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黛信彦の時事ブログ

フォード、クライスラー、孫子

2009年06月16日 | ビジネス・経済
クライスラーに続いてGMが破綻するなか米国自動車業界ではフォードが一人で頑張っている。
16日付産経新聞「次代への名言」欄は、1903年の今日(16日)、そのフォードが設立されたのだとして、創業者であるヘンリー・フォード一世の名言を書いている。

■フォード
~・~・~ 創業者、ヘンリー・フォードは規格外の人物だった。彼は「企業は国民全体に対する奉仕をなさねばならない」という心情を持ち、株主よりも消費者を優遇しようとした。そして借金(融資)は金のないときではなく、あるときにせよ。――と説いた。
過度な負債は企業に大衆と金融家という2つの主人に仕えることを強い、結局は「金融家の利益のために大衆が犠牲になる」と考えたからだ。
人間は完全ではない。のちに彼の先見性がくもり、偏見を抱いたこともあった。しかし、現在、ビッグ3のうちフォード社のみが公的支援によらずに自力再建に取り組んでいるのは偶然ではない気がする。彼は、こう記している。
「不況は、企業にとってやりがいのある挑戦である。他者が賃金カットで乗り切ろうとしているところを、頭脳をしぼった経営によって克服するのだ」(以上、同記事から抽出)~・~・~
松下幸之助が「好況よし、不況更によし」と語ったことは余りにも有名だが、第一級の経営者の発想は共通点がある。

■クライスラー 
フォードとは対照的に、銀行で苦労したのはクライスラーだった。
1980年、破産寸前のクライスラーを救った主役は、米国議会に「債務補償法案」を成立させたリー・アイアコッカだったが、彼は自著伝「わが闘魂の経営(徳岡孝夫訳・ダイヤモンド社)」に再建後のクライスラーに対する銀行たちの豹変ぶりを次のように書いている。
~・~・~ (ある時期は、近所のサンドイッチ屋にさえ出前を断られる始末だったが)いまでは、みんながクライスラーにたっぷり保留金があるのを知っているから、決済には60日の期限をくれる。たのみもしないのに、銀行が借りてほしいと言ってくる。
まるで小説「キャッチ22」さながらの、皮肉な状況である。
借金をしたいのか? それなら、借金をしなくてもいい証拠を見せてくれ―――という逆説的シチュエーションなのだ。金を持ち、銀行に預金があれば、いつでも借金ができる。だが、ほんとうに金を必要としている者には、誰も貸してくれないのである。~・~・~

■孫子
アイアコッカは、フォード2世に「ただ、お前が嫌いなだけだ」と言われてフォード社・社長の座を追われ、クライスラーに移った。
アイアコッカの、フォード社での業績やクライスラー救済は誰もが瞠目する事跡である。
しかし、アイアコッカを追い出したフォード社は健在で、アイカコッカが救ったクライスラーはまたしても危機に陥り、破たんした。

受け売りばかりになるが、海音寺潮五郎著「孫子」に次の一節がある。
~・~・~ 人情の不思議はここにある。もっとも巧妙な戦術をもって、最も容易に打ち勝ちえた去年の「じょ(舎をへんに、つくりを予)」攻略戦には心を動かさなかった天下が、こんどはオヤと驚いたのだ。
「大上(最上)は知られず、人の目に立つのは次位のものだと、昔からよく言われているが、そのようだわい」~・~・~ と孫武はにんまりした。

要は、「目立つのは、スタンドプレイという次善の策」という訳だ。
アイカコッカの事績をスタンドプレイとは言わないまでも、孫氏の兵法に照らせば、金を借りないフォードのやり方のほうが最上に近いのだろうか。

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