むじな@金沢よろず批評ブログ

台湾、国際情勢、アニメなどについて批評

台湾とセネガルの断交は、日本外交にも警鐘

2005-10-31 05:12:41 | 台湾政治
 台湾政府は10月25日夜、友邦だった西アフリカのセネガルが中国と国交を樹立し、しかも「台湾は中国の一部であることを承認」したことから、セネガルとの断交を発表した。これで台湾と国交がある国は25カ国になった。
 中国の外交攻勢によって、最近台湾の国交国が減りつつあるが、今回の断交は二つの意味で衝撃的で、台湾各紙は26日、27日付けと二日間にわたって大きく報じた。
 たとえば26日は台湾日報2面(自由時報なし)、聯合報2面、中国時報10面、27日は自由時報4面、台湾日報3面、聯合報2面、中国時報3面がそれぞれほぼ全面を使って特集した。
 衝撃の二つの意味とは、(1)セネガルと中国の国交交渉が極秘におこなわれ、台湾側がまったく掌握できず、国家安全情報収集能力が欠如していることが明らかになった。(2)セネガルは台湾の国交国の中では、規模も大きく、西アフリカの雄としてかなり重要な地位を占めていたこと。
 2000年以降では、欧州のマケドニア、中米のドミニカ国、グラナダ、アフリカのリベリア、大洋州のナウル(その後復交)と断交しているが、マケドニアは関係が短かったし、ほかはそれほど重要な意味を持たなかったし、事前に情報を掌握していたこともあって、それほど騒ぎにはならなかった。
 しかし今回の場合はかなり衝撃的である。実は私自身も来年セネガルに行こうと思っていたからだ。アフリカも行ってみたくなって、ちょうど来年4月にセネガルで国会議員選挙があることから、いろいろと調べていたら、わりとよさそうな国だと思っていた矢先だった。

 セネガルはサハラ以南アフリカとしては、医療衛生設備は比較的ましなほうらしいし、スーパーも発達していて物も豊富らしい。また、文化的にも面白い。
 フランス語が公用語で、部族語もいくつかあるが、それでも地元の部族語のひとつウォロフ語(Wolof)は、サハラ以南のアフリカの民族語としては珍しく国内共通語・超民族語として通用している。もちろん、エチオピアのアムハラ語のようにキリスト教信仰とともに多くの歴史的文献があって現在でも多くの出版物が出ているとか、東アフリカのスワヒリ語のようにやはり文学語としてそれなりの地歩を固めているというわけではないが、コンゴ民主共和国のリンガラ語とともに、国内で広く共通語として使われている例として、アフリカの発展を考えるうえでも面白い例である。
(参照)砂野幸稔「セネガルにおけるウォロフ語使用>報告要旨」http://www3.aa.tufs.ac.jp/~P_aflang/TEXTS/june96/sunano.txt
 また、音楽的にも、世界的に有名な音楽家ユッスー・ンドゥール(Youssou N'Dour)が有名で地元でもよくコンサートをやっているらしい。
 市民団体が活発に活動していて、それが大きな内戦もなく、順調に民主化に移行するための基礎となった点で、同じくフランス語圏でかつては経済繁栄していたコートジボワールがその後内戦になって独裁体制を払拭できなかったことと対比して面白いようだ。
(参考)勝俣誠「第四章 セネガルにおける民主諸制度の運用-2001年のセネガルの政権交代をコートディボワールの政権交代を比較して」www.jiia.or.jp/pdf/global_issues/h14_africa/04_katsumata.pdf
 ほかにも次を参照:
「セネガル概観」http://www.geocities.com/CapitolHill/Congress/4430/dkr-01.htm
「セネガルへようこそ」http://www006.upp.so-net.ne.jp/africa/senegal/
「セネガルがいど」http://www2.mnx.jp/ggg/
「セネガルよもやま話」http://www.d7.dion.ne.jp/~usakou/

 それにしても不思議である。セネガルは1996年に復交してから、かなり緊密な関係にあったはずである。
 台湾と国交がある地域としてはアフリカ、中南米、大洋州があげられるが、台湾がアフリカでそこそこの実績を挙げていたのは、熱帯医療と作物ではかなりの蓄積があって、それを技術・知識提供できたからである。
 しかもセネガルは、台湾と親密になれる条件がほかにもあった。奇遇なことに、2000年に大統領選挙で、それまでの権威主義的長期独裁政党社会党から、民進党と同じくリベラルな民主党に政権交代がなされている。民進党が所属するリベラルインターナショナル(LI、本部はロンドン)にセネガル民主党も参加しており、LIが2002年セネガルの首都ダカールで開いた大会では民進党も当時の謝長廷主席を団長とする代表団を送り、セネガルとの友好関係を政党次元でも深めていた。セネガルはまた市民団体の活動も活発で、アフリカにおける民主化と政局安定の優等生と目されていた。
 もちろんぎくしゃくもあった。2002年のサッカーワールドカップでベスト8に進出したセネガルチームを台湾が招待した際、乱交など破廉恥事件を起こして問題になったことがある。
 しかし、総じて緊密で、私自身は不安定な関係が多い台湾との国交国の中では最も安定した関係にあると思っていた。それが突然の断交である。
 外交部や国家安全局など情報収集部門も、同じように考えてタカをくくっていたのか、セネガルと中国の接触をほとんど知らなかったという。接触はパリで行われていたようだし、さらにセネガル自身も台湾との国交を続ける意思をたびたび示していた。27日付けの各紙が伝えたところによると、陳唐山・外交部長は立法院での質疑に「騙された感じがする」と力なく答えたという。

