むらぎものロココ

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フィリップ・ド・ヴィトリ

2005-01-12 00:21:10 | 音楽史
vitryPHILIPPE DE VITRY
Motets & Chansons


Sequentia
Benjamin Bagby & Barbara Thornton

フィリップ・ド・ヴィトリ(1291-1361)は14世紀フランスを代表する知識人であり、「アルス・ノヴァ」という全24章からなる論文の著者として知られている。「アルス・ノヴァ」は1320年頃のもので、前半部分で中世の伝統的な音楽理論を説明し、後半部分で新しい記譜法の説明をしている。その記譜法は二分割リズムを許容し、メンスーラ記号を用い、ロンガ、ブレヴィス、セミブレヴィスといった音符のほかに、より短い音価のミニマ、セミミニマなどを加え、さらにはプンクトゥス(点)や赤符も使うなどして、小さな音符を複雑に組み合わせることで、より自由で微妙な表現を可能とするものだった。ヴィトリのモテトゥスもこのような記譜法について記述した者にふさわしく、細かい音の動きが面白いものとなっている。
このセクエンツィアのアルバムはヴィトリ生誕700年を記念したもので、ヴィトリの楽曲という可能性があるものを20曲、モテトゥスやシャンソン、ヴィルレーなども含め録音しているが、実のところ、ヴィトリによる楽曲であると現在確定しているものは12曲で、すべてモテトゥスであるとのこと。
このなかにはヴィトリが音楽を担当したとされる風刺劇「フォーヴェル物語」からの楽曲もある。この劇は1314年頃、ジェルヴェ・デュ・ビュスによって書かれたフォーヴェルという驢馬の立身出世の寓話で、出世したあとのフォーヴェルの傲慢な生活を描くことにより、教皇や国王などの権力者を批判する内容となっている。中世では鹿毛色の牝驢馬は邪悪と裏切りの象徴であり、これを絵画の主題としたものも多く、この物語はそうした絵画の注釈のようなものでもあるという。