風になりたい

自作の小説とエッセイをアップしています。テーマは「個人」としてどう生きるか。純文学風の作品が好みです。

中国の寝台バス(連載エッセイ『ゆっくりゆうやけ』第405話)

2018年08月04日 22時30分30秒 | 連載エッセイ『ゆっくりゆうやけ』



 中国には寝台バスが走っている。

 座席ではなく、寝台ベッドがついた長距離バスだ。旅人をしていた頃はよく乗った。十時間くらい乗ることもあれば、二十時間くらい乗ることもあった。普通のバスに比べれば、横になって移動できるので座ったままよりもずっと楽だ。

 昔の寝台バスは、二人分のスペースを取った二段ベッドが左右にそれぞれ一列あった。連れ合いと二人で乗るのならまだいいのだけど、一人で乗ると知らないおじさんの隣で寝ることにもなった。隣のおじさんの足がものすごい臭気を放ち、臭くてなかなか寝付けないこともあった。僕も小汚い恰好をしていたから、おたがいさまだったかもしれないけど。

 このタイプの寝台バスは窓が開いたので、窓をすかせば外の空気を入れることができた。ただし、下段に乗った場合、その窓をうかつに開けると、とんでもないことになる。窓からひまわりの種や吸い殻や痰といったものが飛び込んでくる。上段の客が窓からいろんなものをぽいぽい捨てたり、痰を吐いたりするので、それが入ってくるのだ。一度、ひどく懲りたことがあったので、それからはなるべく上段ベッドを取るようにした。

 その後、縦方向にシングルベッドが三つ並んだタイプが普及し始めた。左右の窓側にそれぞれ一列と中央に一列ある。ベッドの狭くて肩幅くらいの幅しかないけど、知らない人の隣で眠らなくてすむのでいい。ただし、このタイプは窓が開かないので、走っているうちにバスのなかにいろんな臭いがこもってしまう。バスの窓は開いたほうがいいと思う。

 長距離バスなので、途中のサービスエリアや休憩所で時々停車する。バスが止まったら眠くても起きてトイレへ行ったり、屈伸したりして体をほぐす。夜のひんやりした空気を吸ってひと息つくのが好きだった。

 シングルベッド三列タイプになってからすこし快適になったのだけど、最後尾のベッドだけは五人並びのままだった。一番後ろは通路はなしでどんと広いベッドがあるだけだ。

 ある時、最後尾のベッドに乗ったことがあった。隣はおじいちゃんと三歳くらいの男の子の孫の二人連れだ。最後尾だから振動が激しい。男の子は気持ち悪くなってむずかる。うるさいけどしかたないなと思っているうちに僕は寝てしまった。が、ふと臭いで目が覚めた。男の子はおねしょをしてしまったらしい。小便の臭いがあたりに充満している。おじいちゃんは孫を座らせてベッドをしきりに拭いている。参ったなと思ったけど、どうしようもない。窓が開かないから臭いを逃がすこともできない。寝るしかないので、時々臭いに起こされながらもそのまま朝まで寝た。まだ臭いくらいですんでよかった。おしっこをかけられればかなり悲惨なことになっただろう。

 このほかにも、朝、目が覚めるとバスのなかにやたらと風が吹いているのでおかしいなと思ったら、バスのフロントガラスがなくなっていて、バスの先頭部から風がばんばん流れ込んでいたり、山道で事故渋滞して半日以上遅れたりといろいろとハプニングがあったけど、今思えば楽しかった。





(2017年8月30日発表)
 この原稿は「小説家なろう」サイトで連載中のエッセイ『ゆっくりゆうやけ』において第405話として投稿しました。
 『ゆっくりゆうやけ』のアドレスは以下の通りです。もしよければ、ほかの話もご覧ください。
http://ncode.syosetu.com/n8686m/
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