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大崎善生『聖の青春』

2009-02-23 | あ行の作家
平成10年8月8日、一人の棋士が死んだ。

村山聖(むらやま・さとし)。享年29歳。

輝くばかりの光を放ち続け、時代を駆け抜けた一人の男の物語。


さて感想。


なんやろう。この感動は!!

これは泣けるなぁ。すごい作品やと思います。

宿命と呼ぶには、あまりにも過酷な人生です。

美しく、儚く、切なく、烈しく、悲しい彼の人生がそこにありました。


何度も絶望を味わい、常に死の影に怯えながら、何故彼はこれほどまでに

強いのでしょう。

生きること、そして勝つことへの執着、将棋への情熱、名人への渇望。

それらが彼を強くしていったんだと思います。


懸命に生きる彼に、神は次々と試練を与えます。

それでも彼は決して卑屈になることはありません。

金にも名誉にも興味はない。ただ、目の前にある将棋に勝つ。

そして名人になることだけを考えていたのです。


私が一番好きなのは、上福島北公園で師匠である森信雄とのシーン。

そこには「愛」があり、心にあたたかいものが込み上げてきます。

肉親の愛、友情、そして師匠の愛。

この作品にはさまざまな愛が溢れていました。


人生なんて理不尽なものです。

一生懸命生きる人が幸せになれるわけでも、満足のいく人生が送れる

わけでもない。

彼は自分の運命を嘆き恨み悲しむのではなく、これからどうするかを考える。

最後まで決して夢を諦めない彼の姿は、読む者に感動を与えます。


すごい作品でした。★★★★★

大阪城公園の彼の笑顔の写真は、何度見ても泣けるんだな。


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吉村昭『高熱隧道』

2009-02-14 | や・ら・わ行の作家
昭和11年8月に、黒部第三発電所建設工事が着工する。

温泉の湧出する高熱地帯に、隧道を強引に貫こうとします。

ちなみに隧道(ずいどう)とは、トンネルのこと。

佐川組工事事務所長の根津太兵衛と第一工区課長の藤平健吾

この二人の技術者をメインに描かれていきます。


さて感想。


吉村さんの作品は何冊か読みましたが、この作品が一番過酷でした。

もう想像を絶する世界です。

一気に読めるし、面白いですが、かなりえぐい^^;


坑内は異常な湯気と熱気に満ち、まさにサウナ状態。

しかも上からは熱湯が滴り落ちてくる。

そんな中での、穿孔作業やズリ出し作業。

(ちなみにズリとは価値のない岩石のことです)

人夫たちは喘ぎながら、作業を続けます。


彼らは何故こんな現場で働くのでしょう。

それは高額の日当にありました(通常の4倍だそうです)

食べるだけの生活の人夫たちは、妻子に衣服を与え、わずかな貯金を

するためこの過酷な現場にやってくるのです。

日当は彼らの命の代償でもあるのです。


そして悲しいかな、次々と事故がおこってしまいます。

たえず人夫たちにつきまとう死の影。

地獄を見た男たちの息づかいがこちらにも伝わってきます。


トンネル貫通に取り憑かれた男たちは、試行錯誤、悪戦苦闘の末

大自然に挑み続けるのですが、黒部の渓谷は人の住みつくことを

頑強に拒否し続けます。


そして作業はさらに過酷になっていきます。

岩盤温度は上がり続け、最高温度は165度に…。

顔のあたる部分は摂氏70℃近く、全身針で刺されるような熱さで

顔は苦痛で歪み、下半身は赤黒く充血し、皮膚はふやけてはがれていく。

口から泡をふき、倒れる者が続出するという壮絶さの中、人夫たちは

狂ったように作業を続けます。

そしてラストに向け、物語は激しく展開していきます。


酷使される人夫たちは、この生活を受け入れつつも、決して鈍感ではない。

彼らの中の憤り、不満、悲しみ、切迫、苛立ち、憎しみ。

それらは彼らの中で確実に存在している。

静かに、しかも少しづつ大きくなりながら。

何かが起こるというわけではないのですがその描写が実にうまい。


ちなみにこの工事の犠牲者は300名を越えているそうです。

自然の描写が生々しく、読者を震えあがらせます。

熱く語ってしまい、ちょっとネタバレしてしまっててすみません。

やはり吉村さんは、すごい作家です(*^_^*) ★★★★★


余談ですがプロジェクトXやこの春ドラマになる「黒部の太陽」は

戦後の黒部第四発電所建設工事のお話。

この物語は戦前の黒部第三発電所建設工事のお話なのであしからず。


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『百万円と苦虫女』

2009-02-11 | えいが
短大を卒業しても就職出来ないでいるフリーターの鈴子。

彼女にある災難がふりかかる。


さて感想。


原作も好きだったんですが、なかなか面白かったです。

121分ありますが、無駄がなくテンポ良く進みます(^_^)

「自分探しの旅に出る」…のではなく「自分探しをしない」という設定も面白い。


ピエール瀧や笹野高史ら個性派俳優がいい味出しています。

ただ、男性には評価の低い作品のようで^^;

20代~30代の女子ならば、かなり楽しんでいただける作品だと思います。★★★★


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吉村昭『破獄』

2009-02-08 | や・ら・わ行の作家
厳戒態勢の監視の中、脱獄を繰り返す男のお話。

戦中・戦後、日本が激動する時代とともに、物語は綴られていく。

読売文学賞受賞作。


さて感想。


うわわわ。す…すごい男がいたもんだ(^_^)

主人公は、佐久間清太郎。

彼はコソ泥で、家人に見つかってしまい、つい殺してしまったダメ人間である。

悲しいかな彼の眠っていた恐るべき能力は、刑務所の中で発揮されることに。

超人的な体力、ずば抜けた知力、精神的優位にたつ手口。

彼こそまさに昭和…いや世界最高の脱獄王なのだ。


看守を観察し、緻密に計画・準備をすすめ、想像をこえた方法で脱獄する。

学歴もない彼が、学歴もあり、経験豊富な者たちを嘲笑うかのように

脱獄を繰り返す。彼にとって手錠など無意味なのだから。


一方、佐久間の脱獄を阻止しょうとする、刑務所側も描かれる。

彼の脱獄を許せば、刑務所長以下、関連した者たちは厳しい処罰を

受けることに...。

何と言っても、刑務所の威信にかけて、彼の脱獄を阻止しなければならない。


獄房に閉じ込められた男、そして彼を閉じ込めた男たちとの攻防。

これが実に面白いのだ。


激しい反感により、超人的能力発揮する佐久間。

なぜそこまで刑務所に挑戦し続けるのか。何が彼を奮い立たせるのか。


やがて彼は4度の脱獄の末、府中刑務所へ送られます。

所長の鈴江は大きな賭けに、うってでることになるのですが…。


佐久間のモデルとなったのは、白鳥由栄という実在の人物。

怪力ぶりがすごいのはもちろんのこと、身体の関節を比較的容易にはずす

ことができたと言われているそうです。


いやはや読み応えのある作品でした。★★★★★

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