六畳の神殿

私の神さまは様々な姿をしています。他者の善意、自分の良心、自然、文化、季節、社会・・それらへの祈りの記。

ハイラルのロバ

2005年04月13日 | 文化・社会
 先週のある日。夕飯時に、見たいTV番組が地上波では何もなかったので、スカパーのスイッチを入れた。チャンネル桜を流していたら、天安門事件の時の写真が放送された。

 ・・あらかじめ警告があったのに、ヘラヘラとそのまま見続けてしまった私が愚かでした・・ものすごい写真・・(--;)戦車に轢かれると人はあんなになっちゃうのね~~~げろりろりーん・・
 私は子どものころから、昆虫はダメだけど脊椎動物なら大抵の映像は平気、医学的なナマナマしい写真も面白がっちゃう方でした。だから大丈夫だと思ったんだけど・・あ゛~忘れてた~、私、スプラッタ系の映画はダメだったんだ~・・
 その後丸二日、忘れようと懸命に努力しました(^^;)花とか木々とかダーリンの笑顔とか、美しいものをイッパイ見て、あの画像を記憶から消し去るんじゃ~!!!

 そうだとは思っていたけど、やっぱりあの日、天安門ではあんな事になってたのね・・。

 大学在学中は、何人もの中国人留学生と研究室で机を並べた。みんな真面目で向学心にあふれ、同級生たちより格段に優秀で、誇りに満ち、素朴で優しい人ばかりだった。
 だから彼らの生まれた「中国」という国を悪く思いたくない。本当に「仲の良い隣国」「素晴らしい隣人」であって欲しいと願う。

 でも現実は、こうなのだ。

 すごく残念で、悲しい。
 北朝鮮の現政権もそうだけど、人として、かの国の政権の「人道に対する感覚の低さ」を、ただ傍観して怒り悲しむしか今の私には手立てが無いのが、本当に切ない。

 ・・歴史認識と同じで「いま、ここ」の立場からの価値判断で相手を断罪していいのかどうか、それはわからない。そんなめんどくさい事、一般庶民は考えてられっか☆と思うのも確かだ。「人として非道は非道」そうすっぱり割り切って先方を糾弾できたら、どんなにキモチイイかと思う。迷わず行動できたら、もっとキモチイイと思う。
 でも。
 キモチイイの先に「戦争」という落とし穴が黒々とした口を開けて待っているのではないか・・?
 それが何より悩むところ。人として善くあろうとして、人として最大の罪を自らに招き寄せるのはごめんだ。
 
 ・・にしても、日本政府もマスコミもへっぽこだ。中国がそーゆー国だからって、ダライ・ラマ14世の訪日を見てみぬふり、ろくに報道もしないってどーゆーコトなんだ。

 「あーゆー国」だから、なんだろうけど・・(--;)

 中国の問題を考える時、いつも脳裏に、内蒙古自治区ハイラルの街角で出会った驢馬(ロバ)のことが浮かんでくる。

 学術調査のお手伝いボランティアとして初めてその街を訪れた私は、自由行動の時間に何人かと連れ立って、人でごったがえす市場や商店街を観光してまわった。明るい日差し、吹き抜ける異国の風、空にはアマツバメ、行きかう人々の息遣い。
 楽しい気分だった。信号で立ち止まり、ふと見ると、荷車をつけて車道にじっと佇むロバがいた。

 あー、何かなつかしい光景だなぁ。
 私が子供の頃は(田舎だったので)荷車を引いた馬がアスファルトの上を通っていったこともあったっけー。あの当時すでに労役をこなす馬を見るのはかなり珍しくなっていたけど、ここではまだこういう光景が日常なんだー・・

 そう思って私は何気なく、手をロバの方に差し伸べた。ボーっと無表情にうつむいている灰色の鼻面を撫でてやろうと思ったのだ。

 しかし触れるどころか、まだ「安全距離」(30~40cmくらい?)なのに、ロバは無表情のまま歯を剥いてみせた。

  ( さわるな ) 

 私はハッとして手を引っ込めた。

 噛まれる危険を感じるほどではなかった。私の手の動きは多分、私とロバしか見ていなかった。だから「なぜか歯を剥いた」事を見咎めて、持ち主の中国人はロバをどやしつけた。ロバはうなだれたまま、全くの無表情に戻った。

 ごめんよ、ロバ。
 私が手を差し伸べたせいで、よけいな折檻を受けてしまったね。

 たとえば猫と同じ布団に眠り、犬にブランド服を着せて愛情を競う。そんな平和ボケの国から来たから、私は動物が・・いや、少なくとも家畜だから、人の愛情を素直に受け入れ喜ぶだろう、という先入観を持った。それがいかに甘いかを、この出来事で思い知らされた。
 日頃どう過ごしているかを知らずに手を出した「私の甘さ」が、あのロバの「人間への憎悪」を助長したことは疑いようがない。
 
 翻って今の日中関係。
 甘アマな日本人は「貧困や圧制の鬱憤晴らし」に使われる反日感情のからくりを、正確に把握しているだろうか?天安門の写真に代表される中共政権の人権意識の低さを本当に解って対中関係を取り結んでいるだろうか?
 「日本人の甘さ」が関係悪化につながる事がないよう、しっかり相手の事を理解して問題に対処する必要があると思う。