むらぎものロココ

見たもの、聴いたもの、読んだものの記録

ADSR

2005-03-28 02:10:00 | jazz
openOpen, to love
 
 
 
Paul Bley(p)


Attack Decay Sustain Release 四つに区分された音の生命。音はそれぞれの局面において様々な表情を見せる。表面がなめらかな磁器も顕微鏡で拡大すればザラザラ、ボコボコした表面を見せるように、ポール・ブレイはピアノの音の微細な肌理を聴かせてくれる。
黄金、銀、銅、鉄へとひたすらに下降していくローマ人の時代認識のように、ひたすらに減衰する音の運命からブルースもまた生まれる。音としての人生。
穏やかな水面を突き破って飛び上がる魚のようにひらめきに満ちたパッセージは、惰性的に下降する運命に対するエラン・ヴィタール(生の跳躍)である。

収録曲
1.Closer
2.Ida Lupino
3.Started
4.Open, To Love
5.Harlem
6.Seven
7.Nothing Ever was, Anyway


速度は、もちろん純粋だ

2005-03-27 01:29:00 | jazz
coreaNOW HE SINGS, NOW HE SOBS
 
 
Chick Corea(p) Miroslav Vitous(b)
Roy Haynes(ds)

「世界の輝きにひとつの新しい美、つまり速度の美がつけ加えられたことをわれわれは宣言する」(マリネッティ「未来派宣言」)

このアルバムでのチック・コリアのピアノはバド・パウエルの速度さえも牧歌的なものたらしめる。一つ一つの音は粒立ちが揃っていて、正確にして緻密であり、リリシズムに満ちている。ヴィトウスのベースやヘインズのドラムもこの速度に鋭敏に反応し、このピアノ・トリオによる音楽はシャープに研ぎ澄まされた機能美を備え、極めてスリリングに、それでいて軽やかに、さわやかにどこまでも突き抜けていく。

収録曲
1.MATRIX
2.MY ONE AND ONLY LOVE
3.NOW HE BEATS THE DRUM-NOW HE STOPS
4.BOSSA
5.NOW HE SINGS-NOW HE SOBS
6.STEPS-WHAT WAS
7.FRAGMENTS
8.WINDOWS
9.PANNONICA
10.SAMBA YANTRA
11.I DON'T KNOW
12.THE LAW OF FALLING AND CATCHING UP
13.GEMINI



古い写真を見るような

2005-03-26 21:37:00 | jazz
kieth_jarrettSOMEWHERE BEFORE
 
 
Keith Jarrett(p) Charlie Haden(b)
Paul Motian(ds)

モダンな演奏のなかにラグタイムなども入っているこのアルバムには、アルフレッド・スティーグリッツが撮影した20世紀初頭のアメリカの都市の風景を思わせるジャケットのように、古い写真を見るような懐かしさを感じる。もっとも、この懐かしさは実体験に根ざしたものではなく、音やイメージから得られた、ゆらゆらとたちあらわれる夢のような感覚に近い。
チャーリー・ヘイデンのベースによって、まどろみに似た心地よさに導かれる1曲目はボブ・ディラン作の「マイ・バック・ページ」だが、彼の曲のメロディーの美しさは、カヴァーされて初めてわかることが多い。

収録曲
1.MY BACK PAGE
2.PRETTY BALLAD
3.MOVING SOON
4.SOMEWHERE BEFORE
5.NEW RAG
6.A MOMENT FOR TEARS
7.POUTS' OVER(AND THE DAY'S NOT THROUGH)
8.DEDICATED TO YOU
9.OLD RAG




怖るべきものの始め

2005-03-25 21:17:00 | jazz
kuhnCHILDHOOD IS FOREVER
 
  
Steve Kuhn(p) Steve Swallow(b)
Aldo Romano(ds)

このアルバムは1曲目の「夜は千の眼を持つ」に尽きる。物憂げで耽美的な演奏が次第に強度を高めていき、狂気のスペクタクルへと突き進む。

……美は怖るべきものの始めにほかならぬのだから。われわれが、かろうじてそれに堪え、嘆賞の声をあげるのも、それは美がわれわれを微塵にくだくことをとるに足らぬこととしているからだ。(リルケ「ドゥイノの悲歌」手塚富雄訳)

収録曲
1.THE NIGHT HAS A THOUSAND EYES
2.SPRING CAN REALLY HANG YOU THE MOST
3.BAUBLES, BANGLES AND BEADS
4.THE MEANING OF THE BLUES
5.ALL THAT'S LEFT
6.I WAITED FOR YOU
7.EIDERDOWN


お城のエヴァンス

2005-03-22 00:57:00 | jazz
am_01_05898At The Montreux Jazz Festival
 
 
Bill Evans(p) Eddie Gomez(b)
Jack De Johnette(ds)

