令和4年10月11日
重要土地に5都道県58カ所=政府、年内に第1弾指定へ―安保土地法
国の安全保障上重要な土地の利用を規制するため、政府は11日、重要土地等調査法に基づく「土地等利用状況審議会」を東京都内で開き、対象地域の選定に着手した。
第1弾の候補地として、5都道県の国境離島を中心に58カ所を事務局が提示。
地元自治体の意見聴取を経て、年内に指定を行う方針だ。
重要土地等調査法は、自衛隊、在日米軍、海上保安庁の施設、発電用原子炉施設などを「重要施設」と規定。
規制区域として、その周辺約1キロの範囲や国境離島などを「注視区域」、
重要施設の中でも司令部機能などを有するものの周辺や特に重要と判断した国境離島を「特別注視区域」に首相が指定すると定めている。
5都道県は北海道、青森、東京、島根、長崎。
注視区域として提示されたのは、八丈島(東京都八丈町)や陸上自衛隊出雲駐屯地周辺(島根県出雲市)など29カ所。
特別注視区域には、航空自衛隊根室分屯基地周辺(北海道根室市)や黒島(長崎県対馬市)など29カ所が示された。
第1弾では、全域が区域指定される無人の国境離島を優先的に選んだ。
国境としての重要性が高いことに加え、現地状況の把握が困難であることが理由としている。
指定に当たり、地元自治体からの意見聴取は1カ月ほどかけて行う。
この後、同審議会を改めて開き、年内に区域指定する流れだ。
政府は対象地域が最終的に600カ所以上になると見込んでおり、第2弾以降も順次作業を進め、
2024年秋ごろまでの指定完了を目指す。
注視区域や特別注視区域に指定されると、自衛隊機の離着陸を妨げる工作物の設置、
施設への妨害電波の発射などの「阻害行為」が規制される。
首相は阻害行為を中止するよう勧告・命令でき、従わなければ刑事罰が科される。
同法を所管する高市早苗経済安全保障担当相は11日の閣議後記者会見で「区域指定に向けて作業を加速し、着実な法執行に努めたい」と述べた。
◇区域指定の候補地
【北海道】
▽枝幸町 ゴメ島(特)▽根室市 イソモシリ島・ハボマイモシリ島(特)、根室分屯基地(特)、牧の内訓練場(注)
▽厚岸町 大黒島(特)▽松前町 大島(特)、松前警備所(特)
【青森県】
▽大間町 弁天島(特)
【東京都】
八丈町 小島(特)、八丈島(注)▽所属市町村が未確定 鳥島(特)
【島根県】
隠岐の島町 沖ノ島(特)、黒島(島後の北北西、特)、カビ島(特)、黒島(島後の南東、特)、島後(隠岐海上保安署を含む、注)
▽出雲市 ましま(特)、艫島(特)、オノカメ(特)、やり島(特)、マ島(特)、出雲駐屯地(注)
【長崎県】
対馬市 黒島(特)、内院島(特)、対馬(比田勝海上保安署、対馬海上保安部を含む、注)、
海栗島分屯基地(特)、上対馬警備所(特)、高麗山無線中継所(特)、城岳無線中継所(特)、対馬防備隊(特)
権現山無線中継所(特)、対馬駐屯地(特)、下対馬警備所(特)、豆酘崎無線中継所(特)▽五島市 男島(特)
黄島(注)、福江島(五島海上保安署を含む、注)、嵯峨ノ島(注)、福江島分屯基地(特)、福江島着陸場(注)
(注)は注視区域、(特)は特別注視区域。基地、警備所、駐屯地、無線中継所、防備隊は自衛隊施設。
1カ所で複数の区域が設定される場合もあり、総数は58にはならない。
中国公船が周辺で領海侵入を繰り返している尖閣諸島などの南西諸島は候補地には入らなかった。
指定には県など地元自治体への説明が必要となるため、政府関係者は「社会的に反響の大きい地域は時間をかけて指定する必要がある」と打ち明ける。
内閣府は尖閣諸島の指定について、「南西諸島周辺が重要な地域という認識はある。重要度だけでなく、準備の整ったものから指定していく」としている。
令和4年6月4日
政府
安保土地規制へ新組織=年内にも600カ所選定
自衛隊基地周辺や国境離島など安全保障上重要な土地の利用を規制する「重要土地等調査法」の一部が1日に施行されたことを受け、
政府は局長級の内閣府政策統括官をトップとする約30人体制の組織を新設した。
年内にも600カ所以上の対象区域を指定する見通し。
不必要な私権制限や住民監視につながるとの懸念を残している。
重要土地等調査法は自民、公明両党と日本維新の会などの賛成で昨年6月に成立した。
先行的に施行されたのは、規制区域の選定に当たり意見を聴く「土地等利用状況審議会」の設置など。
規制対象となる行為などを定めた基本方針を、完全施行する9月までに閣議決定。
その後に指定作業に入る段取りだ。
同法は自衛隊や在日米軍、海上保安庁の施設と、内閣が政令で定める「生活関連施設」を、「重要施設」と規定。
首相はその周辺1キロの範囲や国境離島などを「注視区域」に指定できるとした。
この区域内では居住者や地権者に関する国の実態調査を認め、施設の「機能を阻害する行為」に罰則を科す。
さらに、重要施設と国境離島のうち「特に重要なもの」を「特別注視区域」と位置付け、一定規模以上の売買に事前の届け出義務を併せて課す。
◇「住民監視」に疑念
国会審議では、規制区域の指定基準、国による調査項目、機能阻害行為の類型などの曖昧さが問題となり、
立憲民主党や共産党は「恣意(しい)的な運用が可能で私権制限につながる」として反対した。
これらの点が基本方針でどの程度明確になるかが焦点となる。
政府の担当者は機能阻害行為の例として、自衛隊機の航行に影響を与える電波障害設備の設置などを挙げる。
ただ、これにはマイクスタンド程度のものも該当する可能性がある。
条文が抽象的で、具体的な内容を政令に委ねる手法も目立つ。
北海道苫小牧市や長崎県対馬市の自衛隊基地周辺不動産が中国や韓国の資本に取得された事例があったのが法律制定の発端。
ただ、調査や規制の対象は外国資本に限定せず、広範に及んでいる。