 ただ、セネガルとの関係も後付けで見ればかなり危機的な兆候があった。
 聯合報27日付け15面に掲載のアフリカ問題専門家の厳震生氏の投書によれば、セネガルはアフリカではエジプト、南ア、アルジェリア、ナイジェリアに次ぐ規模と国力を持つ西アフリカの雄であり、アフリカ内での影響力と発言力が大きい。しかし発言力が大きいということは、それだけ中国との接触の機会も出てくる。まして経済発展を目指すには国連その他国際機関の援助を仰がないといけないから、国連常任理事国中国との関係が必須となる。南アが1997年に台湾と断交した際にも、南アの国際的地位の大きさを一員に挙げていた。ただし、聯合報に出た投書にしてはそれほど台湾に悪意ある内容ではなく、「セネガルと断交後アフリカの国交国は6カ国に減り、1997年にはアフリカに11カ国と国交があったのと比較すれば憂うべき状況だが、しかし1980年代の最も暗黒だった時期に3カ国のみだったのと比べたらそれほど悲観的になる理由はない」とも指摘している。
 また、自由時報27日付4面では、アフリカの国交国ブルキナファソ駐在大使への電話インタビューを掲載している。それによれば、台湾内部で青緑の対立で台湾全体の国力が消耗されて、外交で一貫性と積極性のある策が取れない点を指摘。さらに、問題は中国人はアフリカにおいても生活条件の悪さを関知せずに労働者としてたくさん来ているのに、台湾人はビジネスマンも投資したがらず、アフリカへの投資も少ない。民間関係が薄い状態で外交官だけに外交をゆだねている状態では、たとえ中国の圧力がなくても台湾は外交発展ができないという問題点を指摘している。
 たしかにそのとおりで、台湾人は戦後国民党政権の教育もあって、対米一辺倒で、留学も投資も米国を主体に、日本や中国に集中という形態で、世界を広く見る感覚が欠如している。これは、中国が世界覇権を目指してアフリカも含めたあらゆる国に人材を派遣して、専門家を養成し、投資も行っているのと比べると、きわめて貧弱な状況であることは確かだ。つまり問題は、セネガル断交後に国民党などが批判したように、陳水扁の外交センスの悪さにあるのではなく、野党も含めた台湾人全体の視野の狭さにあるのだ。

 また、27日付け中国時報3面によれば、セネガルをのぞく国交国25か国のすべてが危険で、安心できるものはひとつもない状況だという。
 セネガルなき後、重要なのはバチカン、パナマが残るのみだが、いずれもがきわめて危険な状況だ。ただ、バチカンの場合、聖職者任命問題で譲れないだろうから中国が信教の自由を認めないかぎり、本当に進展はないだろう。ただし、バチカンは72年以降台湾には代理大使を派遣しているのみで、しかも教皇がアジア歴訪しても台湾にだけは立ち寄らないという異常な状態にある。
 90年代までは、中米各国との国交は安定していたはずだが、ここに来て、中米各国の不正政治献金事件で台湾からの献金が問題になってイメージが悪化、さらに中国の経済力も台頭していることから中米の農産物を大量に買い付けていて動揺しているという。
 それでも比較的安定しているのは、アフリカのスワジランドとマラウィ、さらに新聞では指摘されていなかったが、おそらくパラオも安定しているはずだが、台湾外交はかなり危機的状況にあることは確かなようだ。

 しかしこれは、「アジアとアフリカの小国の間の関係断絶」という具合にたかをくくってはいけない。日本にも深刻な問題を投げかけるように思う。
 というのも、中国の外交攻勢は、ひとり台湾を包囲して台湾を完全になきものにして併合するという意図を持っているだけでなく、その目的はその先に、日本からアジアの大国の地位を奪い、中国がアジアの代表として世界にプレゼンスを示すという日本排除の論理も付きまとっているからである。
 私が最近レバノン、ドバイ、タイと旅行して感じたことは、日本のプレゼンスが小さくなり、中国が目立つようになっていることである。
 レバノンを9月30日に出るときに、空港で地元テレビを放映していたが、「おはようレバノン」という番組に中国人の外交研究者が二人出てきて、流暢なアラビア語で話していた。おそらく都合のいいことばかりいっていたのだろうが、アジアに対してわりと好意的な感情をもっているレバノン人からみたら、中国人の言い分はかなり浸透しやすい。しかし問題はそうやって中国が浸透していくと、日本を妨害して、結果的に日本が排除されてしまうことである。
 ドバイでは、圧倒的なインド人の波の中に、ときどき東洋人の顔が混ざっていて、目つきの悪さと怪しげな雰囲気から中国人だとすぐにわかる。中国雑貨店を開いたり、労働者として来ているらしい。ドバイのような保守的で親米的な産油国では、かつてはアジアの国でプレゼンスがあったのは日本だけなはずだ。しかも中東外交はきわめて弱い台湾も、ドバイには代表部をおいておりそれなりの地歩を固めている。しかし、最近ではハイアールの看板も見かけたり中国人の姿も多いこともあいまって、中国の台頭が目につくようになっている。
 これが、反米的なシリア、イランなどなら、中国のプレゼンスはもっと大きく、台湾は根本的に不在、日本も押され気味なのではないか。
 タイでは日本企業や日本人の圧倒的なプレゼンスが健在だったが、それでも現在のタクシン政権は親中国であり、中国の影はひしひしと大きくなっていることが感じられた。
 世界全体を見わたすとわかることは、中国が外交的に台湾を封じ込めて台湾の空間を狭めることは、実は同時に日本を追い落とすことにもつながっていることである。

