1990年5月3日。当時、わたしはある大学のクマの研究グループに所属していて、ゴールデンウィークのツキノワグマ調査に参加した。
ブナの新緑がまぶしいころで、森にはいろいろな花が咲いていた。

【当時のフィールドノートから】
S村A尾根
メンバー:K、N、S、K
天気:快晴のち曇り。暑い。
7:05 麓出発。
開花:チゴユリ、ヒトリシズカ、オオカメノキ、ラショウモンカズラ、タムシバなど
つぼみ:ユキザサ、ミヤマガマズミ、ウワミズザクラなど
終わり:オオバクロモジ、ハウチワカエデ、ブナ(落花)
8:15 第一定点到着。観察開始。
8:30 クマ1発見。「ガミちゃん」と命名。距離およそ1500m。
木(ブナ?)に登って採食。
8:45 第二定点へ移動
8:58 第二定点到着。
8:59 ガミちゃん、再発見。
9:01 木から降りる。
9:04 違う木に登る。採食。
9:20 木から降りる。少しずつ移動。
9:28 見失う。

人生で初めてのツキノワグマとの出会いだった。夢にまで見たクマ。あの、小さな小さな黒いごま粒がクマだ。あまりに小さくしか見えないので、思ったより感動はない。木に登ったときに、一瞬白い月輪が見えた。
見失ったクマを再発見したのは9時50分。そして、また見失ったのが10時23分。その後、11時55分に別のクマ2を発見する。三度ガミちゃんを発見したのは午後になってからだ。
13:15 ガミちゃん、再発見。草本採食。午前と同じ沢沿いの草地。
13:25 沢を降り水を飲む?
13:42 沢を渡る。採食。
13:48 再び沢を渡る。採食
13:50 〃
13:51 〃
沢をゆっくり登っていく。ときどき採食。
そして、運命の14時10分。
14:10 止まる。動かず。木の裏側でお昼寝。
距離が遠いので、正確には寝ていたかどうかは不明だが、少なくとも動かない。ぜんぜん動かない。
「なあ、ブナの幹の両側に黒くはみ出して見えるのがクマだよな」
「うん、そうだよね…」
1時間経過。あまりの天気の良さに、こちらもウトウト昼寝状態……。プロミナにおでこをぶつけて、目が覚めるぐらい。
「なあ、本当にあれはクマかな?」
「うーん、自信がなくなってきたな…」
あまりに動かず黒いシミにしか見えないものに疑念がわく。みんなで真剣にじーっとブナの根元を見つめる。
ずるっ。ずりり。
「ああっ! 今、クマが寝返りうった!」
「見た見た! 寝返りうった、寝返りうった!!」
「やっぱりクマだ!!」
結局ガミちゃんが活動を再開したのは16時10分。ちょうど2時間は昼寝をしていたわけだ。
その後、16時45分まで観察し、55分には定点を撤退。この日のガミちゃんの観察時間は計4時間38分(うち2時間は昼寝と思われる)だった。後にも先にも、こんなに長くクマを見たことはない。
なにより、尾根の向こうとこっちでクマと一緒に昼寝をしたあのゴールデンウィークの1日が、明るくて穏やかな新緑のブナ林で、クマと仲間たちと過ごした1日が忘れられない。

感動がまったく伝わらないフィールドノート……。でも、これがすべて。
ブナの新緑がまぶしいころで、森にはいろいろな花が咲いていた。

【当時のフィールドノートから】
S村A尾根
メンバー:K、N、S、K
天気:快晴のち曇り。暑い。
7:05 麓出発。
開花:チゴユリ、ヒトリシズカ、オオカメノキ、ラショウモンカズラ、タムシバなど
つぼみ:ユキザサ、ミヤマガマズミ、ウワミズザクラなど
終わり:オオバクロモジ、ハウチワカエデ、ブナ(落花)
8:15 第一定点到着。観察開始。
8:30 クマ1発見。「ガミちゃん」と命名。距離およそ1500m。
木(ブナ?)に登って採食。
8:45 第二定点へ移動
8:58 第二定点到着。
8:59 ガミちゃん、再発見。
9:01 木から降りる。
9:04 違う木に登る。採食。
9:20 木から降りる。少しずつ移動。
9:28 見失う。

人生で初めてのツキノワグマとの出会いだった。夢にまで見たクマ。あの、小さな小さな黒いごま粒がクマだ。あまりに小さくしか見えないので、思ったより感動はない。木に登ったときに、一瞬白い月輪が見えた。
見失ったクマを再発見したのは9時50分。そして、また見失ったのが10時23分。その後、11時55分に別のクマ2を発見する。三度ガミちゃんを発見したのは午後になってからだ。
13:15 ガミちゃん、再発見。草本採食。午前と同じ沢沿いの草地。
13:25 沢を降り水を飲む?
13:42 沢を渡る。採食。
13:48 再び沢を渡る。採食
13:50 〃
13:51 〃
沢をゆっくり登っていく。ときどき採食。
そして、運命の14時10分。
14:10 止まる。動かず。木の裏側でお昼寝。
距離が遠いので、正確には寝ていたかどうかは不明だが、少なくとも動かない。ぜんぜん動かない。
「なあ、ブナの幹の両側に黒くはみ出して見えるのがクマだよな」
「うん、そうだよね…」
1時間経過。あまりの天気の良さに、こちらもウトウト昼寝状態……。プロミナにおでこをぶつけて、目が覚めるぐらい。
「なあ、本当にあれはクマかな?」
「うーん、自信がなくなってきたな…」
あまりに動かず黒いシミにしか見えないものに疑念がわく。みんなで真剣にじーっとブナの根元を見つめる。
ずるっ。ずりり。
「ああっ! 今、クマが寝返りうった!」
「見た見た! 寝返りうった、寝返りうった!!」
「やっぱりクマだ!!」
結局ガミちゃんが活動を再開したのは16時10分。ちょうど2時間は昼寝をしていたわけだ。
その後、16時45分まで観察し、55分には定点を撤退。この日のガミちゃんの観察時間は計4時間38分(うち2時間は昼寝と思われる)だった。後にも先にも、こんなに長くクマを見たことはない。
なにより、尾根の向こうとこっちでクマと一緒に昼寝をしたあのゴールデンウィークの1日が、明るくて穏やかな新緑のブナ林で、クマと仲間たちと過ごした1日が忘れられない。

感動がまったく伝わらないフィールドノート……。でも、これがすべて。