音楽中心日記blog

Andy@音楽観察者が綴る音楽日記

愛のむきだし

2010年01月02日 | 映画の感想
 明けましておめでとうございます。最近めっきり更新頻度が減ったこのブログですが、今年も細々と続けていきたいと思っています。どうかよろしくお願いいたします。

 大みそかから元日にかけて、いきなり雪が20センチくらい積もったので、どこにもでかける気になれず、DVDでこんな映画↓を見ていました。



 なんという、なんという映画。うちのめされるとは、こういうことをいうのですね。237分という上映時間がまったく長く感じられませんでした。

 誰もが激賞するヒロイン役の満島ひかりはもちろん素晴らしいのだけれど、僕の心に深く刻まれたのは、ゼロ教会コイケを演じた安藤サクラでした。
 謎めいた微笑(もしくは人を小馬鹿にしたような薄ら笑い)を浮かべながら、目的のためには手段を選ばない酷薄さとコケットリー。そしてその裏に隠された業の深さ。もうなんというかたまらんです。

 で、見終わった後には、ゆらゆら帝国「空洞です」がエンドレスで脳内リピートされるという事態に。



 特典ディスク収録のメイキングの中で、役者たちがこの映画に出演した充実感を口々に語っていたのとは対照的に、原案・脚本・監督の園子温が「作らなければよかったと思ったことが何度もあった。毎日が苦痛の連続だった。こんなに現場が楽しくなかった映画は初めてだった」と語っていたのが印象的でした。これにも業の深さを感じました。

 これからもう一度見ます。

Shine A Light

2009年01月04日 | 映画の感想
 

 明けましておめでとうございます。本年も「音楽中心日記blog」をどうぞよろしくお願いいたします。

 新年早々、発熱して寝込んでしまいました。それも仕事納めをし、大掃除やら食材の買い出しやら年末の家事もそれなりにこなして迎えた元日の晩に。さあこれから正月気分を満喫したるぞと思った瞬間に。なんか恨みでもあんのか俺の身体。

 まあでも適当に薬を飲んで一日横になっていたら、なんとか熱も下がって気分も楽になってきたので、名古屋まで出て、マーティン・スコセッシが撮ったストーンズのライヴ映画「シャイン・ア・ライト」を観てきました。
(ほんとはザ・フーのヒストリー映画「アメイジング・ジャーニー」の方を見たかったんだけど、上映時間と自分の都合があわず後日まわしに。)
 
 いやあこんなに笑える映画だとは思わなかったよ。終始にやにやしどおし。
 たとえば監督と照明スタッフとのこんな会話。

 スタッフ「18秒以上ミック・ジャガーに照明をあてると燃えますよ」
 監  督「燃えるって?どういう意味だ」
 スタッフ「いやライトが熱すぎて火が点いちゃうんです」
 監  督「いかん!ミックを燃やしちまったらたいへんなことになる」
 
 それからバンドの「王様」ぶりにも笑った。
 カメラ割りを決めるため、事前に演奏曲目リストをもらっておきたいスコセッシ監督。しかし撮影開始の直前になっても、セットリストはバンドから届かない。スコセッシいらいら。でもやっぱり届かない。そのうちメンバーがステージに登場し始める。演奏がスタートしちまう。仕方ない、ぶっつけでいくかと腹を決めた瞬間にリストが到着。「1曲目は!」
 自分からスコセッシに「映画撮ってくれ」と依頼しておいてこれだもん。

 しかし実は、コンサートのオープニングMCを務めたクリントン元大統領の方がもっと王様だったという…。
 だって、予定より遅れてやってくるクリントンの親族にいちいちメンバーが挨拶させられてんだから。あのキースまでもが。「Clinton, I'm bushed!」(クリントンさんよ、疲れるぜ!)とかジョークいってましたけどね。ちなみに、ブッシュ大統領の名前にひっかけたオヤジギャグですね。

 観客も笑える。最前列にはきれいめのお姉さまがずらり。演出なんだろうねえ、あれも。で、演奏中にメンバーが近づいてくるたび、観客が携帯を光らせて写真撮ってる光景があちこちで。万国共通行動でしたか。

 サウンドもなんかおかしかった。画面にキースが映ると、いきなりギターの音量が上がって聞こえる。なんじゃこりゃ。バランスの悪いブート音源聴いてるみたいやん。

 そしてライヴが終わって最後の最後に、スコセッシが技を見せるんですけども。あれは「これはワシの映画なんや!」という意思表示なのでしょうか。

 あ、演奏内容についてなんも書いてないな。ええと。ぜひ自分の目でお確かめください。実際のライヴと違って座って見られるんだから大丈夫。

 それにしても、このフィルムを見て、ほんとストーンズは"ショウビズ"の世界で生きてるんだなあと思った。清濁あわせ飲む古参兵のようなたたずまい。一筋縄ではいかない。
 それに比べると、フーは青臭いよな。正面からの突撃しか戦法を知らない初年兵みたいだもんな。芸歴はそんなに変わんないのにな。
 