 その点を気づいている日本人がとくに日本政府にどれだけいるか知らないが、セネガルとの断交も日本にとって警戒すべき点があると思う。
 セネガルはもともと親西側路線であり、日本人もノービザ待遇になっているように、日本にもかなり好意的な対応を保っている。しかし今回中国が国交を回復させたということは、中国がこれからセネガルにも労働者や諜報員も含めて大量に人を送りこむということであり、中国の最近の反日姿勢を見れば日本を排除する方向に工作するだろうことは想像に難くない。
 しかも噴飯モノなのは、セネガルが中国と復交するうえで、中国が20億ドルとも50億ドルとも言われる援助を約束したということである。中国はいわば金でセネガルをつったわけだ。事実、中国との国交を告げるワド大統領の陳水扁総統宛ての親書では「国家間には友人はない。ただ利益があるのみ」と指摘していた。
 しかし、不可解でならないのは、セネガルにそれだけの大金を援助できる中国は同時に、いまだに開発途上国面をして、日本からODAを受けたり、ほかにもゴビ砂漠緑化、西部大開発、貧困解決など、さまざまな名目で金をせびっている点である。それなら、日本は「セネガルにこれだけの金を援助しているなら、日本から援助は減らせばいいですね」といって、その分の援助額を削減するべきだし、セネガルが断交前の台湾に援助を要求したなら、日本が肩代わりして拠出するくらいのことをしてもよさそうなものである。

 というのも、台湾と国交がある国は、必然的に日本とも緊密で好意的、その逆に中国と緊密な国は日本と疎遠という関係が見られるからである(もちろんそれぞれ例外はある)。
 たとえば、別に私は常任理事国入りに積極的賛成派ではない(どちらかというと消極的)だが、国連改革枠組み決議案(G4案)の共同提案国で、G4を除く23カ国を見ると、次のようになる(以下、◎は台湾と正式に外交関係がある国、〇は台湾と国交はないが台湾に好意的な国、×は台湾とは関係が悪い)。
アジア(3カ国):アフガニスタン、ブータン×、モルディブ
ヨーロッパ(12カ国):ベルギー、チェコ〇、デンマーク、フランス×、グルジア、ギリシャ、アイスランド〇、ラトビア〇、ポーランド、ポルトガル×、ウクライナ、リトアニア
大洋州(7カ国):フィジー〇、キリバス◎、ナウル◎、パラオ◎、ソロモン◎、ツバル◎、マーシャル◎
中南米(3カ国):ハイチ◎、ホンジュラス◎、パラグアイ◎

 これを見れば一目瞭然だが、台湾と関係が深いところは、日本にも好意的である。G4は日本だけではないのだが、日本が入っていることに中国が反発していることから、ここで共同提案国になったところは中国および日本との関係がもっぱら焦点となる。
 中国は台湾だけをいじめていると考えるとしたら間違いだ。台湾をいじめて完全に追い込んで手中に収めることは実は過程と手段に過ぎず、その先には日本を追い落とし、日本を孤立化させるという遠大な目標があるのである。
 ところが、問題は日本の外交もお寒いもので、コイズミ政権登場以降はあまりにも米国一辺倒になりすぎて、日本が従来米国とは一線を画して独自に築いてきた東南アジアや中東・アフリカとの関係は、最近はおろそかになっているような気がする。米国との友好関係は重要だが、米国と心中するつもりでもないかぎり、米国とは距離をおいたり反米意識が強い東南アジアや中東においても米国追随外交では、日本自身のプレゼンスと足場を失うだけではないのか。小泉氏の果敢さはある程度は買うが、国際的視野が狭い点では、小泉外交は批判されてしかるべきであろう。

 いろいろ述べたが、要するに言いたいことは、台湾外交の苦境は、そのまま日本にも影響する問題であるということだ。台湾とセネガルとの断交は、対岸の火事ではなく、日本の外交戦略にも問題を突きつけているといえるだろう。日本も腰をすえて外交戦略の建て直しと見直しを図るときだろう。

最近ツいていない台湾

2005-10-31 05:11:36 | 台湾政治
 最近の台湾、とくに民進党政権はツいていない。
 8月下旬に高雄MRT(都市交通システム)建設作業に従事するタイ人労働者による「暴動」が起こって以降、台湾、民進党政権をめぐる不利な話があいついでいる。とくに先週10月25日の「光復節」(国民党側の言い方、国民党が日本から台湾施政権を奪った記念日)には、野党版NCC組織法成立、民進党系高官も関係していると噂される株式市場「禿鷹ファンド」インサイダー取引事件求刑、アフリカの友邦セネガルとの断交と、大事件が相次いだ。
 その前後にも、釜山で開かれるAPECへの台湾代表について、陳水扁政権が推薦していた国民党籍の王金平・立法院長の案が主催者の韓国側に拒否されている。また高雄MRT建設疑惑をめぐって、国民党右派系の聯合報や中国系のテレビTVBSなどが、業者から接待を受けたとの疑惑がある陳哲男・元総統府副秘書長が韓国チェジュ島の賭博場にいた写真を暴露したことから、クリーンイメージが強かった民進党のイメージが一挙に傷ついた。
 やや有利な話といえば、ハンセン病強制隔離問題訴訟で、東京地裁で25日、韓国人原告敗訴、台湾人原告勝訴の判決が出た点だけは、台湾にとって有利なニュースだった。
 雰囲気はかなり落ち込んでいる。私自身も気分が重い。

