むらぎものロココ

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ギョーム・デュファイ

2005-06-05 03:23:48 | 音楽史
dufay_003GUILLAUME DUFAY GILLES BINCHOIS
Ballades Rondeaux Lamentation

Dominique Vellard
ENSEMBLE GILLES BINCHOIS

単純なものから複雑なものに向かうという直線的な進化というものはない。天動説から地動説へというコペルニクスの転回も、地動説を採用した方が簡単な計算で天体の運行を表わすことができるからであったことを思い出だせばいい。

ルネサンス建築がゴシックの大聖堂に比較すれば単純、単調であったように、ルネサンスの音楽もそれ以前の音楽、特に中世末期のアルス・スブティリオールと呼ばれる複雑な音楽に比較すれば単純であるが、この中世の音楽からルネサンスの音楽へという変化においては、音楽が思念的なものから実際に聴くものとして考えられるようになったこと、それまで周辺的な存在であったイギリスの音楽に今までの音楽を活性化する新しい響きを感じ取ったこと、そして音楽を聴くことや演奏することによって心が動かされ、幸福感を感じることを肯定できるようになったということが重要である。

ギョーム・デュファイ(1400-1474)はカンブレ大聖堂の少年聖歌隊員から音楽家としてのキャリアをスタートさせているが、たびたびイタリアにも行き、ローマ教皇庁の聖歌隊員としても活動した。そこではイタリアの音楽だけでなく、様々な諸芸術を見たり学んだりして、単純な形態の幾何学的な配置により、部分間が調和し、全体が統一され、シンメトリックな構造を持つことによって成立するルネサンスの新しい美的感覚を養ったに違いない。
中世からの教会音楽とダンスタブル経由のイギリス音楽、そしてイタリアの音楽。これら様々な音楽が彼の中で出会い、融合し、やがてルネサンスのグローバル・スタンダードとなるような音楽様式をつくりあげていくことになる。甘美な響きを持つ3度音程の使用、低音域の拡大、全声部の同質的統一(和声感覚の強まり)、ミサ曲の楽章間を全体的に統一する循環ミサ(楽章の冒頭動機を統一するものと定旋律に基づいて全楽章を構成するものとがある)などなど。
また、世俗曲を定旋律とすることもおこなわれたが、ホイジンガの「中世の秋」によれば、このことは人々の生活全体が宗教に包みこまれたことにより、日常生活が聖性の高みに持ち上げられると同時に聖なるものが日常の領域に押し下げられることにもなり、聖と俗の境界が次第に曖昧になっていったことを示すものである。
デュファイの通作ミサにおける代表作としては「ミサ・ロム・アルメ」が挙げられるが、これは「ロム・アルメ」というフランスの世俗歌を定旋律に用いたものである。
また、デュファイの世俗曲はバンショワの作品ともあわせてブルゴーニュ・シャンソンと呼ばれ、憂いを帯びた、どこかノスタルジックな雰囲気を醸し出す音楽である。