むらぎものロココ

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アルス・スブティリオール

2005-01-16 02:47:35 | 音楽史
arssubtilisARS SUBTILIS YTALICA Polyphonie pseud francaise en Italie,1380-1410
Pedro Memelsdorff
MALA PUNICA
Musica nell'autunno del medioevo

fleursdevertusFleurs de vertus 
chansons subtiles a la fin du XIV siecle

Crawford Young
FERRARA ENSEMBLE

14世紀後半になると、フランスのアルス・ノヴァとイタリアのトレチェントは相互に影響を与えあうようになった。ランディーニがアルス・ノヴァ的な複雑なリズムを取り入れたり、マショーの死後、より一層複雑なリズムを追求するようになった後継者たちが、それを表わすためにトレチェントの記譜法の影響を受けながら音符の形を変えたりした。
このような相互影響から生まれた14世紀末の極端に複雑で技巧的、知的な特徴を持つ音楽のことをアルス・ノヴァの範疇を逸脱しているものとして、ウルスラ・ギュンターが「アルス・スブティリオール」と名づけ、ひとつの様式とした。スブティリオールとは「繊細、優美」を意味するが、フィリポクトゥス・デ・カセルタの音楽理論書の中にある表現を借りたものである。
cordier2アルス・スブティリオールの主な音楽家にはソラージュ、トレボール、マッテオ・ダ・ペルージャ、ボード・コルディエなどがいる。この音楽は、教会大分裂(シスマ)や王家の分裂、様々な災害、百年戦争などによりもたらされた時代の不安を反映したものとされ、複雑なリズムに憂いを帯びた旋律がからみあう様式は、現実から逃避して技巧に溺れた閉塞した音楽だと言われる。楽譜は難解なものとなり、極端な例になるとハートや円などの変型楽譜まで作られるようになる。ボード・コルディエによるこのような変型楽譜はアルス・スブティリオールの自閉的、退廃的な側面を示すものとされるが、洗練された知的遊戯としてみれば、さほど深刻に考えるものではないかもしれない。いずれにせよ、アルス・スブティリオールの音楽は洗練された美しさを持ち、中世の音楽はここにおいて頂点を極め、爛熟の果てに終わった。
このアルス・スブティリオールの音楽に精力的に取り組んできたマーラ・プニカとフェラーラ・アンサンブルのアルバムはいずれも優れた演奏力と憂いのある雰囲気が素晴らしい。