田中雄二「電子音楽 in Japan」(アスペクト)
以前、「電子音楽インジャパン」というタイトルでアスキーから出版されたものの増補改訂版。付録にCDがついて実際に音も聴けるようになった。
この本は1950年代なかば、NHKに電子音楽スタジオが設立されてから現在に至るまでの日本の電子音楽の歴史を、作曲家やその制作を支えた技師、またレコード会社の人間や楽器の販売などを手がけた人たちへのインタビューを中心に構成し、たどっていくもので、細かい文字がほとんど余白のない状態でびっしりと並びそれが600ページ近くにも及ぶという大変な労作である。
12音技法とセリー音楽の流れを汲むシュトックハウゼンらの電子音楽とイタリアの未来派を源流とする、ピエール・シェフェールが始めたミュージック・コンクレートを先駆として、日本でも諸井誠や黛敏郎らによって電子音楽が制作されるようになるが、そうした現代音楽のエリートたちによる電子音楽の制作とその一方で映画、ラジオなどの効果音として電子音が使用されるようになっていく。電源や温度など、環境の影響を受けやすい当時の電子機器を使いこなすため、様々な工夫が技師たちによってなされていくが、それら職人技はまさに技術立国ニッポンならではといったところで、こうした部分は「プロジェクトX」的な感じで読める。
また、YMOと当時のテクノ・ポップについてはかなりのページが割かれており、YMO世代には興味の尽きないところだろう。
この本には電子音楽50年の歴史における、芸術的な営為とテクノロジーの発展との関係といったことや一部のエリートによる独占から大衆的に広がっていく過程があますところなく記述されている。未知なる音楽の可能性を追求するツールであったサイン波を発振するオシレーターに鍵盤がつき、鍵盤楽器のようになったかと思うと、プリセットされた音源も備えるようになって、誰もが同じように扱えるものになっていく。こうした流れは、極めて前衛的な芸術であった電子音楽がテクノ・ポップとなり、それが歌謡曲に波及してキッチュ化していくということにもつながるのだが、電子音楽のなれの果てとして、携帯電話の着信音が無機質に鳴ったところでこの本は終わる。もちろん新たな電子音楽の可能性や方向性を見出す作業は今も様々なところで行われているだろう。一時期のクセナキス再評価という動きなどもそのひとつで、いったん原点に回帰して、ありえたはずの方向性を再び見出すということだったと思う。
以前、「電子音楽インジャパン」というタイトルでアスキーから出版されたものの増補改訂版。付録にCDがついて実際に音も聴けるようになった。
この本は1950年代なかば、NHKに電子音楽スタジオが設立されてから現在に至るまでの日本の電子音楽の歴史を、作曲家やその制作を支えた技師、またレコード会社の人間や楽器の販売などを手がけた人たちへのインタビューを中心に構成し、たどっていくもので、細かい文字がほとんど余白のない状態でびっしりと並びそれが600ページ近くにも及ぶという大変な労作である。
12音技法とセリー音楽の流れを汲むシュトックハウゼンらの電子音楽とイタリアの未来派を源流とする、ピエール・シェフェールが始めたミュージック・コンクレートを先駆として、日本でも諸井誠や黛敏郎らによって電子音楽が制作されるようになるが、そうした現代音楽のエリートたちによる電子音楽の制作とその一方で映画、ラジオなどの効果音として電子音が使用されるようになっていく。電源や温度など、環境の影響を受けやすい当時の電子機器を使いこなすため、様々な工夫が技師たちによってなされていくが、それら職人技はまさに技術立国ニッポンならではといったところで、こうした部分は「プロジェクトX」的な感じで読める。
また、YMOと当時のテクノ・ポップについてはかなりのページが割かれており、YMO世代には興味の尽きないところだろう。
この本には電子音楽50年の歴史における、芸術的な営為とテクノロジーの発展との関係といったことや一部のエリートによる独占から大衆的に広がっていく過程があますところなく記述されている。未知なる音楽の可能性を追求するツールであったサイン波を発振するオシレーターに鍵盤がつき、鍵盤楽器のようになったかと思うと、プリセットされた音源も備えるようになって、誰もが同じように扱えるものになっていく。こうした流れは、極めて前衛的な芸術であった電子音楽がテクノ・ポップとなり、それが歌謡曲に波及してキッチュ化していくということにもつながるのだが、電子音楽のなれの果てとして、携帯電話の着信音が無機質に鳴ったところでこの本は終わる。もちろん新たな電子音楽の可能性や方向性を見出す作業は今も様々なところで行われているだろう。一時期のクセナキス再評価という動きなどもそのひとつで、いったん原点に回帰して、ありえたはずの方向性を再び見出すということだったと思う。