音楽中心日記blog
Andy@音楽観察者が綴る音楽日記
 



   
○加藤和彦「うたかたのオペラ」(1980)
 以前も書いたことがあるけれど、1964年生まれの僕にとって加藤和彦という人は、フォーク・クルセダーズの人でもなく、「あの素晴らしい愛をもう一度」の人でもなく、サディスティック・ミカ・バンドの人でもなく、まずは「ヨーロッパ三部作」の人であった。
 特にこの「うたかたのオペラ」は、初めて聴いた加藤和彦作品ということもあって思い出深い。洋楽メインストリームロックばかり聴いていた単純な高校一年生にこのアルバムは、「この世にはおまえの聴いているのとは違う種類のカッコいい音楽があるんだよ」とささやいたのだ。
 西ベルリンのスタジオ「ハンザ・バイ・ザ・ウォール」(そう、まだ「壁」はあったのだ)で、日本から連れていった演奏家たち(ギター:大村憲司、ベース:細野晴臣、ドラムス:高橋幸宏、ピアノ:矢野顕子といった人々)と「高級合宿」を行いながら作り上げた音楽。
 それは、ひとつ間違えば滑稽になりそうなスノビズムと退廃を湛えながらも、その実ひどくポップなものだった。
 録音にあたって彼が意識したであろうデヴィッド・ボウイ「ロウ」「ヒーローズ」的な翳りも、音像をタイトに引き締めつつも殺伐とした方向には向かわず、むしろ心地よい彩りとなっている。
 時代の先端をいくもの(つまり「カッコいいもの」)を追いかけ続けた加藤和彦という夢想家が、パートナーである安井かずみや優秀なミュージシャンたちの力を借りながら、そのすべてを咀嚼して作り上げた自分だけの王国。完璧なファンタジー。今聴いても十分魅力的だ。
 彼は、このときキャリアの頂点にいたのだ。そう僕は信じている。
 現在流通しているCDには、「ルムバ・アメリカン」や「ラジオ・キャバレー」における佐藤奈々子のコケティッシュな声が欠けてしまっているのが少々残念なんだけどもね…。


 YouTubeにLP音源をアップしている人がいた。


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コメント
 
 
 
ヨーロッパ三部作 (タイコウチ)
2009-10-19 23:03:50
Andyさんと同世代の私にとっても、加藤和彦といえば、この三部作であり、今となってはやはりここがピークだったように思います。日本人でありながら、異人さんのような加藤氏のかっこよさに(マネすらできなかったけれど)憧れました。

現行のCDは、佐藤奈々子の不在や「ルムバ・アメリカン」のイントロなど残念なところもありますが、それでも素晴らしい音楽作品だと思います。
 
 
 
パパ・ヘミングウェイ。 (Andy@音楽観察者)
2009-10-20 03:06:05
実はタイコウチさんが書かれた追悼文に触発されて、このエントリを書いたのです。いろいろと感ずるところがありました。

これだけ完成度の高い音楽を作った彼のことを思うと、今回の自殺も、彼の美学のひとつのようにも思えてしまいます。「王国の崩壊」に耐えきれなかったのだろう、という妄想。

それにしても、「うたかたのオペラ」のオリジナルマスターは本当にもう残っていないんでしょうか…。
 
 
 
合掌 (spondee)
2009-10-20 17:15:18
ロックの枠を早く飛び出したい。
パンクスピリッツだけ持って、あらゆる音楽を「かっこいい」という基準だけで、聴いていたい。
パンク以降、そんなことばかり考えていた80年前後。ニューウェイヴというジャンルは、フォークも昭和歌謡もボサノヴァもオペラもみな、ロックの枠で聴けるんだと実感させてくれた。
ロックはいやだけど、ニューウェイヴはOK。そんな空気があった。
そして、加藤トノヴァン。三部作は、シャンソンを初めとする欧州音楽をニューウェイヴという枠で聴かせてくれた。
毎日聴いていた。日本のニューウェイヴは、センスがよかった。
背の高いギタリストは、かっこよかった。ピート・タウンゼントと勝手に(本当に勝手に)ダブらせていた。

合掌。

伊藤つかさの「夕暮れ物語」。加藤・安井コンビの中で、実はいちばん好きなのですが。。。
 
 
 
ベル・エキセントリック。 (Andy@音楽観察者)
2009-10-20 20:59:57
>三部作は、シャンソンを初めとする欧州音楽をニューウェイヴという枠で聴かせてくれた。

同感です。ニューウェイヴというフレームがあったから、あんなにカッコよく聞こえたんですよね。

プロデュースワークもいろいろとやってましたね、あの頃。当時は資金不足でなかなか手が出せず、あまりきちんとおっかけられなかったのですが、大貫妙子作品での仕事が印象に残っています…。
 
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