 発端となった高雄MRT建設タイ人労働者の暴動は8月22日に発生した。待遇が不当として不満のタイ人が暴動を起こした。これに対する台湾人・民進党政権の対応は、当初はまともだった。というのも、「タイ人の宿泊所の条件が悪く、タイ人への差別対応があった」と率先して反省したからだ。私が知っている限りでは、台湾人の外国人労働者の待遇は、差別があるとはいっても、他国(とくに日本や韓国)のそれに比べたらまだまだ人道的なほうだとは思うが、差別があったことは事実だし、それを率先して自己反省した点は台湾人の善良さを示すものとして賞賛に値すると思った。
 ところが、その後、民進党の良心で女性政治家として人気も高い陳菊・労工委員会主任委員(労働大臣)が、待遇差別など労働政策の誤りの責任をとって辞任したあたりから、別の暗雲が出てきた。というのも野党側がこの事件を契機に、高雄MRT建設をめぐって政府高官、高雄市高官の接待疑惑などを持ち出したからだ。
 高雄市は代理市長の陳其邁氏が辞任、女性の葉菊蘭氏が代理市長となった。
 10月に入ってから高雄にある国営企業・中国鋼鉄の林文淵会長による「社員持ち株不正取引」疑惑を野党側があげつらい、林会長が辞任に追い込まれた。さらに今年初めから続いているハイテク株のインサイダー取引疑惑をめぐって、民進党上層部を含む金融監督責任者が検察の調査対象となっていることが明らかになった。
 また、野党側は謝長廷行政院長の腹心である姚文智・新聞局長の素行などを槍玉に挙げて非難作戦を進行。新聞局が持っているテレビラジオの許認可権限を取り上げて、立法院が主導する「國家通訊傳播委員會(国家通信委員会、NCC)」なる機関で放送の許認可を行う「NCC組織法」を野党が過半数を占める立法院で上程、25日に可決された。
 一連の問題は、陳水扁総統を標的にもしているが、主に謝長廷・行政院長を狙い撃ちしていることは一目瞭然。謝氏は2月に行政院長になるまでは高雄市長だったし、高雄MRT、新聞局なども謝氏に近い人物が関わっているからだ。もともと彼は浮き沈みが激しく、これまでも身内などのスキャンダルに巻き込まれて政治生命を危うくすることがあり、運が良いとはいえない。私も個人的に、謝氏が行政院長になったときに、「また何かスキャンダルに巻き込まれなければいいが、大丈夫か」と不安を持ったが、その予感が的中した感じだ。
 謝氏は民進党の幹部の中では数少ない留学経験があり(しかも日本)、頭の回転が速く、切れ者で、策謀にも長けている。しかし、頭の回転が速すぎて、話が遠い先を見すぎているので、台湾人には理解されにくいし、さらに独立問題などさまざまな発言では(本心は別として)、支持者から反発を受けやすい言い回しをわざと使うなど、偏屈なところが災いして、能力のわりには反感をもたれやすいところがある。
 今回もそれが裏目に出ている感じがしなくもない。

 不思議なのは、本来民進党は危機管理能力は比較的優れていて(というのも、結党以来危機の連続だったから)、これまで国民党側から悪意ある「疑惑暴露」があっても、その都度即座に対応して(本当に悪い部分があればすぐに自己調査・処分するなどみぎれいにして)切り抜けてきたものだが、どうも今回は違うところである。対処の速度が遅くてもたもたしている感じなのだ。それがまた従来からの支持層の失望を買い、12月3日に予定される県市長など地方トリプル選挙の雰囲気を悪くしている。

 NCC組織法は、まだいい。たしかにこの法律の内容は、許認可の審査を立法院の議席比例に応じて割り当てられた政党推薦代表によって行うというもので、青色陣営お得意の方法(青色陣営が立法院で永久に多数派だという前提があるのだろうか?)だが、はっきりいって立法権による行政権侵害、権力分立原則否定の噴飯モノの法案なのだが、だが結果的には悪くはないと思う。
 というのも、民進党政権が新聞局を握っていても、実際に下で動いているのは国民党系の守旧官僚だから、韓国の進歩政権が果敢に行ったように許認可権限を駆使して、保守的メディアの是正を行うところまでいっていない。TVBSのように明らかに中国資本で作られているものを取り消しにできない。7月にはいくつかのテレビチャンネルの免許を取り消したが、なぜか緑系の台湾語局がほとんど。「国境を越えた記者団」が「野党テレビを弾圧した」と批判している東森Sチャンネル許可取り消しも、東森自身は日和見で国民党色が強いわけではないから、「野党テレビを閉鎖して弾圧した」ことにはならない。結局新聞局は右翼国民党勢力に対抗する姿勢は弱く、機能していないことがわかる。
 民進党に近い記者も「どうせ今より悪くなるはずがない」と指摘していたが、私はむしろNCCのように各党の議席に配分して、オープンな方法で審査したほうが、新聞局の国民党官僚が密室で審査する現行方式よりは、まだしもまともになると思う。はっきりいって民進党政権5年になっても、官僚の多くはまだまだ守旧派国民党で占められているのだから、行政部門を握っていれば権限があるとはいえない。
 だからNCCはそんなに悪い話ではないと思う。

 最近おこった事件で、今後の悪影響を一番心配しているのは、セネガルとの断交問題である。このまま行くと、台湾の存立そのものが大丈夫かという心配になってきた。これについては別稿で議論したい。

台湾の病院の話

2005-10-20 04:07:49 | 台湾その他の話題
 実は台湾に来てから、年に2-3回は何か病気で病院にお世話になっている。

 それにしても台湾の病院って、台湾人のアバウトさを反映しているんだよね。まあ
医者そのものがアバウトなのは、日本も同じなので別にそれは問題ではない。台湾の
すごさは、診察室に次とその次の患者を入れるので、カーテン越しに前の患者の病状
などプライバシー情報が漏れ漏れという点にある。
 すごいところになると、野戦病院みたいなもんで、医者が傷の殺菌措置をしている
すぐ横でおばはんがだべっている。傷口のところに唾も飛来してきて殺菌の意味があ
るんだかないんだかわからん。

