むじな@金沢よろず批評ブログ

台湾、国際情勢、アニメなどについて批評

レバノン内戦を題材にしたドキュメンタリアニメ「バシールとワルツを」

2009-03-10 03:08:20 | 中東
アカデミー賞にノミネートされたイスラエルのドキュメンタリアニメ Waltz with Bashir(直訳すれば「バシールとワルツを」、中文名「與巴席爾跳華爾茲」) が台北・西門町の真善美で2月27日から上映されているが、あまり客の入りも良くなく、そろそろフェードアウトしそうなので9日夜見に行った。
レバノン内戦中にイスラエルが、キリスト教右派カターイブ(ファランヘ)に肩入れしてレバノンに侵攻した際、従軍した人にインタビューし、さまざまな記憶を引き出しながら、戦争の悲惨さを訴えるドキュメンタリータッチのアニメだ。時間は90分。
バシールは、就任直後に殺害されたカターイブ所属の大統領バシール・ジェマイエルのことで、アニメの中でカターイブの民兵が市街戦で、ワルツを踊るかのように狂ったように機関銃を撃ちつづける場面からとったものだ。
アニメでは、イスラエル軍が見守る中、カターイブによるパレスチナ人難民キャンプでの蛮行についても言及され、「まるでナチスのワルシャワ攻撃のようだ」とユダヤ人らしい描写を加えているところが、圧巻だ。またイスラエル軍がパレスチナ人虐殺の共犯であるという告発も行っている。
イスラエル映画基金の協力でつくられたようだが、イスラエルが一定の言論の自由があるからこそ描けたものだろう。

とはいえ、そこはイスラエルだからか限界とご都合主義がある。

というのも、今年のガザ攻撃に見られるように、イスラエルはパレスチナ人虐殺について、「共犯」どころか、直接の下手人、首謀者、主犯、主体である例は多々あるのに、それらを題材にすることなく、そしてパレスチナ人と同じアラブ人のカターイブを直接の悪者に仕立てて、それを隠れ蓑にした「共同従犯」という形での批判になっているところが、ご都合主義というべきだろう。

もっとも、そうしたご都合主義を超えて、戦争そのものの悲惨さと、パレスチナ人の悲劇を前面に出そうとしているところは多としたい。そしてナチスによる虐殺と重ねあわせた批判を行っているところも、シオニストの多くがこれまでパレスチナ人虐殺について指弾する人間をナチスの同調者とする情報操作を行っていたことからすれば、大きな進歩であろう。

この監督の立場は、限界も考えれば、シオニスト左派であるが、ポストシオニストに近い立場だといえるのかもしれない。

事実、「当事者」レバノンでも、イスラエル製作のソフトの閲覧が禁止されている中でも、闇でこのDVDが流通し、「レバノン人自身がこの問題を総括していない中で、敵であるイスラエルが先に自らの問題に取り組んだ点ではすごい」という評価が出回っているらしい。

そういう意味では今後、レバノン人がこの問題について映像作品をつくることを期待したい。もちろん宗派対立という微妙な問題にかかわることで、描きにくいとは思うが。

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