風になりたい

自作の小説とエッセイをアップしています。テーマは「個人」としてどう生きるか。純文学風の作品が好みです。

花は愛されるために

2016年10月31日 07時15分15秒 | 詩集

 ねえ君
 闇は
 いくらつんばんでみたところで
 闇でしかないんだよ
 窓を開けてごらん
 季節の花が揺れている

 うららかな陽射しに
 さやかな月の光に
 やさしくそよぐ風に 
 物言わずたたずむ朝露に
 花は
 愛されるために
 咲いている

 人の命も
 きっとおなじ
 命はどれも
 みんなおなじ
 君だって
 愛されるために
 生まれてきた
 季節の花々が
 愛されるように

 悲しみの数を
 かぞえるくらいなら
 愛された数を
 指折り
 かぞえてみてごらん
 なにげないやさしさだって
 愛にはちがいないさ

 ねえ君
 涙は
 いくらついばんだところで
 消え去ることはないんだよ
 扉をあけてごらん
 愛してくれる人を
 探しにでかけよう

 愛して愛される
 その人は
 必ずそばにいる
 まだその人に
 気づいていないだけ
 君を愛するその人は
 いつでもそばにいるから


旅暮らし

2016年10月29日 06時15分15秒 | 詩集

 さびしいから旅をするのさ
 わかってくれる誰かに
 出会いたくて旅へ出るのさ

 若い頃は
 この国はどうしようもない
 なんてうそぶいていたけど

 ただ強がってみせてただけなんだ
 ほんとうは心が空っぽだったんだよ


 せつないから旅をするのさ
 わかってあげられる誰かに
 出会いたくて旅へ出るのさ

 若い頃は
 サヨナラだけが人生だ
 なんてうそぶいていたけど

 自分を決めてしまうことが
 怖かっただけなんだ
 ほんとうは臆病なだけだったんだよ


  いろんな人に会った
  いろんなことに出くわした
  僕には足りないものが多すぎるから
  転がり続けて旅をしてきた

  どこかへたどり着けたら
  それはそれ
  どこへもたどり着けなかったら
  それもそれ
  足りないなにかをうめるために
  旅を続けるだけ


 さびしいから旅をするのさ
 わかってくれる誰かに
 出会いたいのさ
 わかってあげられる誰かに
 出会いたいだけなのさ


オルゴール

2016年10月27日 06時45分45秒 | 詩集

 夜の待合室
 誰もいない駅
 裸電球がわびしく灯る
 君はオルゴールを膝に抱えて
 僕は切符を握りしめて

 翼の折れた天使が歌う
 哀しい調べ 別れのメロディー
 愛になるようでならなかった恋
 大切なものを見ようとしなかったね
 オルゴールはささやきかける

 ガラス窓の外
 白けた闇の底
 貨物列車が駆け抜ける
 レールが軋む
 風が軋む
 心が軋む
 窓の木枠がことこと鳴り
 すきま風がスカートを揺らした
 君はオルゴールを巻き直す


 迷い込んだ仔犬が
 黙りこくった僕たちを見上げ
 物欲しそうに尻尾を振った
 あげられるものは
 なんにもないんだよ

 翼の折れた天使が口ずさむ
 物憂い調べ さよならのメロディー
 愛を裏切り続けてしまった恋
 君と見た夢を嘘だと思いたくないけど
 嘘だと決めつけたくはないけれど

 月の浮かぶ闇の果て
 閉ざされた世界の淵
 夜汽車の汽笛が鳴り響く
 光が砕ける
 時が砕ける
 思い出が砕ける
 ボストンバックを握りしめ
 立ち上がった僕に
 「このほうがいいのよ」
 うつむいたままつぶやき
 君はオルゴールを巻き直す

とおりゃんせ

2016年10月25日 06時15分15秒 | 詩集

夢から醒めたら
とおりゃんせ
ここを過ぎて
悲しみの町

自分の影に
つまづいて
くちずさむ
祭りの後

 とおりゃんせ
  とおりゃんせ
   とおりゃんせ


恋から醒めたら
とおりゃんせ
星が流れる
悲しみの町

あこがれ ときめき
消え失せて
うずくまる
祭りの後

 とおりゃんせ
  とおりゃんせ
   とおりゃんせ


 崩れた思い出
 そっとつまんで
 ため息のうえに
 積み上げる
 砂より
 もろいのは愛
 生きるのが怖いと
 識(し)った夜


 とおりゃんせ
  とおりゃんせ
   とおりゃんせ

 とおりゃんせ
  とおりゃんせ
   とおりゃんせ



コスモスが咲いたから

2016年10月23日 22時30分30秒 | 詩集

 それにしても秋の風
 ぼくの心を吹きぬける
 荷馬車はごろごろごっとん
 石畳の道を走ります
 ぴかりきらきら光るのは
 教会の十字架
 祈りの鐘が響きました
 気持ちのいい秋の風です

 人影もまばらな
 軽便鉄道のちいさな駅
 丸太を積んだ貨車が
 引き込み線でちょいとうたた寝
 陽射しを浴びてほほえむのは
 薄桃色のコスモスたち
 ホームの植えこみに仲良く並び
 ゆれるように
 さざめくように
 ぼくはきみの笑顔を思い浮かべ
 きみの髪に飾りたくなりました

