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吉村昭『高熱隧道』

2009-02-14 | や・ら・わ行の作家
昭和11年8月に、黒部第三発電所建設工事が着工する。

温泉の湧出する高熱地帯に、隧道を強引に貫こうとします。

ちなみに隧道(ずいどう)とは、トンネルのこと。

佐川組工事事務所長の根津太兵衛と第一工区課長の藤平健吾

この二人の技術者をメインに描かれていきます。


さて感想。


吉村さんの作品は何冊か読みましたが、この作品が一番過酷でした。

もう想像を絶する世界です。

一気に読めるし、面白いですが、かなりえぐい^^;


坑内は異常な湯気と熱気に満ち、まさにサウナ状態。

しかも上からは熱湯が滴り落ちてくる。

そんな中での、穿孔作業やズリ出し作業。

(ちなみにズリとは価値のない岩石のことです)

人夫たちは喘ぎながら、作業を続けます。


彼らは何故こんな現場で働くのでしょう。

それは高額の日当にありました(通常の4倍だそうです)

食べるだけの生活の人夫たちは、妻子に衣服を与え、わずかな貯金を

するためこの過酷な現場にやってくるのです。

日当は彼らの命の代償でもあるのです。


そして悲しいかな、次々と事故がおこってしまいます。

たえず人夫たちにつきまとう死の影。

地獄を見た男たちの息づかいがこちらにも伝わってきます。


トンネル貫通に取り憑かれた男たちは、試行錯誤、悪戦苦闘の末

大自然に挑み続けるのですが、黒部の渓谷は人の住みつくことを

頑強に拒否し続けます。


そして作業はさらに過酷になっていきます。

岩盤温度は上がり続け、最高温度は165度に…。

顔のあたる部分は摂氏70℃近く、全身針で刺されるような熱さで

顔は苦痛で歪み、下半身は赤黒く充血し、皮膚はふやけてはがれていく。

口から泡をふき、倒れる者が続出するという壮絶さの中、人夫たちは

狂ったように作業を続けます。

そしてラストに向け、物語は激しく展開していきます。


酷使される人夫たちは、この生活を受け入れつつも、決して鈍感ではない。

彼らの中の憤り、不満、悲しみ、切迫、苛立ち、憎しみ。

それらは彼らの中で確実に存在している。

静かに、しかも少しづつ大きくなりながら。

何かが起こるというわけではないのですがその描写が実にうまい。


ちなみにこの工事の犠牲者は300名を越えているそうです。

自然の描写が生々しく、読者を震えあがらせます。

熱く語ってしまい、ちょっとネタバレしてしまっててすみません。

やはり吉村さんは、すごい作家です(*^_^*) ★★★★★


余談ですがプロジェクトXやこの春ドラマになる「黒部の太陽」は

戦後の黒部第四発電所建設工事のお話。

この物語は戦前の黒部第三発電所建設工事のお話なのであしからず。


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