 予告編でも貼っておきましょうね。

実録・連合赤軍

2008年03月24日 | 映画の感想
 先週の土曜日、名古屋シネマスコーレで「実録・連合赤軍 あさま山荘への道程」(監督 若松孝二)を観てきた。

 3時間を超える上映時間。見終わった感想は……うーん。なんだかすごく複雑な感情を抱いてしまった。傑作と言い切ることもできず、こんなものはダメだと切り捨てることもできず。もやもやする。

 おおざっぱに分けると、最初の1時間が時代背景の説明と、連合赤軍メンバーたちが山岳ベースで軍事訓練を始めるまでの経緯。
 次の1時間は「総括」要求により制裁・リンチが行われ、次々とメンバーが命を落としていく部分。
 そして最後の1時間、あさま山荘での籠城と銃撃戦が、山荘内部からの視点で描かれる。

 最初の1時間があまりに説明的過ぎ、また、ニュースフィルムの多用と劇中シーンのバランスがあまりよくないようにも感じた。
 また「革命」を指向すること自体がまるでア・プリオリなものであるかのように語られているので、感情移入がしにくく、ドラマに入って行く事がなかなかできない。

 しかしその経緯説明が終わり、山岳ベースでの総括要求→制裁・リンチ→メンバーの死という過程が繰り返されるようになると、知らぬ間に映画に没入してしまった。
 とりわけ、核となる遠山美枝子(演ずるのは坂井真紀)の死への過程については丹念すぎるくらい丹念に描かれるので、見ているのがつらくなるほど。ここには、どの時代にも存在する普遍的な「闇」が存在しているように思う。

 最後のあさま山荘での銃撃戦は、徹底して山荘内部からしか描かれない。もちろん予算や時間の制約もあるのだろうけれど、連合赤軍メンバーがひとりひとり生身の人間として扱われているのに、機動隊員など権力側の人間は、人格のないその他大勢としてしか描写されない。姿すらほとんど映らない。声と音だけ。そのあたりももやもや。まあ、これはそういう映画じゃねえんだよ、と言われればそれまでですが。

 それから、最後の大見せ場での加藤三兄弟末弟のセリフ。そういう落とし方はねえだろ、と思ってみたり、いややっぱり(映画的には)ああいうやり方しかないかと思ってみたり。ここでももやもや。
 
 役者は皆いい。この映画の美点は、彼らの存在感・実在感だと思う。
 特に永田洋子役の並木愛枝、森恒夫役の地曵豪、坂口弘役のARATAは素直に凄いと思った。坂井真紀もキャスティングが適切かどうかは別にして熱演している。奥田恵梨華が杉崎ミサ子役で出演しているのも嬉しかった。(ファンです。)
 それから早岐やす子役を田島寧子って人がやってるんだけど、これってオリンピック銀メダリストのあの人でしょうか。「めっちゃ悔しぃ~!! 金がいいですぅ!!」の。すぐ処刑されてしまうのでよくわからなかったのですが。

 なお、「実録」と銘打ってあり、登場人物はすべて実名であるものの、経緯をはしょってある部分や、設定や登場人物の役割等、史実と異なる箇所は複数ある。
 たとえば、山岳ベース跡が発見されてからの山越えは実際は夜に行われたが、ここでは昼(ただし吹雪の中の行軍)になっている。赤軍兵士たちは、あさま山荘に立て籠もる前に別の山荘(さつき荘)に侵入しているが、その描写は全くない。また、遺棄された赤ん坊(山本夫妻の娘 頼良)を運ぶ人物は、実際は中村愛子であったのに、彼女は途中で脱走してしまったことになっており、杉崎ミサ子にその役が割り当てられている。などなど。

 音楽はジム・オルーク。70年代ぽいギターサウンドを具象的に聞かせるのが意外だった。もっと抽象的な音楽をひねり出してくるのかと思っていたので。
 クライマックスで流れるヴォーカル入りの情緒的な曲はなんだろう? オリジナルなのかな。(※)

 いずれにしろ、いろんな点でどうにももやもやが残ってしまっているので、DVDが出たらもう一度見なきゃならないかも。

 それにしても、任務中の空き時間に銭湯に入ったことを理由に「敗北死」させられてしまったり、森恒夫の目がかわいいといっただけで制裁を受けて結局死んでしまったり、つまみぐいは反革命であったり(「あんたの食べたクッキーこそ反革命の象徴だ!」)、革命を目指すってのはつくづく不自由なもんだなあと思いました。

 ちなみに、この映画のパンフレット替わりに出版された本は、かなり充実した内容でした。連合赤軍事件の基礎資料としても十分役に立ちます。

 予告編。
 

※3/25追記
 Bill FayというSSWの「Pictures of Adolf Again」という曲をジム・オルークがカヴァーしたものらしい。これ
 オリジナル・ヴァージョンはここで聴ける。