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晴耕雨読とか

本読んだり、いきものを見たり。でも、ほんとうは、ずっと仕事してます。

人生最良の日 その1 「クマと昼寝」

2012年02月22日 | 生き物
1990年5月3日。当時、わたしはある大学のクマの研究グループに所属していて、ゴールデンウィークのツキノワグマ調査に参加した。
ブナの新緑がまぶしいころで、森にはいろいろな花が咲いていた。



【当時のフィールドノートから】

 S村A尾根
 メンバー:K、N、S、K
 天気:快晴のち曇り。暑い。

 7:05 麓出発。
      開花:チゴユリ、ヒトリシズカ、オオカメノキ、ラショウモンカズラ、タムシバなど
      つぼみ:ユキザサ、ミヤマガマズミ、ウワミズザクラなど
      終わり:オオバクロモジ、ハウチワカエデ、ブナ(落花)
 8:15 第一定点到着。観察開始。
 8:30 クマ1発見。「ガミちゃん」と命名。距離およそ1500m。
      木(ブナ?)に登って採食。
 8:45 第二定点へ移動
 8:58 第二定点到着。
 8:59 ガミちゃん、再発見。
 9:01 木から降りる。
 9:04 違う木に登る。採食。
 9:20 木から降りる。少しずつ移動。
 9:28 見失う。


 


人生で初めてのツキノワグマとの出会いだった。夢にまで見たクマ。あの、小さな小さな黒いごま粒がクマだ。あまりに小さくしか見えないので、思ったより感動はない。木に登ったときに、一瞬白い月輪が見えた。

見失ったクマを再発見したのは9時50分。そして、また見失ったのが10時23分。その後、11時55分に別のクマ2を発見する。三度ガミちゃんを発見したのは午後になってからだ。

 13:15 ガミちゃん、再発見。草本採食。午前と同じ沢沿いの草地。
 13:25 沢を降り水を飲む?
 13:42 沢を渡る。採食。
 13:48 再び沢を渡る。採食
 13:50   〃
 13:51   〃
       沢をゆっくり登っていく。ときどき採食。


そして、運命の14時10分。

 14:10 止まる。動かず。木の裏側でお昼寝。

距離が遠いので、正確には寝ていたかどうかは不明だが、少なくとも動かない。ぜんぜん動かない。

「なあ、ブナの幹の両側に黒くはみ出して見えるのがクマだよな」
「うん、そうだよね…」

1時間経過。あまりの天気の良さに、こちらもウトウト昼寝状態……。プロミナにおでこをぶつけて、目が覚めるぐらい。

「なあ、本当にあれはクマかな?」
「うーん、自信がなくなってきたな…」

あまりに動かず黒いシミにしか見えないものに疑念がわく。みんなで真剣にじーっとブナの根元を見つめる。


ずるっ。ずりり。


「ああっ! 今、クマが寝返りうった!」
「見た見た! 寝返りうった、寝返りうった!!」
「やっぱりクマだ!!」

結局ガミちゃんが活動を再開したのは16時10分。ちょうど2時間は昼寝をしていたわけだ。

その後、16時45分まで観察し、55分には定点を撤退。この日のガミちゃんの観察時間は計4時間38分(うち2時間は昼寝と思われる)だった。後にも先にも、こんなに長くクマを見たことはない。

なにより、尾根の向こうとこっちでクマと一緒に昼寝をしたあのゴールデンウィークの1日が、明るくて穏やかな新緑のブナ林で、クマと仲間たちと過ごした1日が忘れられない。




感動がまったく伝わらないフィールドノート……。でも、これがすべて。