 空は青
 空は秋
 丸くまるく
 どこまでも丸く
 気がかりも心配ごとも
 なんにもなくて
 きみがそばにいた頃は
 こんな気持ちでいたことを
 ふと思いだしたりして
 空よ
 深い空よ
 もっともっと
 まあるくなあれ

 ホームのはしからはしまで
 行ったりきたり
 時計の針はいつも意地悪
 楽しい時は
 あっというまに
 進んでしまって
 待っているあいだは
 のろのろかたつむり
 思い出へ戻りたくても
 逆さには進まない

  あの日ぼくたちは
  指切りをした
  コスモスの咲くころ
  またふたりになって
  いっしょに暮らそうと
  きみを待ったのは
  待ちたいから
  きみを信じたのは
  信じたいから
  きみを愛したのは
  愛したいから
  ぼくの大好きな人だから
  ただひとりの人だから

 それにしても秋の風
 運んでくるのは
 蒸気機関車の響き
 シュポシュポシュポポ
 シューポッポ
 黄色く色づいた畑のむこうに
 プチ機関車が現れます
 この日をどれだけ待っただろう
 日めくりカレンダーを
 どれだけちぎっただろう
 ぼくは胸がいっぱいになって
  きみが帰ってくる
   きみが帰ってくる
    きみが帰ってくる

 車輪がゆっくりになって
 汽車はホームにとまります
 山羊を乗せた屋根付き貨車
 マッチ箱みたいな短い客車
 機関車は湯気を吐いて一休み
 運転手のおじさんも
 パイプをくわえて一休み
 籠を背負った行商のおばさん
 シルクハットを
 かぶったおじいさん
 灰色の僧服を着たシスター
 みんなぞろぞろ降りてきます

 きみはどこ?
 すこしあせったとき
 なつかしい声が
 ぼくを呼びとめます
 クリーム色のつばひろの帽子
 丸襟のブラウス
 胸のふくらみ
 この町を出て行ったときと
 おんなじほほえみ
 右のえくぼもあの日のまま
 ぼくは息がとまって
 きみをただ見つめました
 おかえりなさい
 こんなところで
 抱きしめてもいいのかな

 それにしても秋の風
 ぼくの心を吹きぬける
 それにしても恋の風
 ぼくの心を吹きぬけた


カリブ海へ売られた若者(連載エッセイ『ゆっくりゆうやけ』第336話)

2016年10月01日 06時15分15秒 | 連載エッセイ『ゆっくりゆうやけ』
 
 中国人のある船乗りの若者が中国のある会社と労働契約を取り交わした。
 若者はスペインへ行き、そこでコンテナ船に乗り込むはずだった。若者は会社の手配した飛行機に乗り、フランクフルト経由でスペインへ向かったはずだった。
 しかし、着いたのは小さな島。でも、町の名前はスペインシティ。なにかがおかしい。もっとおかしいのは、タコ部屋へ放り込まれ、木造船に乗って漁へ行かされたことだ。
 若者は持ってきたなけなしのお金で中国の家族へ電話をかけた。
「お兄ちゃん、僕はどこにいるのかわからないよ。船乗りになるはずだったのに、漁師をさせられているんだ。コンテナ船なんてどこにもないよ」
 家族は電話会社にどこから電話がかかってきたのか、調べてもらった。カリブ海に浮かぶある島から電話がかかってきたことがわかった。家族は慌てた。若者は苦力(クーリー)として売られてしまったのだ。奴隷売買とおんなじことだ。
 若者から家族へまた電話がかかってきた。
「お兄ちゃん、僕がどこにいるのかわかった?」
「スペインじゃない。カリブ海だ。中米のあたりだよ」
「ええ? やっぱりスペインじゃないの?」
「スペインシティというのは町の名前がそうなっているだけで、ぜんぜん別の国だ。早く帰ってきなさい」
「そんなこと言われても、ここの言葉もわからないし、お金もないし、どうしようもないよ。助けてよ」
 同じように売られた中国人の若者がほかにも二人いた。若者の家族は、他の家族と相談していっしょにその奴隷売買会社へ行った。出てきたのはヤクザだった。
「返せだって? そいつは契約違反だろ。できないね。一生そこで漁師をするっていう契約書にサインしたのは誰だね? え?」
 ヤクザは署名済みの契約書を見せてすごむ。
「お前たちが弟を騙したんだろ。家族を返せ!」
 家族はヤクザと交渉し、数万元のお金を払って奴隷売買会社に航空チケットを手配させて家族を送り返させることになんとか同意させた。ただ、他の一家族は、
「騙されたのが悪いのだから、お金は払わない」
 と言ってそのまま息子をカリブ海に置き去りにすることにした。たぶん、それだけのお金を用意できなかったのだろう。もしかしたら、その彼は今でもカリブ海で漁師をしているかもしれない。
 若者はタコ部屋から放りだされ、三日間野宿した後、飛行機に乗って中国へ帰ってきた。今ではまともな船会社に就職して元気に船乗りをしている。
 帰ってこられたからよかったようなものの、下手をすれば一生カリブ海で奴隷をするところだった。
 船乗りの契約をする時は、労働契約書をきちんと読みましょう。
 


(2015年10月24日発表)
 この原稿は「小説家なろう」サイトで連載中のエッセイ『ゆっくりゆうやけ』において第336話として投稿しました。
 『ゆっくりゆうやけ』のアドレスは以下の通りです。もしよければ、ほかの話もご覧ください。
http://ncode.syosetu.com/n8686m/


ツイッター