音楽中心日記blog

Andy@音楽観察者が綴る音楽日記

孤高のレビュアー

2008年10月08日 | その他
 amazonでクラシック関係のカスタマーレビューをあれこれ読んでて見つけたんだけど。
 この"Authentic Realist"孤高のレビュアーという人が書いたレビューがすごい。あまりにすごくて思わず笑ってしまった。悪口雑言罵詈讒謗の嵐。

 たとえば、俺の長年の愛聴盤、グレン・グールド「ゴールドベルク変奏曲」'81年版のレビューはこう。
下手な演奏
この演奏が独特のように聴こえるのは、単純にグールドの腕前が落ちているからである。
グールドというブランドにぶら下がって販売されているだけの、意味のないCDである。
この演奏でバッハの音楽に開眼したと言う人は、バッハの音楽を語る資格のない人であると断罪せざるを得ない。

 では、同じゴールドベルクの55年版(グールドのデビュー盤)はどうか。
条件付き不滅の名演
この演奏をリリースして一儲けしようというやからが消えない限り、「不滅の名演」として扱われることだろう。
ただし、その演奏は荒く、とても商品になるような代物ではない。
当時の人たち、そしてこの演奏を称揚する人たちは、この雑さを新鮮さと取り違え、グールドをブランド化したといえる。
はっきりいって、汚点としか言いようのない演奏なのだ。
なお、この汚点を消そうと、最晩年にもう一度録音したが、汚点を広げる結果となった。

 もうひとつあった
1955年のデビュー・レコーディング
晩年の演奏は、老人の戯言のような演奏だったが、このデビュー時の録音は、勢いに任せて自分の腕前を披露しただけの、いわゆる「自慢大会」に終わっている。
後年のグールドは、これ以上にガンガン弾くことはできた。
「デビュー・レコーディング」という但し書きをはずしてしまえば、凡演以下の演奏だ。
はっきり言おう。駄演だと。

 ふは。ふははは。ふははははっははっはは。へへっへへ。たまらん。
 
 こんな調子の感想がえんえんと続く。
 いわく「不必要この上ないCD」、いわく「存在意義が見い出せない」、いわく「駄曲駄演駄盤」、いわく「この程度の演奏なら誰にでも出来る」、いわく「この演奏を高く評価するのは、音楽を聴く耳のない証拠だ。」……。
 こんな悪口だらけのレビューを300件近くも書きまくる、不毛な情熱はいったいどこから出てくるのだろう。

 この盤のレビューでは、演奏自体は誉めておきながら、発売レーベルがマイナーだから気に入らないと、星ひとつの評価を下したりしている。
 まず酷評ありき。ここまでくると、むしろすがすがしい。尊敬したくなるね。

 で、どんな人が書いてるのかなー、と思ってプロフィールを見たら、これがまたすごかった。
自己紹介
下らんのは世の中だ。
オレではない。
興味があるもの
日本人の大多数は、物凄く趣味が悪い。
亡者や老人を、無条件に賞賛し、批判することをまるで知らない。
劣悪なお前達には興味はない。
自分の趣味がいいと思うならば、オレのレビューに賛成票を投じればいい。
余談だが、経験則として、猫の嫌いな人の感性は信用できない。

 いいなあ。自ら「孤高のレビュアー」と名乗ってしまう傲岸不遜さもポイント高い。

 では、「下手な演奏」ゴールドベルク'81年版をどぞ。



※(10/14追記)
 孤高のレビュアー氏が改名された模様。新しい名前は「Reviewer of the Spreme "至高の品性"」だそう。
 "Spreme"ってのは"Supreme"のスペルミスでしょうか。
 自己紹介も新しくなってますね。

Lips That Would Kiss

2008年10月07日 | CDの感想
   
○「オトゥール・レーベルズ: レ・ディスク・デュ・クレプスキュール」(2008)
○「オトゥール・レーベルズ: ファクトリー・ベネルクス」(2008)
 クレプスキュールやファクトリー・ベネルクス音源の再発を続けているLTMによる新編集盤。僕が入手したのは、輸入盤にディスクユニオンが帯と解説を付けて販売しているもの。

 パンクの嵐が去ったあとの寂寥感とシニシズムに、モノトーンのロマンティシズムがブレンドされた匂い。多くの曲に通底する仄暗さ。
 聴いていると、強い郷愁をおぼえると同時に、なんだかほっとしてしまう。おかしいな。そんな種類の音楽ではないはずなのに。

