風になりたい

自作の小説とエッセイをアップしています。テーマは「個人」としてどう生きるか。純文学風の作品が好みです。

時のしずく

2018年06月23日 05時15分15秒 | 詩集

 時のしずくがわたしにしみる
 時のしずくが蒼い海になって
 わたしは自由に泳ぐ魚になる

  命の泉からわたしは生まれた
  限りない喜びや夢を
  たずさえて旅立ち
  癒せない悲しみを抱きしめながら
  いつの日か澄んだ泉へ還る

  はるかな時の流れを
  命は巡りめぐり
  繰り返し旅に出る
  命を清めるために
  命をまったきものにするために
 
  星々のまたたきは夢の道しるべ
  月の灯りは真理のささやき
  静寂に冴えた夜空は
  かわることなくとこしえに
  わたしを見守ってくれている

  与えられた命のために
  わたしは生きたい
  ほかのなにかのためにではなく
  ただひたすら
  この命を抱きしめるために

 時のしずくがわたしにしみる
 時のしずくが蒼い海になって
 わたしは自由に泳ぐ魚になる



国際格安航空券でかえって高くついた話(連載エッセイ『ゆっくりゆうやけ』第398話)

2018年06月19日 06時15分15秒 | 連載エッセイ『ゆっくりゆうやけ』
 上海在住の日本人の友人が日本の役所での手続きのために一時帰国した。その時、彼は日本のある格安航空会社のチケットを買った。往復で一五〇〇元だ。一般の航空会社のチケットなら往復二五〇〇元から三〇〇〇元強はするのでかなりお得なはずだった。

 彼は木曜日に上海から格安航空会社のフライトに乗って関空へ行き、金曜日は地元で手続きをすませ、土曜日に上海へ戻ろうとした。

 搭乗開始時刻になってカウンターの前に並んだ。しかし、いっこうに搭乗手続きが始まらない。一時間ほど立って待った挙句、その航空会社は上海側の天候理由によってフライトを取り消しますと通告した。

 そのフライトのキャンセル分の料金は返ってくるが、ほかのケアは一切なし。その航空会社は一日一便しか飛んでいないので、ほかの便への振り替えもなければ、市内への送迎もなく、かなり遅い時間だったが、もちろんホテルの手配などもなかった。なんのケアもしないから格安でチケットを売っているわけだけど。

 あいにく、土曜日の夜とあって大阪市内の安めのホテルはどこも満室。神戸行きのバスがまだ走っていたのでそれに乗って神戸三宮のホテルに泊まり、大急ぎでネットで翌日のフライトのチケットを買った。日曜日にまたキャンセルになれば困る。月曜日から仕事だ。それだものだから、一般の航空会社のチケットにした。

 結局、チケットを買いなおしたおかげで往復合計四五〇〇元くらいかかってしまった。ほとんど当日券を買う羽目になったから、帰りの便がえらく高かった。最初から一般の航空会社のチケットを買った場合に比べて、二、三万円高くついた計算だ。日曜日の別の航空会社の飛行機はきちんと飛んで、ぶじに上海へ戻ってこられた。

 飛行機がきちんと飛んでくれれば問題ないが、キャンセルになったら大変だ。主に国際線用の上海浦東空港も、主に国内線用の上海虹橋空港も過密スケジュールなので、いったんなんらかの原因で遅れが発生すると取り返しのつかない状況になることがしばしばある。とくに夜遅い便はキャンセルになりやすい。

 日本へ帰る時に格安航空会社の便にしようかなと考えたこともあったけど、キャンセルのリスクがあるから考え物だなと思った。時間に余裕がある時だったらいいけどね。


(2017年4月20日発表)
 この原稿は「小説家なろう」サイトで連載中のエッセイ『ゆっくりゆうやけ』において第398話として投稿しました。
 『ゆっくりゆうやけ』のアドレスは以下の通りです。もしよければ、ほかの話もご覧ください。
http://ncode.syosetu.com/n8686m/



地下鉄の片隅で

2018年06月15日 06時15分15秒 | 詩集

 満員電車
 朝の地下鉄
 四方八方から
 押されるのはつらいから
 僕は少しずつ位置を変え
 扉の脇
 ドアと座席の間の
 わずかな隙間へもぐりこむ

 僕は小さくため息をついて読みかけの
 サン=テグジュペリを開く
 誰にも邪魔されないよう背中を丸め
 少年そのままの
 詩人の息づかいに耳を澄ます

 電車がホームへ滑り込むたび
 どこかへたどり着きたい人たちが
 降りては乗ってくる
 どこへもたどり着きたくない人たちも
 どっと降りては乗ってくる
 濁った空気がかき乱れ
 僕はことりと咳をする

 どこかへたどり着きたいと
 心の奥底で切に願いながら
 心静かに熱い祈りを捧げながら
 どこへもたどり着きたくない人たちにも
 愛想笑いの日々
 時は手持ちぶさたに過ぎていく

 奪い合いをしているなどとは
 思いたくもないけれど
 生活の糧を得るためには
 奪い合いをしなくてはならないのが
 人間の性
 冷徹な眼で己を見れば
 譲り合いをして生活の糧を得ることなど
 到底できないとわかるから
 肉体を持つ人間の限界
 逃れられない生存本能
 つまりは闘争本能

 こんな僕は
 ほんとうの自分ではないんだと
 誰かに向かって思い切り叫びたいけれど
 ほんとうの僕はここにいる私
 向かい合わなければ
 どこかへたどり着くことはできない
 誤魔化してしまえば
 どこへもたどり着けなくなってしまう

 人の渦に巻き込まれながらも
 人の渦に飲まれないよう
 いささか神経質に
 人混みをすり抜ける日々
 いつか必ず
 どこかへたどり着けますように
 愛で満たされますように
 朝の満員電車
 地下鉄の片隅で


風は待っている

2018年06月12日 20時15分15秒 | 詩集

 青空を両手でつかんでごらん
 ワクワクする気持ちを
 思い出してみようよ

 つまらない荷物は
 ロッカーへ放り込んでしまおう
 走り出すなら今

 君が望むから
 夢は響く
 愛は輝く

 描いた夢を掌に開いてみようよ
 やりかけのままは
 やっぱりつまらないよね

 雲の行く先は誰も知らない
 知らなくてもかまわない
 心を風にまかせればいいのさ

 思いっきり両腕を広げて
 青空を胸に吸い込んで
 鳥の翼の形を作ってごらん

 今ここから
 もう一度
 始めるのもわるくない

 風は待っている
  風は待っている
   風は待っている


ツイッター