 また、一度入院したことがあるんだが、これがまたすごい。3人部屋だったんだ
が、看病の時間規制とか、ほとんど無きに等しい。だから夜中の10時と朝6時に
看病の人間がどやどややってきてうるさい。隣の病室に来ていても声が大きいし防音
がしっかりしていないから、うるさい。でも一度隣の部屋に看病に来ていた一団が
ハッカ人だったみたいで大声のハッカ語が聞こえてきた。
 私が入院していた病室は、1人が台湾にやってきたばかりで北京語も台湾語もほと
んどできないタイ人労働者(タイ人だから英語も通じない)、もう1人が台湾人だっ
た。
 タイ人がこれまたすごくて、目の疾患で入院していたんだが、うつぶせになっては
いけないというのに、うつぶせになっていて、看護婦が注意しても言葉が通じない
から馬耳東風。看護婦も困っていた(でもこのとき、台湾人ってそれほどタイ人に
差別的な対応をしていたような感じではなかった。看護婦どうしの会話では「言葉が
通じなくて困るわね」程度の愚痴しかいっていなかった)。
 しかも別の病気で入院しているらしいインドネシア人女性の彼女がたびたび病室
にやってきて、カーテンで仕切るが、毎晩いちゃいちゃしている。一度セックスも
していたことがある。
 台湾人患者は、腰痛で入院していたのだが、「病院の飯はまずい」といって(た
しかにその病院はまずすぎた)、飯時になると「請暇」(休暇)といって、たびたび
外出していた。あるときは飯食った後に自宅にも行ったり、買い物もしていたらしく
8時間くらい戻ってこなかった。
 看護婦が「せっかく入院しているのに、たびたび休暇なんていって外出していたら、入院の意味がないじゃないですか」と説教していた。ごもっとも。でも、主治医
のサインなしに、看護婦に口頭通知するだけで、簡単に外出できるようなシステムに
なっているのも変なんだが。

 まあいずれにしても病院も台湾らしい、いい加減になっていたところが、なぜか
笑えた。

学術シンポで発表します

2005-10-15 00:13:35 | 台湾言語・族群
 民進党の外郭団体「新境界文教基金会」と台北市立教育大学(旧台北師範学院)社会科教育学部の共催で、「中華文化與台灣本土化」と題する研討會(学術シンポジウム)が10月15日と16日、台北市立教育大学勤樸樓B1國際會議廳で開かれます(最寄は中正紀念堂7號出口対面)。
 1日目は中國再想像、書寫認同、想像台語文、2日目は想像在地性、面對中華文化をテーマにセッションが、最後に台灣性與中華性的對立をテーマにパネルディスカッションが行われます。各セッションは1人の司会、3人の発表者、3人のコメンテーターがつく。
 私が発表するのは、2日目午後1時半から2時50分までの「面對中華文化」の部分で、題名は

對於「台灣為華人國家」說的質疑--正視東南亞反華情緒,檢討「華人」認同的風險

というもので、陳水扁総統などの「台湾は華人国家」という主張が、多元民族・文化論と矛盾し、さらに東南アジア在地社会の華人への反感を考えれば「華人」という位置づけは、台湾にとって不利であることを指摘したもの。
 いちおう中国語で書いたし、おそらく現場では状況にもよるが中国語を主に使うでしょう。
 本当は私の立場としては台湾語で書きたいのもやまやまだったが、台湾語界のシンポジウムではないことと、まだまだ「中華性」に疑問をもたない人間を説得するためにもわざと中国語を使うことにした(あとは、私が実は中国語もできることを示しておきたいという意味もある)。
 もっとも発表時には最初にハッカ語と台湾語でも説明して、質疑は両言語でも受けつけることを表明したうえで行いたい。
 台湾語界の仲間は1日目の午後3時50分から5時50分の「想像台語文」で発表する。しかしファイルをTaiwanese Package用の声調符号付きで主催者に送ってきたため、文字化けしたらしい。台湾語界以外のところでやる場合は、やっぱり声調符号抜きでやるべきだと思う。漢羅ならローマ字部分は声調符号がなくても判読できるわけだし。運動圏は圏外への想像が働かないところが問題だと思う。

2005「中華文化」與「台灣本土化」研討會議程表


第 一 日2005年10月15日(六)

時間 議程
08:30-09:00 30min 報到
09:00-09:20 20min 開幕式及貴賓致詞 主持人:張政亮 (台北市立教育大學社會科教育研究所所長)
• 貴賓致詞: 杜正勝 (教育部長)
李逸洋 (新境界文教基金會執行長)
楊長鎮 (新境界文教基金會族群部主任)
09:20-09:50 30min 專題演講:
․ 演講人:李喬 (總統府國策顧問)
09:50-10:10 20min 休息及茶敘
10:10-12:10 120min 第一場 中國再想像 主持人:徐正光 (考試院考試委員)
․ 發表人:楊聰榮 (中央大學客家學院助理教授)
․ 論 文:從文化分離主義談「中華文化本土化」--一個東南亞的視角
․ 評論人:徐正光 (考試院考試委員)
․ 發表人:陳君 (輔仁大學歷史學系教授)
․ 論 文:關於當前台灣「去中國化」現象的文化省思
․ 評論人:陳儀深 (中研院近代史研究所副研究員)
․ 發表人:林啟丞m (台灣智庫法政部研究專員/東吳大學政治系博士班)
․ 論 文:面對他者,台灣政治轉型後的主體想像
․ 評論人:徐永明 (中研院助研究員)
12:10-13:30 80min 午餐
13:30-15:30 120min 第二場 書寫認同 主持人:李淑珍 (台北市立教育大學社會科教育所副教授)
․ 發表人:趙慶華 (成功大學台灣文學研究所博士班)
․ 論 文:同樣的「外省」,不同的「第二代」當代女作家朱天心和利格拉樂•阿女烏的認同與書寫
․ 評論人:蒲忠成 (台北市立教育大學語言教育學系系主任)
․ 發表人:錢弘捷 (成功大學台灣文學研究所)
․ 論 文:繼承與抵抗:外省第二代王幼華、張大春老兵書寫中的離散思維
․ 評論人:王甫昌 (中央研究院社會所 副研究員)
․ 發表人:劉名峰 (法國巴黎高等社會科學院博士候選人)
․ 論 文:全球化時代的【中國性】的想像―龍應台2003年之後作品的本文分析
․ 評論人:李淑珍 (台北市立教育大學社會科教育所副教授)
15:30-15:50 20min 休息及茶敘
15:50-17:50 120min 第三場 想像台語文 主持人:鄭良偉 (交通大學電子與資訊研究中心)