 すべての曲が名曲というわけでもなく、今の耳で聞くと、いささか単調だったり、無駄に長かったり、深みに欠けたりするものもあるのだけど、自分にとってはいまだに必要な音楽だ。たぶんこの手の音からは一生逃れられないんだろうね。

 以下にトラックリストを記載しておく。

◆Auteur Labels: Les Disques Du Crepuscule 1980-1985
01. MICHAEL NYMAN / Mozart
02. MARINE / Life In Reverse
03. THICK PIGEON / Subway
04. JOSEF K / Sorry For Laughing
05. REPETITION / A Still Reflex
06. BILL NELSON / Dada Guitare
07. PAUL HAIG / Running Away
08. TUXEDOMOON / Ninotchka
09. IKE YARD / Night After Night
10. DURUTTI COLUMN / Party
11. THE NAMES / Life By The Sea
12. STEVEN BROWN / Waltz
13. RICHARD JOBSON / Autumn
14. THE FRENCH IMPRESSIONISTS / Pick Up The Rhythm
15. ISOLATION WARD / Lamina Christus
16. ANTENA / Camino Del Sol
17. THE PALE FOUNTAINS / (There Is Always) Something On My Mind
18. MIKADO / Par Hasard
19. ANNA DOMINO / Land Of My Dreams
20. BLAINE L. REININGER / Mystery And Confusion
21. DEVINE & STATTON / Bizarre Love Triangle

◆Auteur Labels: Factory Benelux 1980-1985
01. THE DURUTTI COLUMN / Lips That Would Kiss
02. SECTION 25 / Je Veux Ton Amour
03. THE NAMES / Calcutta
04. MINNY POPS / Time
05. CRISPY AMBULANCE / The Presence
06. CRAWLING CHAOS / Breaking Down
07. STOCKHOLM MONSTERS / Miss Moonlight
08. THE WAKE / Something Outside
09. LIFE / Dites-Moi
10. SWAMP CHILDREN / You've Got Me Beat
11. QUANDO QUANGO / Love Tempo
12. NYAM NYAM / Fate/Hate
13. SIMON TOPPING / Prospect Park

 収録曲の中からこのナンバーを。ドゥルッティ・コラム「Lips That Would Kiss」。

New Moon

2008年10月04日 | CDの感想
  
○Sambassadeur「Sambassadeur」(2005)
 ちょっと前に感想を書いたスウェーデンのギターポップバンド、Sambassadeurのファーストアルバムを入手したのでご報告。

 セカンドアルバムほどの濃密さはないし、同工異曲的印象を受ける部分もあるのだけど、総体的にはかなり楽しめる作品だった。
 著名バンドのデビューアルバムを回顧して評するときに、「原石の輝き」とかいう表現がよく使われるけれど、臆面もなくそんなクリシェをあてはめてみたくなる、そんな感じ。

 ただ、気になった点が。リードヴォーカルが男女半々なのだ。

 このバンドの魅力の半分はAnna Persson嬢のヴォーカルにあると思っている人間にとっては、これは少々不満。男性ヴォーカル君がリードをとる曲を聴いていると、ああこれを彼女の声で聴きたかったなあ、と思ってしまう。

 セカンドアルバムでは男女比1:9くらいになっていたところを見ると、本人達も、その点をファーストアルバムの反省点としたのかもしれない。

 それにしても、1曲目「New Moon」は鮮烈だね。サウンド、メロディ、ヴォーカル、すべての要素がいちいちこちらの琴線に触れてくる。
 この曲を聴きたいがために、今日もこのディスクをCDプレーヤにつっこむのであった。

▼Sambassadeur - New Moon


(追記)
 セカンドではスプリングをカヴァーしていたが、こちらにはセルジュ・ゲンズブール「la chanson de prevert」のカヴァーが収録されている。これもなかなか。
 ちなみにSambassadeurというバンド名自体も、ゲンズブールからの引用だそうだ

Joe’s Menage詳報

2008年10月02日 | ザッパ関連
  
 先日お伝えしたザッパ新作「Joe's Menage」ですが、ザッパ情報サイト「Kill Ugly Radio」が伝えるところによれば、内容に関する情報をほとんど出さないまま通販のオーダー受付を開始する、というあこぎさにファンがそっぽを向いてしまったことにあわてたのか、Zappa Family Trustは、9/29付けでプレスリリースを出したようです。

