風になりたい

自作の小説とエッセイをアップしています。テーマは「個人」としてどう生きるか。純文学風の作品が好みです。

ずっと探していたんだ

2018年04月29日 07時15分15秒 | 詩集

 初夏の陽射しに揺れたのは
 君のまなざしでした
 命より大切なもの
 見つけたよ

 昔ながらの町並み
 黒い屋根瓦
 商家の土蔵
 狭い水路が縦横に走る町
 観光客を乗せた小舟が
 ゆらゆらと
 ささやかな跡を残して

 船頭が歌う舟唄
 のびやかな歌声
 その昔
 この町が栄えていた頃は
 そこかしこから
 聞こえていたんだろうね

 石造りの丸い橋のたもと
 僕たちはベンチに腰かけて
 のんびりひなたぼっこ
 光が頬にしみるね
 そよ風に吹かれて
 肩を寄せ合っていようよ

 ぬくもりはたしかに
 僕たちだけのもの
 君といっしょなら
 飾らずに
 てらわずに
 ほんとうの暮らしを
 始められる

 命より大切なもの
 ずっと探していたんだ
 初夏の光に揺れたのは
 君のやさしさでした


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陽炎を見つめていた

2018年04月22日 07時45分45秒 | 詩集

 あせっていたんだ
 どれだけキスしても
 抱きしめあっても
 さみしさを満たしきれなくて

 君の心の扉の向こうに
 もう一枚ドアがあるようで
 ノックしてみたところで
 応えてくれない君がいた

  手をさしのべても
  指のあいだから
  すりぬける愛
  嘘によく似た夢

 ふたりの想い出は
 せつない陽射しばかり
 増えていった
 この手につかめない
 陽炎を見つめていた


 手をつなぎたいのは
 心をつなぎたいから
 生きる喜びや悲しみを
 わかちあいたいから

 いくら寄りそっても
 消えないさみしさに
 君が気づいてしまいそうで
 僕はこわかったんだ

  愛の意味
  君と探したかった
  しあわせの雲
  追いかけたかった

 やりきれない陽射し
 恋の影につまづいて
 離れていった心
 叫んでも届かない
 陽炎を見つめていた

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?なお寺のパンフレット(連載エッセイ『ゆっくりゆうやけ』第394話)

2018年04月19日 06時40分40秒 | 連載エッセイ『ゆっくりゆうやけ』

 広東省のあるお寺へ行った時のこと。
 のどかな山のなかにあり、大きな寺だった。観光名所にもなっているらしく、境内のなかは観光客がぞろぞろ歩いている。
 休憩所の片隅に寺紹介のパンフレットが置いてあったのでぱらぱらとめくってみた。
 そのお寺の沿革のほかに、お釈迦さまを拝むとこんなにいいことがあると漫画の挿絵付きでいろんな現世利益が書いてある。そのなかに、お釈迦さまに帰依すれば、来世はお役人に生まれ変わって大儲けできるというのがあった。その挿絵には机の前に坐って札束の山を嬉しそうに眺めている禿げ頭のおじさんの姿が描かれている。
 僕は目が点になった。
 これを仏教と呼んでいいのだろうか?
 家内安全、安産、病気平癒ならまだ理解できるし、誰もが願うものだけど、お役人になって賄賂をがっぽりもらってお金持ちになれるというのはいかがなものだろう。すべての欲望を捨て去って解脱するのが仏教の最終目標だとすれば、生まれ変わったら協力な権力を握って、その権力を金銭に変えて大金持ちになるというのは、いかにも執着心が強すぎる。悟りを得るのとは方向性が真逆だ。
 そんなあまりにも俗物根性を丸出しにした祈願をされても、お釈迦さまは微苦笑するだけのような気がするけど。


(2017年3月1日発表)
 この原稿は「小説家なろう」サイトで連載中のエッセイ『ゆっくりゆうやけ』において第394話として投稿しました。
 『ゆっくりゆうやけ』のアドレスは以下の通りです。もしよければ、ほかの話もご覧ください。
http://ncode.syosetu.com/n8686m/

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紫糯米(むらさきもちごめ)のおにぎり(連載エッセイ『ゆっくりゆうやけ』第387話)

2018年04月13日 06時15分15秒 | 連載エッセイ『ゆっくりゆうやけ』

 雲南省で留学していた頃、朝食に紫糯米むらさきもちごめのおにぎりをよく食べていた。
 学校の門のすぐ近くに、七十歳はとうに過ぎただろうおばあちゃんが屋台を引っ張ってきて売っていたのだ。白い普通の糯米を炊いたのと紫糯米を炊いたのとを混ぜてタオルのなかへいれ、タオルをぎゅっと絞って紡錘形のおにぎりにする。地元の人たちは、おにぎりのなかへ油条(中国揚げパン)を一切れと黒納豆を少し入れ、そこへザラメの砂糖をまぶしておにぎりの具にしていたけど、僕は揚げパンも納豆も砂糖もいらないからといって、白糯米と紫糯米だけでおにぎりを握ってもらっていた。紫糯米はあまくておいしい。毎日食べても飽きなかった。
 紫糯米は古代米の一種。日本でも健康食品として売っているようだ。造血作用があるだとか、皮膚アレルギーによいといった話を聞いたことがある。ただし、この紫糯米は栽培がいささか面倒なのだそうだ。稲の背が高いので倒れやすいという。
 雲南省の南にある西双版納シーサンパンナへお祭りを見に行った時、タイ族の女性が道端で紫糯米のおにぎりを並べていた。すべて紫糯米で作ったおにぎりだったから、亜熱帯の陽射しを照り返してとても色鮮やかでまぶしかった。僕はさっそくそのおにぎりを求めて堪能した。日本ではお祭りの日や祝い事の時に赤飯を炊くけれど、タイ族も同じような感覚で紫糯米を炊くのかもしれない。
 上海のスーパーでも紫糯米を売っている。それだものだから、時々、家族にリクエストして白米に紫糯米を混ぜて炊いてもらっている。紫色に染まった御飯を見るとなんとなく楽しくなる。体にもいい。




(2016年12月26日発表)
 この原稿は「小説家なろう」サイトで連載中のエッセイ『ゆっくりゆうやけ』において第387話として投稿しました。
 『ゆっくりゆうやけ』のアドレスは以下の通りです。もしよければ、ほかの話もご覧ください。

http://ncode.syosetu.com/n8686m/
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あたたかい春の雨が

2018年04月08日 09時45分45秒 | 詩集

 あたたかい雨が降っている
 やさしい春の雨だね
 こんな日は静かに過ごそうよ
 のんびりソファーに坐って

 二十四色の色鉛筆
 スケッチブックを広げて
 君の似顔絵を描くよ
 かわいくきれいに描いてあげる

 カチューシャをかけてみよう
 髪に花をかざそう
 きのう市場で買ってきた
 君に似合いのレモンシンフォニー

 首をかしげてほほえんでる
 君は僕の天使さ
 ふっくらとした頬
 やわらかな瞳 二重まぶた

 しあわせの唄が聞こえる
 君の似顔絵のなかから
 満ち足りた愛情は
 ようやくふたりが見つけたもの

 細い雨があがったら
 いっしょに街へ出かけて
 額縁を買ってこよう
 僕たちの部屋に飾ろうよ
 
 あたたかい雨が降っている
 やさしい春の雨だね
 雨音が静かにつつむ
 ふたりをそっとつつんでくれる

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