․ 發表人:張學謙 (台東大學語文教育系副教授)
․ 論 文:從「中國化」到「多元化」的台灣語文政策:語言生態的觀點
․ 評論人:李勤岸 (台灣師範大學台語文學系專任助理教授)
․ 發表人:傷U為文 (成功大學台灣文學系助理教授)
․ 論 文:從漢字文化共同體到民族國家:以台灣為個案研究
․ 評論人:鄭良偉 (交通大學電子與資訊研究中心)
․ 發表人:廖秋娥 (台東大學社會科教育學系副教授)
․ 論 文:戰後台灣地名的中國化與去中國化-以台東市的街道名為例
․ 評論人:李廣均 (中央大學通識中心暨客家社會文化所副教授)
第 二 日2005年10月16日(日)
時間 議程
09:30-10:00 30min 報到
10:00-12:00 120min 第四場 想像在地性 主持人:齊力 (台北市立教育大學社會科教育所副教授)
․ 發表人:彭除T (中央大學客家社會文化研究所碩士班)
․ 論 文:外省客家人在台灣的適應與本土化:以廣東陸豐旅台莊氏宗親會為例
․ 評論人:齊力 (台北市立教育大學社會科教育所副教授)
․ 發表人:楊長鎮 (新境界文教基金會族群部主任)
․ 論 文:本土化論述與中華文化認同
․ 評論人:楊聰榮 (中央大學客家學院助理教授)
․ 發表人:薛建蓉 (成功大學台灣語文學系研究所)
․ 論 文:霸權下的鼓譟意識―從淡水廳志稿的徐S觀察清代台灣士紳鄭用錫的在地意識
․ 評論人:翁聖峰 (國立台北教育大學台灣文學研究所所長)
12:00-13:30 90min 午餐
13:30-14:50 80min 第五場 面對中華文化 主持人:施正鋒 (淡江大學公共行政學系教授)
․ 發表人:酒井亨 (日本早稻田大學政治學學士/台灣大學法學碩士/台灣歷史、社會研究家)
․ 論 文:對於「台灣為華人國家」說的質疑-正視東南亞反華情緒,檢討「華人」認同風險
․評論人:林修 (政治大學民族系教授)
․ 發表人:劉煥雲 (聯合大學全球客家研究中心副研究員)
․ 論 文:「台灣文化」與「中華文化」之虛實與辯證
․ 評論人:李喬 (總統府國策顧問)
14:50-15:10 20min 休息及茶敘
15:10-16:30 80min 第六場 台灣性與中華性的對位 主持人:楊長鎮 (新境界文教基金會族群部主任)
․ 與談人:施正鋒 (淡江大學公共行政學系教授)
張茂桂 (中央研究院社會學研究所副研究員)
林修 (政治大學民族系教授)
鄭良偉 (交通大學電子與資訊研究中心)
張弘毅 (台北市立教育大學社會科教育所副教授)

陳明章が年末に新譜発表予定

2005-10-14 00:59:45 | 台湾音楽
 台湾語と台湾土着の題材にこだわるフォーク系シンガーソングライター陳明章(Tan5 beng5-chiong)が今年12月にほぼ5年ぶりに新アルバムを発表する。きょう久しぶりに本人と飯をくったときに話していた。アルバムの題名は「海翁(hai2-ang、鯨)」、11曲を収め、どれも自信作だという。
 そこで現在2日に1回のレコーディング中、11月初めには録音は完成し、それからジャケット印刷して、12月には出したい、という。
 (ところで、私自身のひそかな願望は、自分のアルバムを出すことなんだが、誰も声かけてくれないんだよな、テヘ)
 また、陳明章が音楽を手がけた1995年封切の日本映画「幻の光(台湾名:幻之光)」(是枝裕和監督、ベニス映画祭最優秀撮影賞、日本毎日映画最優秀音楽賞)の電影原聲帶(オリジナルサウンドトラックアルバム)も陳明章音樂工作有限公司名義で、最近台湾版が出た。ちなみにこれの映画や監督についての中国語の説明は、わたしが日本語から翻訳したもの。

レバノン国民意識の形成へ

2005-10-11 01:44:16 | 中東
 レバノンの宗派別人口についてだが、現在ではシーア派が確実に最大人口で4割以上を占めるだろう。次がスンナ派で3割以上、内戦前は最大だったマロン派は2割を切っているとみられる。
 内戦前はシーア派が相対的に貧困だったとされ、相対的に富裕層が多かったマロン派との矛盾が、内戦にいたった。内戦中は、宗派ごとに居住地域がわかれ、住みわけがあり、国内は割拠状態となった。
 それが今日では宗派が共存し、宗派を越えた友人の輪が出来ている光景をよく目にした。
 レバノンの英字紙デイリー・スターの記者も、「内戦はもう起きないと思う」と指摘する。
 その原因としては、実はシーア派にも弁護士、記者などの専門職の新中間層が次々誕生し、所得水準が以前よりは向上している部分があるからではないか。
 もちろん、長年鬱積された矛盾は一度に解決しないだろう。しかし、人々はかつての内戦に疲れ、宗派で対立することの愚かさを悟ったように見える。
 実際、内戦による勝者は存在しなかった。かつては中東のパリと呼ばれたベイルート、中東の情報、金融、貿易センターだったベイルートは、内戦をやっている間に勃興したドバイにその地位をほとんど奪われてしまった。結果的にみんな損をしたのである。
 もちろん、内戦後の復興で、ベイルートはその底力を示して、さらにその自由で多様なメディア産業をテコに、情報や芸能の中心としての地位は再び取り戻しつつある。しかし、ベイルート空港はもはやハブ空港ではないし、かつては邦人が3000人もいた面影はない。

