管路の不具合に気付く
・灌漑用パイプラインは亀裂破壊が生じても、通水機能に支障がないと直後に被害が確認されず、数度の通水期を経て漏水に起因する道路崩壊などを機に被害が発見する
などの例があげられていました。

こうした目に見えない被害の特徴は、遅いものでは数年後に発現する事例も少なくないそうです。
今回の地震では、津波の被害が注目されており、地震だけの被害はあまり取り上げられていない印象ですが、今後こうした目に見えない被害がでてくる可能性も考える必要がありますね。

また、中越地震では、災害復旧事業における原形復旧の原則と現場の被災者たちが必要と考える整備水準に乖離があったようです。
原形復旧は、狭義に解釈すると、災害発生前の状態へ戻すことであるため、従前地が未整備であれば、低位の整備水準(本来、改善が必要)への復帰になります。しかし、被害が大きかったところほど、もともと生産基盤の整備が遅れていたため、震災を機に農作業を効率化・省力化するための改良が農家から求められました。
このように、原形復旧の原則には限界があるため、著者は「技術ミニマム」という最低基準水準の設定を基礎とすることを提案していました。そうすることで、旧態とは関わりなく、生産基盤がミニマム以下の整備水準であれば、キャッチアップに必要な改良は復旧工事で実施でき、事業実施の効率化にもつながるだろうとのことです。

このようなアイディアを活かしているのかどうかは不明ですが、2011年3月23日のニュース(少し古いですが)で、農林水産省の復興計画において、筒井副大臣が「今までの災害対策の延長ではダメで、再生のための全体計画の検討を始めている」と述べていました。
これまでのような単なる原形復旧だけではない、事業の実施につながるとよいですね。



東日本大震災の農業復旧・復興を考えていく上で今回のゼミで出された意見としては、
・農家にどういう人が多いのか(専業・兼業?)
・塩害による被害の実態と復旧の方法はどうなっているのか?
→有明海の復旧が参考になるかもしれない
→米作塩害については、八郎潟が参考になるかもしれない
→スイカは塩分に強いからスイカを栽培している地域がある
→リモートセンシング技術を活用できるのでは
などでした。

他にも、田んぼの管理方法、田んぼの価値(縄文時代からの財産)、今回の原発事故からの復旧は、戦後復旧と同じくらい大変で重要なことであることなどについても意見交流がされました。



おがわ