モントルー・ジャズ・フェスティヴァルでのライヴ録音。演奏のみならず、臨場感あふれるすぐれた録音としても評価が高いアルバムである。エディ・ゴメスの、弦が指板に当たる音がパーカッシヴな速弾きベース(慣れないと耳障りに感じるかもしれない)とジャック・デジョネットの細かく多彩なシンバル・ワークと時折見せる山の上から岩が転がり落ちるとでもいうような、敏捷さと鈍重さが同居したドラミング、そしてハードにメカニカルに弾きまくるビル・エヴァンスのピアノ。全体的に硬質でメタリックな印象。「サムデイ・マイ・プリンス・ウィル・カム」と「ウォーキン・アップ」がいい。

収録曲
1.ONE FOR HELEN
2.A SLEEPING BEE
3.MOTHER OF EARL
4.NARDIS
5.I LOVES YOU PORGY
6.THE TOUCH OF YOUR LIPS
7.EMBRACEABLE YOU
8.SOMEDAY MY PRINCE WILL COME
9.WALKIN' UP
10.QUIET NOW


レニーの門下生たち

2005-03-11 21:09:00 | jazz
koniLEE KONITZ WITH WARNE MARSH
Lee Konitz(as) Warne Marsh(ts)
Sal Mosca(p) Billy Bauer(g)
Oscar Pettiford(b) Kenny Clarke(ds)
Ronnie Ball(p)

リー・コニッツとウォーン・マーシュ、そしてピアノのサル・モスカ、ギターのビリー・バウアーの4人がトリスターノの門下生であり、ベースのオスカー・ペティフォードとドラムのケニー・クラークはバド・パウエルとトリオを組んだこともあるバッパーであるが、ここでは基本的にトリスターノ派のスタイルに沿った演奏をしている。
コニッツとマーシュの息の合ったユニゾンやそれぞれのエレガントなソロがなんといっても素晴らしい。

収録曲
1.TOPSY
2.THERE WILL NEVER BE ANOTHER YOU
3.I CAN'T GET STARTED
4.DONNA LEE
5.TWO NOT ONE
6.DON'T SQUAWK
7.RONNIE'S LINE
8.BACKGROUND MUSIC


レニーは厳格な音楽教師

2005-03-10 20:41:00 | jazz
tristano



Lennie Tristano/The New Tristano

アトランティックに残した2枚のアルバムをまとめた2in1CD。
トリスターノの音楽は、ビバップのホットな演奏とは対照的なものであるとしてクール・ジャズと呼ばれた。
彼はジャズの私塾を開き、リー・コニッツやウォーン・マーシュを輩出したことで知られている。門下生たちはトリスターノ派と呼ばれるようになるが、トリスターノの偏屈さが原因なのか、次第に彼から距離を置くようになる。
トリスターノは自分の演奏を録音したテープの速度を変えて、音のピッチを変化させたり、奇妙な音色にしたり、ピアノを多重録音したりした。こうした試みは、ポリフォニックな効果を狙うということもあるだろうし、自分のピアノのタッチを消すとか主観から逃れて客観的に自分の音楽をとらえるといったことでもあるだろう。また、テクニックの追求ではなく、録音技術、つまりテクノロジーの可能性とそれが音楽に与える影響などを意識したという点でトリスターノは先駆的なミュージシャンだった。
彼はリズムには禁欲的でひたすらキープし、キープさせる。ベースのピーター・インドはいじめられているみたいだし、トリスターノ自身による徹底した鬼のような左手のリズム・キープは頑固、厳格、偏執といった言葉と結びつく。しかし、それだけではないということはリー・コニッツと共演した演奏から窺うことができる。

収録曲
Lennie Tristano
1.LINE UP
2.REQUIEM
3.TURKISH MAMBO
4.EAST THIRTY-SECOND
Personel
Lennie Tristano(p)
Peter Ind(b)
Jeff Morton(ds)

5.THESE FOOLISH THINGS
6.YOU GO TO MY HEAD
7.IF I HAD YOU
8.GHOST OF A CHANCE
9.ALL THE THINGS YOU ARE
Personel
Lennie Tristano(p)
Lee Konitz(as)
Gene Ramey(b)
Art Taylor(ds)

The New Tristano
10.BECOMING
11.YOU DON'T KNOW WHAT LOVE IS
12.DELIBERRATION
13.SCENE AND VARIATIONS
a)CAROL
b)TANIA
c)BUD
14.LOVE LINES
15.G MINOR COMPLEX
Personel
Lennie Tristano(p)





speak your piece and be quiet

2005-03-09 21:33:00 | jazz
hawesHAMPTON HAWES TRIO
 
 
Hampton Hawes(p) Red Mitchell(b)
Chuck Thompson(ds)

