バックパッカーをして中国大陸を放浪していた頃、靴下が擦り切れてしまったので、四川省の成都で新しい靴下を一足買った。街角の露店にならべてあったのをたしか五元(約七〇円)で買ったと思う。
安物だからどうせ色落ちするだろうと思い、洗面器に靴下だけを入れて洗ってみたら、案の定、洗面器の水はみごとな群青色に染まる。洗面器の底が見えない。洗面器につけていた指も群青色になる。ほかの汚れ物といっしょに洗濯しなくてよかったと僕は胸をなでおろした。Tシャツが群青色に染まるところだった。
三四回洗濯すれば色落ちもおさまるだろうと高を括っていたのだけど、甘かった。さすがにもう一面群青色になることはなかったけど、七八回洗濯してもまだ色が落ちる。
その靴下だけ別にして洗うのもだんだん面倒臭くなったし、いつまでも群青色に染まる液体に手を浸して洗濯するのも怖くなってしまったから、その靴下を捨て、成都の繁華街にあるイトーヨーカ堂へ行って新しい靴下を求めた。二十数元(約三百円)したけど、やはり日系スーパーのイトーヨーカ堂の棚にならべているものだけあって質はよかった。第一回目の洗濯でも色落ちすることはなく履き心地もよい。安物買いの銭失いとはこのことだ。
それにしても、あの五元の靴下はいったいどんな染め方をしていたのだろう?
(2012年7月21日発表)
この原稿は「小説家なろう」サイトで連載中のエッセイ『ゆっくりゆうやけ』において第189話として投稿しました。 『ゆっくりゆうやけ』のアドレスは以下の通りです。もしよければ、ほかの話もご覧ください。
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