崖っぷちロー

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自衛隊「地下鉄サリン・イラク派遣・阪神大震災」関連書籍読了

2010-02-24 05:14:03 | 小説・本
この1~2ヶ月ほどで、自衛隊関連の本を3冊ほど読んだ。

松島悠佐『阪神大震災自衛隊かく戦えり』(時事通信社)
福山隆 『地下鉄サリン事件戦記』(光人社)
佐藤正久『イラク自衛隊「戦闘記」』(講談社)

いずれも、事件当時、現役の自衛官として自衛隊の活動に携わってきた方々の手記的作品である。

・松島悠佐『阪神大震災自衛隊かく戦えり』(時事通信社)
 著者の松島氏は、阪神淡路大震災発生当時の中部方面総監(伊丹)だった方。
 本書は地震発生から始まり、震災の被害状況が明らかになるにつれて36普通科連隊、第3師団、方面隊主力の各活動へと発展してく様がスピード感を持って描かれている。(1章~3章)

 また、実際の活動にあたった各級の指揮官や曹・兵の声も収録されているし、自衛隊の支援を受けた被災者の声も収録されている。
 (自衛隊に好意的な意見のみならず、自衛隊に対する苦情や、自衛隊の車に投石した男が居たことなども書かれている。)

 本書の後半では、自衛隊の災害に対する備えのあり方や、阪神大震災での教訓を受け他危機管理のあり方などが書かれている。

 なお、以下のような記述がある。(186頁)
 神戸においては自衛隊へのアレルギーが強く、対策会議で自衛隊側から積極的な提案をするのを好ましく思わない一部の職員がいて、相互の調整が巧く機能しなかったこともたびたびあった。

 救援活動に総力を上げなければならない時にまで、自治労の人たちがイデオロギーを主張して対応行動を遅らせてしまうのは、被災者不在の救援活動ではないかという感じがしていた。


・福山隆 『地下鉄サリン事件戦記』(光人社)
 著者の福山氏は、地下鉄サリン事件発生当時、市ヶ谷駐屯地の32普通科連隊長で、地下鉄サリンの除染作業を直接指揮された方。
 
 32普通科連隊の説明などもいれつつ、事件発生当時の様子(福山氏は休暇中でゴルフをしていた)から、駐屯地へ急いで帰還する様子、上級部隊も混乱している中で様々な決断を下しつつ事態に対処していく様などが描かれている。32普通科連隊の各隊員たちの証言も豊富に取り入れられており、読み物としての完成度も高い。

 第8章では「幻の作戦計画」として、上九一色村等への警察の捜査にたいしてオウム側が武力で抵抗した場合の自衛隊投入計画があったこと、32普通科連隊がそれに備えて準備していたことなどが書かれている。

 この作戦計画が連隊の各中隊長に下達された際のある中隊長のリアクションに緊迫した様子が見て取れる。(184頁。近藤2尉の証言として)
 連隊長室から出てくる各中隊長の表情は一様に強ばっており、ある中隊長は顔面蒼白で、ワナワナと体を震わせ「こんなことできないよ……」とつぶやく始末。

 なお、自治労関連のエピソードはここでも登場する(72頁)。
 通信小隊は、普段から通信伝播状況を調査するため、都内各地に展開して通話試験を行い、通話の可否に関するデータを整備することに努めていた。ところが、都内各区・市の災害対策の中枢となるべき区・市庁舎との通話試験は自治労などの妨害にあって、調査が出来ないところが多かった。


・佐藤正久『イラク自衛隊「戦闘記」』(講談社)
 著者の佐藤氏は「ヒゲの隊長」として有名で、このブログでも何度か取り上げてきた。イラク派遣当時は、イラク先遣隊の隊長として活動されていた。

 本書では、序章として殉職された外交官の奥克彦さんとのエピソードや、その中で醸成された「思い」を書くことから始まっている。
 中盤はイラクのサマーワでの佐藤氏たちの活動の様子の描写で、先遣隊隊長として心がけたことや実際に行ったこと等が書かれている。
 佐藤氏の文章は素朴で読みやすく、その内容も示唆に富んでいるが、指揮下の各隊員の声などは収録されていない点は残念といえば残念。

 第6章では佐藤氏の集団的自衛権に関する問題など、自衛隊が海外で活動する際の諸問題について著者の持論が語られている。

 なお、自衛隊の隊員たちが日本から出発/日本へ帰国する際、日本の民間航空機には乗せてもらえず、また、成田空港において制服=迷彩服を着ることが空港事務所から禁止されたとのこと。
 (26頁、188頁)

***
上記3冊が扱っている事件はどれも極めて大きな事件であるから、大体のことは知っているつもりであったが、いざ読んでみると知らないことも多く、また、著者がそれぞれの当事者であることから他にはない迫力があった。

とはいえ、それぞれの本でどこまで細かく書くのか、隊員の声を利用するのかなどはバラバラで、その点では第三者が一定の基準をもって客観的に記述する公刊戦史の必要性も感じられた。
 (もしかしたら見落としているのかもしれないけど、これらの活動についての公刊戦史はなかったはず。あるなら読みたいです。)

また、部隊の活動報告書などの各種文書の引用・利用も少なく、この点も公刊戦史でフォローすべきだと思われる。
 (例えば、アメリカ海兵隊の『国連平和維持軍アメリカ海兵隊レバノンへ』では、各種資料やインタビューがふんだんに利用されている。)

上記三冊はいずれも良書だと思うが、それ故に公刊戦史・オーラルヒストリーの重要性が感じられるような気がする。


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