むらぎものロココ

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アキテーヌのポリフォニー

2005-01-05 22:58:26 | 音楽史
pasmlPOLYPHONIE AQUITAINE DU XⅡ SIECLE
(St-Martial de Limoges)
Extraits des matines de Noel
Marcel Peres
Ensemble Organum

マルセル・ペレスは中世西洋音楽の演奏において非西洋的な側面を強調するアプローチを取っている。そのためにある種の異様さを感じさせもするのだが、強靭なエネルギーに満ちていて抗しがたい魅力がある。このアルバムにはサンマルシャル修道会のクリスマスの朝課で用いられる聖歌が収録されている。ジェラール・レーヌやドミニク・ヴェラールが参加。

単旋律であるグレゴリオ聖歌に対旋律を付け加えて歌うことからポリフォニー音楽が生まれた。その実例は9世紀後半の「音楽提要」の中にオルガヌムとして初めて記された。オルガヌムは聖歌の旋律である主声部(vox principalis)の下に例えば完全5度のオルガヌム声部(vox organalis)を加えることで成り立つ(平行オルガヌム)。さらに主声部のオクターブ下、オルガヌム声部のオクターブ上を加えるなどして3声、4声の複合オルガヌムを作ることもできる。声部間の音程は完全5度、完全4度、オクターブとなるのが一般的。しかし声部間の音程が三全音(例えばbとf)になる場合があり、これは「悪魔の音程」として忌避される。こうしたオルガヌムは声部間は1音対1音(punctus contra punctum)で対応していた。これが後の対位法(contrapunctus)の語源となっている。厳密には1音対1音の場合はディスカントゥスと言い、オルガヌムとは区別するようだ。
11世紀になると、厳格な平行オルガヌムから斜行や反行が用いられ、声部間の独立性がより強くなる自由オルガヌムに移行するようになる。この場合はオルガヌム声部が主声部の上に加えられる。(グィード・ダレッツィオの「ミクロローグス」)。
12~13世紀頃のオルガヌムの重要なものの一つがフランスのリモージュにあるサンマルシャル修道院に保管されていた(図書室の管理がすぐれていたらしい)4冊の写本であり、これはアキテーヌ様式として知られるネウマ譜によって記譜されている。アキテーヌのオルガヌムはメリスマティック・オルガヌムと呼ばれ、聖歌を下声部(tenor)とし、その全てあるいは一部の音が長く伸ばされ持続する上に速い動きの上声部(duplum)を付け加えたものである。

金澤正剛「中世音楽の精神史」(講談社選書メチエ)
→「オルガヌムの歴史」
H.M.ミラー「新音楽史」(東海大学出版会)
→「初期のポリフォニー(多声音楽)」