風になりたい

自作の小説とエッセイをアップしています。テーマは「個人」としてどう生きるか。純文学風の作品が好みです。

超能力で直ったプラレールの電車(連載エッセイ『ゆっくりゆうやけ』第457話)

2021年08月12日 12時47分27秒 | 連載エッセイ『ゆっくりゆうやけ』


 子供の頃、スプーン曲げで一世を風靡した超能力者ユリ・ゲラーのテレビ番組を観たことがあった。ユリ・ゲラーが来日し、生放送で透視術や念動力といった超能力を次々と披露する。番組が大詰めを迎えたところ、ユリ・ゲラーは、
「壊れた電化製品を手に持ってテレビの前に坐ってください。これから念力を送って直します」
 という。
 一緒にテレビを観ていた弟は、急いでモーターが壊れたプラレールの電車を持ってきて、テレビの前に座った。弟は欲張って両手にプラレールの電車を持ち、さらに右手と左手に持った電車の間に、もう一両の電車を挟んで、計三両のプラレールの電車を持った。
 僕は超能力を信じなかったので、手ぶらのままなにもせずにそのままぼんやりとテレビを観た。僕は友達とスプーン曲げを試したことがあったのだけど、みんな簡単に曲がった。スプーンを擦った時の摩擦熱で曲がっただけのことだ。超能力でもなんでもない。スプーンが曲がるのは楽しかったけど、超能力ではないと知ってちょっぴりがっかりした。
「みなさん、手に持った電化製品が直りますようにと念じてください」
 テレビ画面の中の超能力者ユリ・ゲラーが厳かに言って念力を送る。弟は目を瞑って念じる。プラレールが直りますようにと口の中でぶつぶつとつぶやく。
 ユリ・ゲラーがさあ直りましたと言った後、さっそく、壊れたはずのプラレールの電車のスイッチを入れてみた。
 なんと、弟が右手と左手に握っていた二両の電車が走り出した。右手の電車と左手の電車の間に挟んでいた電車は動かなかった。ユリ・ゲラーの言った通り直接手に持った電車だけが直った。諦めていたプラレールの電車が超能力で直って弟は大はしゃぎだった。
 この一件があってから、僕は超能力をすこしだけ信じるようになった。トリックを使ってテレビの向こう側からプラレールの電車を直せるはずがない。特殊な能力を持っている人がいることはいるのだと思う。
 なんとも不思議な夜だった。




(2019年9月1日発表)

 この原稿は「小説家なろう」サイトで連載中のエッセイ『ゆっくりゆうやけ』において第457話として投稿しました。
 『ゆっくりゆうやけ』のアドレスは以下の通りです。もしよければ、ほかの話もご覧ください。
http://ncode.syosetu.com/n8686m/

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