風になりたい

自作の小説とエッセイをアップしています。テーマは「個人」としてどう生きるか。純文学風の作品が好みです。

夢語り

2018年05月09日 08時15分15秒 | 詩集

 季節の花が咲くように
 こころに夢が
 咲けばいい
 風を頬に感じるように
 胸の奥に咲いた夢を
 感じればいい

 夢の形を摑むことは
 できなくても
 夢は確かに存在する
 人は誰でも
 夢を想い
 夢を描き
 夢を語ることができる

  夢を忘れた時
  人は悲しい眼をした
  亡霊になる
  こころは
  恵みに見放された
  曠野をさまよい
  傷つけ
  傷つき
  血の涙を流すだけ
  阿修羅の道

 遥かな夢を
 忘れないで
 遠くに思えても
 疑わないで
 夢が
 夢だけが
 よろこびを形作る

 夢の息吹を
 身近に感じて
 夢のゆらめきを
 しっかり見つめて
 夢のふるさとへ
 歩き続けて

 夢はこころに
 内面を与える
 夢はこころに
 奥行きを与える
 夢はこころに
 鼓動を与える


奈良公園の鹿に噛まれた姪っ子

2018年05月03日 07時15分15秒 | 連載エッセイ『ゆっくりゆうやけ』

 上海人の奥さんの姪っ子が学校の手配した旅行で日本へ行き、東京、京都、奈良を回っている。姪っ子は高校三年生。もうあと数か月で卒業だ。
 浅草や秋葉原へ行ったり、京都の寺町通を歩いたりと楽しそうな写真を送ってきていたのだが、突然、奈良で鹿に噛まれたと奥さんに知らせてきた。姪っ子は肘を噛まれ、スカートも食いちぎられて穴が開いてしまったそうだ。
「奈良の鹿はほんとに悪いわねえ」
 奥さんは楽しそうに言う。
 以前、日本へ帰った時、奥さんを奈良へ連れて行ったことがあった。奥さんは鹿がお辞儀をしてせんべえをねだったり、すり寄ってきてもせんべえがないのがわかるとそっぽを向いたりするのを見て喜んだ。鹿のずる賢いところがいたく気に入ったようだ。なかなかやるじゃないかというわけだ。
「奈良の鹿はそんなに人を噛むの?」
 奥さんは僕に訊く。
「噛まないよ。僕は幼稚園の頃から何十回も奈良公園へ遊びに行ったけど、噛まれたことなんて一度もないよ」
 僕はどうして噛まれるのか不思議に思い首をひねった。僕が子供の頃に住んでいたところでは、小学校、中学校、高校と遠足で奈良へよく行った。家族で奈良公園へ遊びに出かけるのも定番だった。鹿に噛まれたことは一度もないし、周りで噛まれたという話を聞いたこともない。子供の頃、奈良へ行くとわくわくした。楽しかった。
 微信(中国版LINE)で、彼女が鹿と遊んでいる様子を摂った動画が送られてきたので、奥さんといっしょに観た。彼女の同級生が撮影したらしい。
 鹿にすり寄られた姪っ子は「うわっ」と歓声をあげながら、鹿せんべいを手に掲げたままゆるゆると逃げた。当然、鹿は追いかけてくる。鹿は姪っ子を引き留めようとしてスカートをくわえ、さらに姪っ子の手にしたせんべいを食べようとして彼女の肘を噛んでしまったのだ。
「そら、こんなことをしたらあかんわ」
 僕はため息をついて言った。
「鹿にせんべいをあげてそれを食べている間にさっと逃げるか、それとも寄ってきた鹿にいさぎよく全部あげてしまうかしないと」
 姪っ子の周りでは、彼女のクラスメートたちが鹿の鼻先でせんべいをちらつかせながらせんべいをくわえようと首を伸ばす鹿の写真を撮ったりする姿も映っていた。危険な行為だ。鹿をじらせてはいけない。
 義母や義姉が鹿に噛まれても大丈夫なのかと訊いてくる。口蹄疫や狂犬病に感染するのではないのかと心配したのだ。
「三日くらいしたら角が生えてくるかもね」
 と僕は冗談を言ってなごませ、
「病気になったりしないよ。奈良公園の鹿からなにかに感染病をうつされた人はいないから。心配しないで」
 と安心させた。姪っ子へは日本の消毒薬の名前を書いて送り、これを薬局の店員さんへ見せて買いなさいと伝えておいた。
「あのスカートは私が買ってあげたのよ。かわいいスカートなのに。あの子に絶対似合うと思って選んだのよ」
 奥さんは残念そうだ。
 僕は、姪っ子の様子を動画に撮っていた男子のクラスメートがなにくれとなく姪っ子へやさしげに話しかけているので、可愛い姪っ子に変な虫がついたのではないかと、むしろそちらのほうが気がかりだった。


(2017年4月9日発表)
 この原稿は「小説家なろう」サイトで連載中のエッセイ『ゆっくりゆうやけ』において第397話として投稿しました。
 『ゆっくりゆうやけ』のアドレスは以下の通りです。もしよければ、ほかの話もご覧ください。
http://ncode.syosetu.com/n8686m/


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