 最近のレバノンで注目すべき現象は、宗派を超えたレバノン国民意識、ネーション意識が台頭していたことだ。これは台湾との比較でも注目される。
 レバノンはシリア、ヨルダン、パレスチナなどレバント地域として歴史的な経験を共有してきた。とくにシリアとの関係は密接で、「大シリア地域」の一部でもあった。
 レバノンが国家として別になったのは、フランスの都合によるものだった。フランスと関係がよかったマロン派優位の国を作らせたのである。
 そういう意味で、レバノンは1943年の建国の時点で、その国家の基盤とアイデンティティはきわめて脆いものだった。マロン派とイスラーム教ドルーズ派がかろうじてレバノン意識を持っている以外は、ムスリムの多くは大シリア主義や汎アラブ主義を持っていたからである。
 ただ、主権国家としての枠組みがいったんできると、それはアイデンティティの対象であり根拠となるものである。まして、レバノンは議会制民主主義で選挙を行っていたから、選挙を行う範囲で、アイデンティティができていく。
 とはいえ、それでも内戦時期までは、レバノンには宗教の宗派対立と割拠意識のほうが強く、宗派を超えたレバノン人、レバノン国民意識は形成が難しい状況にあった。

 この点では、台湾が想起される。台湾と中国との関係は、レバノンとシリアほどには、歴史的に密接ではなかったとはいえ、国家意識の脆弱さと未成熟、宗派でない族群間の矛盾という意味では、台湾の状況と通じるものがあるといえよう。
 内戦を経て、さらに内戦が終結し、シリアがレバノンを支配した。ただし、それはレバノンを割拠していた民兵組織を解体し、国家の統一性を回復して、秩序と治安を維持するためには、この時点では不可欠だった。
 ただ、シリアは文化や宗教的には多様性を認めるが、政治的には一党独裁国家である。長年畸形的とはいえ議会制民主主義と言論の自由になれてきたレバノン人は、復興が進むにつれて、シリアの支配と干渉を疎ましく感じるようになっていった。
 そして、今年2月14日ラフィーク・アル・ハリーリー元首相がシリアの指示とみられる爆弾事件により殺されたことで、シリアへの不満が爆発した。2月から3月にかけて連日市民が街頭に繰り出し、中東では珍しい反政府デモを繰り広げた。人々はシリアの撤退を要求したのである。
 シリア寄りと言われるシーア派の反イスラエル抵抗運動組織ヒズボラなどは、シリアの撤退に反対したが、それでも過激な対抗措置をとることはせず、結果的にはシリア撤退を黙認した。ヒズボラは一連の冷静な行動によって、同時にかつては敵対していたキリスト教勢力からの信頼も獲得した。
 この過程で台頭したのが、宗派を超えたレバノン国民意識だった。
 レバノン人はかつては宗派が帰属対象だった。それが、文化的にも歴史的にも近いシリアの支配と干渉を受けることによって、「シリアとは違うレバノン独自の価値」を見つけたようである。
 シリアは中東の中では文化的に十分リベラルだといえる。ただし政治そのものはきわめて権威主義である。「レバノン独自の価値」とは、シリアよりもさらに政治的に自由に発言できることを意味する。
 さらに、レバノンには南にイスラエルというさらに厄介で残虐な隣人がいる。ヒズボラがシリア撤退に反対したのは、軍事的空白が生まれ、イスラエルが再びレバノン南部を占領することを恐れたためもあった。
 レバノンの内戦が終結しても、イスラエルは依然とレバノン南部を占拠、さらに1996年に南部の小さな町カーナーでキリスト教住民大量虐殺事件を起こしたこともあった。こうしたイスラエルの一連の横暴により、かつては手を握ったこともある一部キリスト教勢力もイスラエルへの感情を悪化させていった。今日では、キリスト教勢力もすべてイスラエルへの反対姿勢を表明している。

 レバノンでは宗派と政治的立場を超えて、「イスラエルにはアラブ人としてノーを、シリアからは自立を」という点で、コンセンサスができつつあるといえる。
 前記シーア派の記者は「私はシーア派である以前にレバノン人」といっていた。
 こうした国民意識の形成過程は、台湾との対比で、面白いと思った。

レバノンではムスリマも開放的

2005-10-11 01:43:14 | 中東
 レバノンはアラブでも女性歌手が多いところ。それはもともとキリスト教東方典礼カトリックに分類されるマロン派が、人口のかなりの部分を占めて、女性の社会進出も目立ったからでもある。しかし最近は徐々に変化も出てきて、ムスリマの歌手も進出してきている。
 その代表がハイファ・ワハビーとアマル・ヒジャーズィーだ。いずれもおかたいイメージが強いシーア派らしいが、そのイメージと対照的に、セクシー路線で売っている。しかも歌は下手。また、同じように歌は下手で、クレージー路線のマルワとか、メイ・ハリーリーも、ムスリマらしい・・・。
 ということで、ムスリマのおかたいイメージは完全に吹き飛ばされている状態である。むしろ、セクシー路線や奔放さでは、これらムスリマ歌手のほうが、下手なキリスト教徒歌手よりもはるかに過激で奔放になっているくらいだ。

 事前の情報収集では、女性で顔をさらして、社会の前面に出ているのはマロン派などキリスト教徒だという指摘を読んだことがあったので、そんな思い込みと公式は通用しないのがいまのレバノンなのだ。
 ムスリマの中にはもちろん、伝統的なヒジャーブをつけて、顔を隠している人もいる。
 しかし、レバノンのムスリマは宗派を問わず、社会でがんがん活躍していて、「女性はなるべく姿を隠して」という「規範」とは関係なく生活している。都市部に関していえば、そのほうが多かった。
 私が歌手の紹介と連絡を頼んだ女性記者もシーア派だった。男友達を連れてきて喫茶店で夜遅くまでだべったりしていたし、服装もいたって軽装で、金曜日でなく日曜日に休んでいた。その女性記者いわく「これがいまのレバノンの都市のムスリマにとって普通のあり方。ヒジャーブとかは昔のこと。時代に合わせて生きていくのが当然のことじゃない」といっていた。
 だからいまどきのレバノンで、女性が軽装をして、前面に出ていても、キリスト教徒とは限らない。ムスリマの可能性も高いのである。
 実際、NGOをいくつか回ったときも、環境NGOグリーンラインで活動していた女性には、シーア派もスンナ派もマロン派もいた。
 レバノンはかつて内戦にもつながった「宗派割拠主義」で悪名高かった。
 それは現在も消えたわけではないが、しかし、若者の間には、内戦の教訓から、宗派を超えて友人になり、仲間にもなる傾向が広まっているようだった。
 実際、とあるところでシーア派の弁護士と仲良くなったが、新婚カップルの奥さんはマロン派(しかも結婚改宗しないらしい)、その奥さんの同性友人がスンナ派だった。見た目ではまったくわからなかった。

