7/16のゼミ報告です。
今回は農薬ゼミのOBである、京大の地球環境学堂の市岡孝朗先生に来ていただき、天敵によるカイガラムシの防除の話をしていただきました。
省農薬みかん園の、害虫の中心的存在であるヤノネカイガラムシとその天敵のヤノネキイロコバチとヤノネツヤコバチの具体例を交えながら、害虫と天敵の安定性について内容を話して下さいました。
以下で簡単に内容を紹介します。
害虫を天敵によって防除することは、簡単なことではありません。
まず、天敵が導入する場所の生態系を壊さないことは大前提です。
次に、対象の害虫くらいにしか影響を及ぼさない天敵だとしても、導入してすぐにその場所から絶滅してしまったのでは意味がありません。
天敵がその場所で、安定して存在するためには対象の害虫も安定して存在してもらわなければならないのです。かといって、大発生したのでは、天敵を導入した意味が無いので、少ない密度で安定して存在する必要があります。
では、どういった場合に安定して存在するのでしょうか。以下で簡単にそのメカニズムを説明します。
*害虫と天敵の安定性のメカニズムは未だに分かっていないことが多くあり、以下で述べるメカニズムは実際は働いてないかもしれません。(当然、天敵と害虫の種によっても異なってきます。)
・Refuge space の存在
害虫が天敵から隠れられる場所が存在し、そこにいる一部の害虫が生き残ることで、害虫の絶滅が防がれる。
例えば、ヤノネカイガラムシでいえば、他のヤノネの個体の下に潜ることで、ハチから認識されなくなり、生き残れる。ただし、潜ることによって葉から取れる栄養が少なくなったり、上の個体の影響で大きくなれなかったりとデメリットもある。
隠れられる場所の他にも、他の生物に守ってもらえる場所もあり、その生物にメリットとなるようなものを提供している。
・Life history による逃避
天敵が害虫を捕食できる期間は限られていて、害虫はすべての成長段階で、捕食されるわけではない。
これによって、一時的に天敵が多くなる期間があったとしても、その期間に天敵に食べられないような成長段階にあった害虫は生き延びて、絶滅を免れることができる。
・空間構造の効果
天敵が寄生する害虫を探索する際、天敵は効率よく寄生できる場所を探します。そのような場所とは、害虫が密集している場所です。
すなわち、天敵は害虫の密度が低いところでは、あまり寄生しません。
これによって、たとえある時、害虫が密集した場所の害虫が局所的に絶滅したとしても、他の場所では生き延びており、全体としては絶滅を免れます。
天敵と害虫の安定のメカニズムはこのような機構から起こっているようです。
省農薬みかん園では、害虫の密度は非常に安定しています。例えばヤノネカイガラムシで言えば、冒頭で述べたツヤコバチが安定に大きく貢献しているようです。安定のメカニズムとしては、少なくとも「Refuge spaceの存在」はあるようです。
市岡先生によれば、省農薬みかん園のこの状況は、これからも変わらず続くだろうとのことです。
個人的に興味が湧いたのは、ヤノネカイガラムシとイセリアカイガラムシの発生の様子の違いの理由です。(イセリアにはベダリアテントウという天敵がいます。)
ヤノネカイガラムシは、散らばって発生していることが多く、イセリアカイガラムシはほとんどいませんが、発生するときには密集して発生している気がします。
市岡先生によると、
・そもそも、発生の密度が違うので、イセリアカイガラムシの方が密集しているように感じる。
・ヤノネは、柑橘にしかつかないのに対し、イセリアは他の木でもつくので、省農薬みかん園の外で発生したイセリアが入ってきて、局所的に発生している。
などの理由が考えられるそうです。
調べてみると、面白そうです。
以上、ゼミの報告でした。
市岡孝朗先生、お忙しい中ありがとうございました!
今回は農薬ゼミのOBである、京大の地球環境学堂の市岡孝朗先生に来ていただき、天敵によるカイガラムシの防除の話をしていただきました。
省農薬みかん園の、害虫の中心的存在であるヤノネカイガラムシとその天敵のヤノネキイロコバチとヤノネツヤコバチの具体例を交えながら、害虫と天敵の安定性について内容を話して下さいました。
以下で簡単に内容を紹介します。
害虫を天敵によって防除することは、簡単なことではありません。
まず、天敵が導入する場所の生態系を壊さないことは大前提です。
次に、対象の害虫くらいにしか影響を及ぼさない天敵だとしても、導入してすぐにその場所から絶滅してしまったのでは意味がありません。
天敵がその場所で、安定して存在するためには対象の害虫も安定して存在してもらわなければならないのです。かといって、大発生したのでは、天敵を導入した意味が無いので、少ない密度で安定して存在する必要があります。
では、どういった場合に安定して存在するのでしょうか。以下で簡単にそのメカニズムを説明します。
*害虫と天敵の安定性のメカニズムは未だに分かっていないことが多くあり、以下で述べるメカニズムは実際は働いてないかもしれません。(当然、天敵と害虫の種によっても異なってきます。)
・Refuge space の存在
害虫が天敵から隠れられる場所が存在し、そこにいる一部の害虫が生き残ることで、害虫の絶滅が防がれる。
例えば、ヤノネカイガラムシでいえば、他のヤノネの個体の下に潜ることで、ハチから認識されなくなり、生き残れる。ただし、潜ることによって葉から取れる栄養が少なくなったり、上の個体の影響で大きくなれなかったりとデメリットもある。
隠れられる場所の他にも、他の生物に守ってもらえる場所もあり、その生物にメリットとなるようなものを提供している。
・Life history による逃避
天敵が害虫を捕食できる期間は限られていて、害虫はすべての成長段階で、捕食されるわけではない。
これによって、一時的に天敵が多くなる期間があったとしても、その期間に天敵に食べられないような成長段階にあった害虫は生き延びて、絶滅を免れることができる。
・空間構造の効果
天敵が寄生する害虫を探索する際、天敵は効率よく寄生できる場所を探します。そのような場所とは、害虫が密集している場所です。
すなわち、天敵は害虫の密度が低いところでは、あまり寄生しません。
これによって、たとえある時、害虫が密集した場所の害虫が局所的に絶滅したとしても、他の場所では生き延びており、全体としては絶滅を免れます。
天敵と害虫の安定のメカニズムはこのような機構から起こっているようです。
省農薬みかん園では、害虫の密度は非常に安定しています。例えばヤノネカイガラムシで言えば、冒頭で述べたツヤコバチが安定に大きく貢献しているようです。安定のメカニズムとしては、少なくとも「Refuge spaceの存在」はあるようです。
市岡先生によれば、省農薬みかん園のこの状況は、これからも変わらず続くだろうとのことです。
個人的に興味が湧いたのは、ヤノネカイガラムシとイセリアカイガラムシの発生の様子の違いの理由です。(イセリアにはベダリアテントウという天敵がいます。)
ヤノネカイガラムシは、散らばって発生していることが多く、イセリアカイガラムシはほとんどいませんが、発生するときには密集して発生している気がします。
市岡先生によると、
・そもそも、発生の密度が違うので、イセリアカイガラムシの方が密集しているように感じる。
・ヤノネは、柑橘にしかつかないのに対し、イセリアは他の木でもつくので、省農薬みかん園の外で発生したイセリアが入ってきて、局所的に発生している。
などの理由が考えられるそうです。
調べてみると、面白そうです。
以上、ゼミの報告でした。
市岡孝朗先生、お忙しい中ありがとうございました!