風になりたい

自作の小説とエッセイをアップしています。テーマは「個人」としてどう生きるか。純文学風の作品が好みです。

用貪官、反貪官 (連載エッセイ『ゆっくりゆうやけ』第435話)

2020年09月01日 05時30分15秒 | 連載エッセイ『ゆっくりゆうやけ』
「貪官(どんかん)」は収賄をするなどして、私利をむさぼる不正な役人という意味、つまり、汚職官僚、腐敗官僚だ。「用貪官、反貪官」は、汚職官僚を使って仕事をさせ、都合が悪くなったら、反腐敗キャンペーンによってその汚職官僚を取り除くという意味だ。
 大きなポストには大きな利権を与え、小さなポストには小さな利権を与え、仕事をさせる。利権があるから、その人は喜んで仕事をする。役得で大儲けしようと仕事に励む。昔の中国では、「清官三代」と言われ、それほど強欲に賄賂を貪らない官僚でも地方長官をやれば、三代――つまり孫の代まで食べていけるだけの財産を蓄えられたという。「清官」とは、本来、清廉潔白で賄賂を取らない官僚という意味だが、ここでは賄賂の取り方が適正(あまり欲張らない)ということらしい。高級官僚は必ず途方もない賄賂を取るということだ。
 この「用貪官、反貪官」は役所だけではなく、中国の国営企業でも民間企業でも広く行われている。役所でも企業でも、役職の権限を使って賄賂を取れるところには必ずといっていいほど腐敗がある。給料よりも裏の役得の収入のほうが多いこともしばしばだ。中国人が勤め先のポストを争うということは、裏の利権を誰が握るのかを争うということになる。自然とその争いは激しいものになる。
 中国の組織におけるトップはこの裏の利権の調整がうまい人でないと務まらない。利権を上手に配分して皆から不平が出ないようにしなければならない。下の不平不満がたまるとトップの身も危うい。逆に、トップが気に入らない人間を取り除こうと思えば、「あいつは汚職をした」と糾弾すればいい。誰かが汚職を理由に懲戒処分になったり解雇されたら、それは単に権力闘争に敗れたということにすぎない。トップはもっと大きな裏の利権を持っているのだから。
 なかなか一筋縄ではいかない国だ。


(2018年12月22日発表)
 この原稿は「小説家なろう」サイトで連載中のエッセイ『ゆっくりゆうやけ』において第435話として投稿しました。
 『ゆっくりゆうやけ』のアドレスは以下の通りです。もしよければ、ほかの話もご覧ください。
http://ncode.syosetu.com/n8686m/

ツイッター