むらぎものロココ

見たもの、聴いたもの、読んだものの記録

ルカ・マレンツィオ

2005-06-25 17:18:12 | 音楽史
marenzioLUCA MARENZIO
Madrigali a quattro voci Libro Primo 1585
 
Rinaldo Alessandrini
CONCERTO ITALIANO

マドリガーレはイタリア語のマードレ(母)に由来し、イタリア語で歌われる世俗歌曲をさす。14世紀にもマドリガーレはあったが、16世紀のマドリガーレはそれとは違い、詩人と作曲家の共同作業によってつくられていた世俗曲としてのフロットラに高度な対位法的技法を加えたものである。16世紀半ば頃になると様々な作曲上の実験がなされ、マドリガーレは最も進歩的な楽曲形式になっていくが、歌われる詞も高い文学性を持つものになり、詩と音楽が対等に、そして緊密に結びついたマドリガーレは古典的な教養を持った貴族たちを満足させた。

ルカ・マレンツィオ(1553-1599)は、主にローマで活動した、マドリガーレの最も優れた作曲家の一人であり、言葉と音楽が緊密に結びつくことによって様々な情感を表現したり、情景を音の動きによって視覚的に表現する、いわゆる「音画法」を確立した。これは、例えば詩の中にある上昇や高さを意味する言葉には上昇する旋律や上行跳躍進行をあてたり、悲しみや苦痛には不協和音や下降旋律をあてたり、波をあらわすのに波打つような音型をあてたりするというようなもの。不協和音や半音階、転調が多用されることにより、均整の取れた旋律に歪みが生じてくる。また、対立や矛盾を際立たせるために長音階と短音階が用いられるようにもなった。歌詞が持つ意味や感情を伝えるために、対等に諸声部がからみあうポリフォニーから、和声的低音部と複数の独唱声部を持ったものへと変化していく。

「マドリガルの構造は、断片に砕かれ、新たな音の修飾音型によってふたたび、だがそれと定かに認められる中心を欠きながら、浮遊し、漂い消えゆく情動反映のうちにつなぎ合わされる。大胆な和音と向こう見ずな転調は驚くほど<近代的>な響きを持っている。ポントルモの新しい色彩の半音階法はマレンツィオの半音階法に酷似している。両者とも<サトゥルヌス的>タイプとしてもそっくりである。ポントルモが最初の<呪われた画家> peintres maudits の一人であったとすれば、マレンツィオは最初の<呪われた音楽家> musiciens maudits の一人であった」
(グスタフ・ルネ・ホッケ「文学におけるマニエリスム」第四部芸術的虚構としての人間18.音楽主義 マドリガル音楽)