むらぎものロココ

見たもの、聴いたもの、読んだものの記録

フランソワーズ・アルディと散乱する紙くず

2005-01-29 23:30:44 | 音楽その他
hardyLes Annees Vogue
Francoise Hardy Best Selection 
 
 
Francoise Hardy



このアルバムは「男の子女の子」でデビューした1962年から67年までのヴォーグ・レーベルに残した音源からセレクトされたベスト盤。60年代のフランスでは従来のシャンソンにロックンロールをかけあわせた音楽、いわゆる「イエイエ」が流行したが、アルディも最初はイエイエを歌うアイドル歌手としてスタートした。彼女はブリジット・バルドーやフランス・ギャルとは違った、アンニュイで中性的な魅力が持ち味で、自分で曲作りもするアーティスティックな面も備えていた。hardy00
70年代に入るとアイドルから脱皮し、シンガー・ソングライターとしてより充実した音楽活動をするようになるが、フォトジェニックなルックスに加えて大人の女としてのカッコよさを体現するようになっていく。例えば「私生活」というアルバムの裏ジャケのように、紙くずが散乱し、酒のビンが置かれた部屋というやさぐれたシチュエーションであってもギターを抱えている後姿がとてもサマになっている。
ango1このようなやさぐれたシチュエーションはその昔の日本においては原稿用紙を前に格闘する、やさぐれを通り越した生き様のすごみを見せつける文士にのみ許された領域であった。この林忠彦が撮影した坂口安吾の写真はそういう文士のイメージを決定づけたものだろう。
minercところが、この領域をポップに侵してしまったのが嶺川貴子で、「roomic cube」のジャケットでの紙くずの散乱した部屋はやさぐれたシチュエーションではもはやなく、アルディへのオマージュであることを示す記号でしかない。だから彼女がギンガムチェックのシャツを着ていたとしても別に違和感はない。それは様々なノイズ、調子はずれの音、そして時に絶望的なまでの破壊的なサウンドを繰り広げながら、あくまでもロリータ・ポップであるアルバムのイメージにマッチしている。
散乱する紙くずは、かきむしられてぐしゃぐしゃになった髪の毛、酒や煙草のにおい、眠らずに迎えた太陽のまぶしさとともに、創作する過程における生みの苦しみを表わすものだったはずだが、それはもう遠い昔のこと。