風になりたい

自作の小説とエッセイをアップしています。テーマは「個人」としてどう生きるか。純文学風の作品が好みです。

我が家の豆乳鍋(連載エッセイ『ゆっくりゆうやけ』第411話)

2018年11月23日 15時15分15秒 | 連載エッセイ『ゆっくりゆうやけ』

 上海の下町っ子の奥さんは毎日のように日本のドラマをネットでダウンロードして観ている。

 数か月前、奥さんがある日本のドラマを観ていて、

「おいしそう」

 と叫んだ。なにかなと思ってみてみると、ドラマのなかで登場人物たちが鍋をつついている。豆乳鍋だった。

 さっそく奥さんは自分で豆乳鍋をこさえた。おいしかったので、それから二週間に一回くらいのペースで豆乳鍋を作って食べている。

 まずはなんといってもおいしい豆乳が必要だ。豆乳がまずければすべてが台無しになる。スーパーで有機大豆を買ってきて、それをミキサーにかけて自家製の豆乳を作る。中国人は豆乳が好きだ。街角ではあちらこちらで売っているし、自分で作る人も結構いる。奥さんはよく自分で豆乳を作って飲んでいる。値段はいささか張ってしまうけど、有機大豆で作った豆乳はおいしい。一度、特売品の安い大豆で豆乳を作ったことがあったのだけど、奥さんも僕もお腹を壊してしまった。奥さんによれば、中国で売っている安い大豆は遺伝子組み換え品種であることがよくあるから気を付けたほうがいいのだとか。その大豆が遺伝子組み換えのものだったのかどうかはわからないけど、ともかく安い大豆は体に悪いからやめておいたほうが無難なようだ。

 具材は、牛肉、羊肉、エビ、豆腐、青梗菜、香草、魚肉団子、ベビー白菜といったものをそろえる。

 牛肉、羊肉は薄切りのもので、煮えた豆乳のなかに入れてしゃぶしゃぶにする。牛肉はいいとして、羊肉は独特の臭みがあるから好みがわかれるかもしれない。中国ではどこでも羊肉が手に入るし、レストランでも羊肉のメニューを置いてあるところがけっこうある。日本では一度しか食べたことがなかったけど、中国で暮らすようになってから食べる機会がわりとあったので、僕は慣れてしまった。おいしいと思う。豆乳鍋でしゃぶしゃぶした牛肉や羊肉を日系スーパーで買ってきたポン酢にちょっとつけて食べる。

 ベビー白菜はやわらかくておいしい。香草パクチーも好みがわかれるところだろう。日本人には苦手な人が多い。ずっと昔、タイ旅行へ行った時、レストランでサラダを頼んだら、皿の半分に生香草が山盛りになって出てきた。これを食べるのかあと一瞬ひるんだのだが、もったいないのでむしゃむしゃとむさぼったら、それで香草の味に慣れてしまった。積極的に食べたいとは思わないけど、出てきたらきちんと平らげる。

 魚肉団子はスーパーで売っているものを適当に買ってくる。イカのすり身を団子にしたものが好み。

 梅酒をちびちび飲みながら豆乳鍋に舌鼓を打ち、最後はうどんで締める。うどんも街中の日系スーパーで売っている。上海は便利だ。日本の食材がある程度手に入る。豆乳で煮たうどんを食べるとしあわせな気分になれる。

 というわけで、今夜は豆乳鍋でした。おいしかった。





(2017年11月5日発表)
 この原稿は「小説家なろう」サイトで連載中のエッセイ『ゆっくりゆうやけ』において第411話として投稿しました。
 『ゆっくりゆうやけ』のアドレスは以下の通りです。もしよければ、ほかの話もご覧ください。
http://ncode.syosetu.com/n8686m/


うまれてきたわけがある

2018年11月17日 20時05分05秒 | 詩集

 花は見上げる
 夜空の星
 いつかいつの日か
 愛されたい
 うまれてきた
 わけがある

 鳥は眠る
 夜のしじま
 いつかいつの日か
 夢を飛びたい
 ここにいる
 わけがある

 風はそよぐ
 銀色の波間
 いつかいつの日か
 しあわせの歌を
 うまれてきた
 わけがある

 月は眼を閉じる
 雲に抱かれ
 いつかいつの日か
 悲しみを越えて
 ここにいる
 わけがある



取り戻す言葉

2018年11月11日 07時15分15秒 | 詩集

 変わらないでいるために
 新しい道を探してみる
 変わらない言葉を
 取り戻すために
 新しいことを始めてみる

 怒りや憤りを通り越し
 諦めも通り過ぎたら
 なにを言いたかったのか
 なにを想っていたのか
 忘れてしまった
 大切な言葉は
 ずっとそばにいるはずなのに

 すべてを
 忘れてしまってからでは
 遅すぎるから
 もう取り戻せなくなるから
 あたたかいぬくもりを
 失くしたくはないから

  取り戻す心
  取り戻す夢
  取り戻す詩(うた)
  取り戻す言葉

 大切な言葉を
 取り戻すために
 今ここから
 もう一度やり直してみる
 今日と同じ
 明日のためにではなく
 永遠を目指す
 新しい明日のために


オカリナの頃

2018年11月04日 07時15分15秒 | 詩集

 雲ひとつない晴れた朝
 君の夢で目覚めたよ
 穏やかな光につつまれて
 君はさよならと言った

 あれからどれくらい経ったのだろう
 季節を幾つ 数えたろう
 今頃ようやく気づいたんだ
 君が大好きだって

  窓を開ければ冷たい風
  僕の頬を撲つ
  君の名前を呼ぶ癖も
  今日限りでさよなら

 あゝ 秋は君が想い出に
 想い出に変わる季節
 あゝ 君と僕の物語
 青い空へ消えてく


 君がつくったオカリナを
 久しぶりに吹いてみるよ
 最後のけんかをした夜から
 おきざりにしたままだった

 こんなにやさしい音色だったんだね
 君の声が聞こえるよ
 僕のわがままを許してね
 きっとしあわせになってね

  空に届け このメロディー
  愛を風にのせて
  僕に似合いの夢を探そう
  輝く陽射しを抱きしめ

 あゝ 秋は君が想い出に
 想い出に変わる季節
 あゝ 君と僕の物語
 青い空へ消えてく



星から吹く風は

2018年11月01日 18時15分15秒 | 詩集

 星から吹く風は
 頬に心地よく
 変わることを
 恐れるなと
 やさしく
 僕に告げる

 風にかたちが
 ないように
 心にも
 人生にも
 決まったかたちなど
 ないのだから

 悲しませないようにと
 考えすぎて
 いつのまにか
 君を落ちこませていた
 愛はもっと強いもの
 なんだよね

 星が誘う
 ぼくらの旅路
 ひんやりとした風が
 夢をまき散らす
 澄んだ夜を越えて
 きらめく星々を
 くぐり抜けて

 かけがえのないのは
 君ばかり
 愛おしいのは
 君ばかり
 変わり続けるなかで
 ふたりのしあわせを
 抱きしめる

 星から吹く風は
 頬に心地よく
 変わってゆけと
 怖がるなと
 心静かに
 僕を諭す


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