何よりもスウィングすることをジャズのベースに置いたハンプトン・ホーズのこのアルバムは、どこを切ってもスウィングが溢れ出る、まさにジャズの楽しさが凝縮されたアルバムである。最初の「アイ・ガット・リズム」から急速なテンポでこれでもかとばかりに弾き倒すかと思えば、極めてリリカルな面もあわせもつ彼のピアノは一つ一つの音が稠密で、それが独特の粘りを出しているが、アーティキュレーションが明確でしつこさはない。ホーズのソロ・ピアノによるリリカルな「ソー・イン・ラヴ」が終わったあと、快速テンポの「フィーリン・ファイン」に移る瞬間はゾクゾクするし、「オール・ザ・シングス・ユー・アー」も素晴らしい。
ベースのレッド・ミッチェルは重低音で曲を支えるが、「イージー・リヴィング」や「ジーズ・フーリッシュ・シングス」では素晴らしいベース・ソロを聴かせる。

収録曲
1.I GOT RHYTHM
2.WHAT IS THIS THING CALLED LOVE
3.BLUES THE MOST
4.SO IN LOVE
5.FEELIN' FINE
6.HAMP'S BLUES
7.EASY LIVING
8.ALL THE THINGS YOU ARE
9.THESE FOOLISH THINGS(REMIND ME OF YOU)
10.CARIOCA


片田舎組曲

2005-03-08 01:52:00 | jazz
mabcsBACK COUNTRY SUITE
 
 
Mose Allison(p,vo) Taylor La Fargue(b)
Frank Isola(ds)

ザ・フーの「ヤングマン・ブルース」、ヤードバーズの「アイム・ノット・トーキング」など、モーズ・アリソンの曲は多くのロック・ミュージシャンによってカヴァーされている。この組曲の4曲目「ブルース」が「ヤングマン・ブルース」の原曲で、ロジャー・ダルトリーの踏ん張ったヴォーカルとは対照的なモーズ・アリソンの線の細いひよわなヴォーカルが聴ける。歌っているのはこの曲と「ワン・ルーム・カントリー・シャック」の2曲。
モーズ・アリソンはビバップの影響を受けたピアニストで、スリー・コードのブルースに即興演奏を加えたジャズ・ブルースがイギリスのモッズから高い支持を得た。ブルースといっても泥臭くなく、シンプルでスマートな演奏で、白人のブルース解釈としてブリティッシュ・ロックに影響を与えた。
「バック・カントリー・スイート」は手つかずの自然が残る新天地に人々が次第に暮らすようになり、気だるい夏の夜と厳しい冬を経て喜びの春を迎えるといった流れで組み立てられていて、アメリカ南部の情景が浮かんでくるようだ。
「ウォーム・ナイト」の気だるさ、「スキャンパー」のタイトルどおりの敏捷なピアノが素晴らしい。

収録曲
BACK COUNTRY SUITE FOR PIANO BASS AND DRUMS
1.NEW GROUND
2.TRAIN
3.WARM NIGHT
4.BLUES
5.SATURDAY
6.SCAMPER
7.JANUARY
8.PROMISED LAND
9.SPRING SONG
10.HIGHWAY 49

11.BLUEBERRY HILL
12.YOU WON'T LET ME GO
13.I THOUGHT ABOUT YOU
14.ONE ROOM COUNTRY SHACK
15.IN SALAH


shank of the evening

2005-03-07 00:36:00 | jazz
BudshankBUD SHANK QUARTET
 
 
Bud Shank(as,fl) Claude Williamson(p)
Don Prell(b) Chuck Flores(ds)

このアルバムはボブ・クーパー作の「バグ・オブ・ブルース」から始まる。いかにもウエスト・コーストといった感じの、まったりとリラックスした演奏に和んでいると、次の曲「ネイチャー・ボーイ」で一気に暗転する。この曲でのシャンクのフルートは悲痛な響きを持っている。こうしたダウナーな演奏とは対照的に、「白いバド・パウエル」と呼ばれたクロード・ウィリアムソンのスピード感のあるピアノが活躍する快活な演奏、あるいはラテン的な狂騒などもあり、ヴァラエティに富んでいる。リチャード・カーペンター作のブルース・ナンバー「ウォーキン」をハード・バップを確立したことで有名なマイルス・デイヴィス・オール・スターズの演奏と聴き比べるのも面白い。音圧からして全然違うが。

収録曲
1.BAG OF BLUES
2.NATURE BOY
3.ALL THIS AND HEAVEN TOO
4.JUBILATION
5.DO NOTHIN' TILL YOU HEAR FROM ME
6.NOCTURNE FOR FLUTE
7.WALKIN'
8.CARIOCA