音楽中心日記blog

Andy@音楽観察者が綴る音楽日記

うたかたのオペラ

2009年10月18日 | CDの感想
   
○加藤和彦「うたかたのオペラ」(1980)
 以前も書いたことがあるけれど、1964年生まれの僕にとって加藤和彦という人は、フォーク・クルセダーズの人でもなく、「あの素晴らしい愛をもう一度」の人でもなく、サディスティック・ミカ・バンドの人でもなく、まずは「ヨーロッパ三部作」の人であった。
 特にこの「うたかたのオペラ」は、初めて聴いた加藤和彦作品ということもあって思い出深い。洋楽メインストリームロックばかり聴いていた単純な高校一年生にこのアルバムは、「この世にはおまえの聴いているのとは違う種類のカッコいい音楽があるんだよ」とささやいたのだ。
 西ベルリンのスタジオ「ハンザ・バイ・ザ・ウォール」(そう、まだ「壁」はあったのだ)で、日本から連れていった演奏家たち(ギター:大村憲司、ベース:細野晴臣、ドラムス:高橋幸宏、ピアノ:矢野顕子といった人々)と「高級合宿」を行いながら作り上げた音楽。
 それは、ひとつ間違えば滑稽になりそうなスノビズムと退廃を湛えながらも、その実ひどくポップなものだった。
 録音にあたって彼が意識したであろうデヴィッド・ボウイ「ロウ」「ヒーローズ」的な翳りも、音像をタイトに引き締めつつも殺伐とした方向には向かわず、むしろ心地よい彩りとなっている。
 時代の先端をいくもの(つまり「カッコいいもの」)を追いかけ続けた加藤和彦という夢想家が、パートナーである安井かずみや優秀なミュージシャンたちの力を借りながら、そのすべてを咀嚼して作り上げた自分だけの王国。完璧なファンタジー。今聴いても十分魅力的だ。
 彼は、このときキャリアの頂点にいたのだ。そう僕は信じている。
 現在流通しているCDには、「ルムバ・アメリカン」や「ラジオ・キャバレー」における佐藤奈々子のコケティッシュな声が欠けてしまっているのが少々残念なんだけどもね…。


 YouTubeにLP音源をアップしている人がいた。

History of FZ

2009年10月16日 | ザッパ関連
 ひさびさのザッパネタです。
 HMVからこんな↓リリース情報が届きました。

◆Frank Zappa <History Of Fz>(HMV Japan)

 12/23発売予定のDVD3枚組。なんじゃこりゃ。しかも日本盤だ。
 内容がよくわからないので検索してみたら、紀伊国屋書店のサイトに情報を発見。

◆フランク・ザッパ/映像ヒストリー・オブ・FZ(3DVD BOX)[初回限定生産]
1960年代、ロック界におけるカウンター・カルチャーの旗手としてカルト人気を誇ったマザーズ・オブ・インヴェンション。そのマザーズを率い、以降1993年に他界するまで傑・怪作・問題作を世に送り出してきたフランク・ザッパ。本作は本人ほかFZファミリーの面々によってアルバム制作秘話などが語られる一級のドキュメンタリー。初回限定生産。

 うーん。こんなんありましたっけ。新たに作られたもの?収録時間353分とか書いてあるんだけど、にわかには信じがたい。さらなる情報求む。
 ちなみに同じ発売元からは、このDVDと同時に「Baby Snakes」DVDも再発されるらしいよ


 YouTubeで見つけたザッパのドキュメンタリーを貼っておきます。フロー&エディマザーズ時代の演奏と、若きゲイルに赤ん坊ドゥイージル&ムーン、ミス・パメラ&ミス・ルーシーなどが登場する54分。


※(11/2追記)
 コメント欄にて重力の誤字さんから情報をいただきました。HMVの商品ページに詳細が追加されたとのことです。
 それによれば、「ベイビー・スネイクス」と「ダブルーム・スペシャル」、そして「クラシック・アルバムズ: アポストロフィ+オーヴァーナイト・センセーション」の既発3タイトルをセットにしたものだそう。がっかりですね…。
 まあでもその3タイトルを持っていない人にとっては、お買い得だとは思います。どれもクオリティの高いフィルムですし。

Playing The Piano 2009

2009年10月06日 | CDの感想
 ビートルズモノボックスを聴き進めています。予想していた以上に楽しい。特に「サージェント・ペパーズ」モノの凄まじさと言ったら……。かなりの衝撃でした。
 モノ盤CDは、普段聴いている音量よりも大きめの音で聴くのがいいですね。ステレオ盤の音像とはまた違った魅力を堪能できます。

 といいながら、ビートルズばかりに集中するのも少々疲れてきたので、気持ちをリフレッシュするためにこんなアルバム↓を聴いていました。


  
○坂本龍一「PLAYING THE PIANO 2009 JAPAN SELF SELECTED」(2009)
 今年の春に行われたソロ・ピアノ・ツアー全24公演のライヴ音源から、本人が選んだ27テイクを収録した2枚組。
 坂本教授の新作アルバムを購入したのはずいぶんひさしぶりだ。

 冒頭に置かれた「hibari」という曲が凄い。素朴で愛らしいフレーズがミニマルに繰り返される曲なのだが、音の重心が少しずつ移動していき、いつまでたっても終わらない。深夜に布団の中で聴いてたら、ちょっとめまいがしてしまった。永遠に終わらないのじゃないかと思って。(結局、9分近く演奏は続く)

 で、2曲目「composition 0919」。パーカッシヴなフレーズが攻撃的に繰り返される曲。あーこんな感じで全編行くのかなーと少々不安に思っていると、次にメロディアスな「put your hands up」が来て、ほっとすると同時に、その静かな美しさにうたれる。

 そのあとは、抽象に振れすぎもせず、甘さに流れすぎもせず、ロートルファンにも配慮された選曲もあって、最後まで気持ちよく聴けた。
 淡々としたテイクが多く、観客の拍手や会場のノイズもあまり入っていないので、ライヴアルバムというよりはオリジナルアルバムに近い感触。
 深みのあるピアノの音色と響きも心地よい。 

 これを聴いて、俺はピアノが好きなんだ、という事実を再認識した。弦より管よりなによりピアノという楽器が好きなのだ。そうだった。忘れていたよ。