 それによると、このCDに収録されている音源は、デモやスタジオリハーサル音源ではなく、1975年11月1日に米国ヴァージニア州ウィリアムズバーグにあるウィリアム&メリー大学というところで行われたコンサートを収録したものであるとのこと。

 その時のバンドメンバーについても記載があります。以下の通りです。

 ○Frank Zappa(guitar,vocals)
 ○Norma Jean Bell(alto saxophone,vocals)
 ○Napoleon Murphy Brock(tenor saxophone,vocals)
 ○Andre Lewis(keyboards,vocals)
 ○Roy Estrada(bass,vocals)
 ○Terry Bozzio(drums)

 ごく短期間しか在籍しなかったノーマ・ベル女史以外は、1976年2月に行われた来日公演と同じメンバーですね。

 また、トラックリストも判明しました。

 1. Honey, Don't You Want a Man Like Me?
 2. The Illinois Enema Bandit
 3. Carolina Hard-Core Ecstacy
 4. Lonely Little Girl
 5. Take Your Clothes Off When You Dance
 6. What's The Ugliest Part of Your Body?
 7. Chunga's Revenge
 8. Zoot Allures

 75年11月1日のコンサートというのは、ザッパライヴのデータベース「FZShows」にも記載がないのでよくわかりませんが、たったの8曲では、フルコンサート収録ではないと思われます。ザッパ自身がOle Lysgaardというファンに渡したカセットテープ音源が元になっているそうなので、そのテープに、もともとそれだけしか収録されていなかったということなのかもしれません。そして、カセット音源ということで音質も気になるところですね。

 と、ようやく「Joe's Menage」のかたちが見えてきました。
 とりあえず退屈なスタジオリハーサルとかではなくライヴ音源なので、注文してみようかなという気にはなっております。ZFTの思うつぼですかね。

 では「Zoot Allures」を。同名アルバムに収録されたヴァージョン。


※追加情報
 Zappa.comのJoe's Menage紹介ページが知らぬ間にアップデートされてました。
 「Carolina Hard-Core Ecstacy」のギターソロ(今回のCDに収録された音源と思われる)をバックに、ザッパとノーマ・ベルのツーショット写真などが次々と表示されます。
 これを聴く限りでは、音質は悪くないようですね。

Pictures of Adolf Again

2008年10月01日 | CDの感想
  
○「実録・連合赤軍 あさま山荘への道程(みち) オリジナル・サウンドトラック」(2008)
 以前感想を書いた若松孝二監督作品のサウンドトラック。音楽を担当したのはジム・オルーク。

 映画を見ながら聴いていた時には、まったく具象的な音楽に思えたのだが、こうして純粋に音楽だけと向き合ってみると、オルーク氏らしい抽象もそこここに感じられる。

 でも中心はやっぱり具象だ。ストーンズみたいなギターリフを持つ曲があったり、「暗黒の世界」クリムゾンを連想させる曲があったり。
 多くの曲でギターがメインなので、これまであまり意識したことがなかった「ギタリストとしてのジム・オルーク」の魅力を再発見したりもした。

 ブックレットに掲載されているインタビューによると、彼は、若松監督に何度もダメ出しをくらって、悪戦苦闘しながらこの音楽を作り上げたらしい。ここに流れる"70年代的な匂い"は、監督の意向が反映したものなのかもしれない。

 映画の性格上、明るい曲などひとつもなく、戦闘的であったり、陰鬱であったり、禁欲的であったりする曲ばかりが並ぶわけだが、だからこそ、ラストに置かれた「Pictures of Adolf Again」の叙情性が際立つのだろうと思う。

 そして、「Pictures-」の歌詞を読むと、なぜこの曲がこの映画のためにカヴァーされたのか、わかるような気もしてくる。

 どんな曲なのか聴いてみたい人はここでどうぞ。 

「新聞やTV画面に アドルフの姿が再び現れる/俺が腰を下ろすとすぐに アドルフの姿が現れる/間違ってる あんたは間違ってる/もう手札は捨てたほうがいい/間違ってる あんたは間違ってる/"アドルフはもう現れやしない"なんて」