レバノンで会った歌手

2005-10-11 01:41:11 | アラブポップス
 今回、大枚はたいて旅行するからには、毎度のことながら、てぶらで物見遊山じゃ嫌だ!と思って、芸能関係とキリスト教関係のいくつかを取材してきました。普通の観光と含めてかなりの収穫があったので、来年あたりに単行本として出そうと思う。ただ、その前に歌手インタビューは雑誌に書くつもりだけどね。
 で、今回、会った歌手は、ナワール・エルゾグビー、パスカール・マシュアラーニー、カロール・サマーハーと、いずれも30代の中堅どころで、歌もそこそこ実力がある女性歌手3人。
 本当は、事前およびついてから人を介して、若手でダンスがうまいアマル・ヒジャーズィー、若手人気絶頂アイドルのハイファ・ワハビー、新人で女子高生コスプレと奇行で有名なモデル出身のマリア、歌は下手だがおしゃれな4人組の4キャッツ、中堅アイドルのエリッサ、人気絶頂で歌もうまいナンシー・アジュラムなども申し込んだんだが、それぞれさまざまな理由があって、会えなかった。また、新人で歌もそこそこの清純派ダリーン・ハドシーティはこちらの手違いから時間を間違えて会えず。
 ハイファは婚約解消のショックで会えず、ナンシーはこの間ずっと外国だったので仕方がない。しかし、アマルはひどい。一度アポを入れておいて、その前日にキャスター爆弾事件が起こったのを理由に「きょうは話す気分ではない」とドタキャン。ところが、その後もぜんぜん連絡が取れずじまい。また、マリアも予想としては人見知りだろうと思ったが、やはりマネージャーが「この子は英語ができないから」などといって拒否。それならマネージャーが訳せばいいじゃないか!
 まあ、アマルとマリアは、どうも性格が悪いという結論だ。(後で、パスカルに会ったときにこれをいったら「アマルと会わなかったのは、あなたにとってもいいことね」と「冗談だ」いいながらいれわた。あまり冗談にも聞こえなかったが)
 ただ、許せないのは、アマルは、パナソニックのCMガールもやっていて、二度ほど松下の招待で日本に行っているらしいことだ。そんなやつが、なんなんだ?!
 しかも、歌はいいなと思っていたが、実は彼女は歌は下手で、ライブでは歌えず、すべてplayback(口パク)らしい。
 というわけで、松下電気、今後、アマルを使うな!使うなら、ナワールかパスカルかカロールにしろ!

 ナワールは会った日は「ごめん、きょうちょっと体調と気分が良くない」ということで、写真は拒否された。たしかにあんまりよくなかった。英語はそこそこ。ただ、あまり機嫌が良くないようで、話はあまり進まず。事務所の対応は一番しっかりしていて、良かったんだけどね。ちなみに、一番下の弟のマルセル君が事務所にいた。それから、ナワールは娘と双子の息子を連れてきていて、娘のティアちゃんはかわいかった(ティアという歌のころは赤ちゃんだったが、5歳くらいか、大きくなったね)。

 カロールは、ビデオクリップではわりとおばさんっぽく見えるが、実物はなかなかチャーミングな感じだった。ナッジャルの喫茶店で会ったのだが、なかなか感じよかった。

 パスカルは、写真は怒ったような怖い顔ばかりだが、実物はそんなに意地悪顔ではなく、性格も、若干わがままそうな感じもあったが、それでも快活で冗談をいう気さくな感じだった。そういう意味では好感度大だった。身長は177cmとでかいし、わりと筋肉質ではあったが。英語も一番うまかった。
 実際、プロデュースをやっているロターナーTV関係者に、ベイルートとドバイで会ったが、パスカルの評判は良かった。売り方がちょっとおかしいのでは?本来は健康的なお嬢さんイメージで売るべきタイプなのに、「気の強い筋肉質女」って感じで売っていて、しかも写真映りが悪いから、損しているんじゃないだろうか?

 そういえば三人ともマロン派。パスカルは特に十字架のネックレスもしていたし、事務所に聖母像がたくさんあってわりと敬虔らしかった。ナワールはあまり宗教には触れたくなさそうだった。

マージダ・ルーミーの新譜情報

2005-10-11 01:40:32 | アラブポップス
 ベイルート滞在中に、郊外のキリスト教地区ジュニエにあるレバノン女性大御所歌手マージダ・ルーミーの事務所に行った。
 昨年から出す出すとアナウンスがあって、何度も予定がのびのびになっている新アルバムは11月末には出る予定らしい。本当はマスターは出来ているんだが、中東の習慣上ラマダンは避けて出す。まあ、マージダ本人も事務所の人たちもキリスト教マロン派なんだけど、市場がイスラーム主流だからね。

1. Ouhibbak Jiddan 5:14
2. Habib/Adagio 4:49
3. Chouf Chouf 7:46
4. Bel Alb Khalihi 4:28
5. Keef 4:11
6. Ganii 5:06
7. Al Hob wal Wafa 7:56
8. Nachid el Zafaf 4:35
9. Ya M3azek 4:27

このうち1,2,3を聞かせてもらった。
 1はこれまで伝統系が多かったマージダとしてはイメチェンを図るためにポップな
曲調。2はアルビノーニのアダージョ(あの暗い曲か!)をアラブ風にアレンジしたものだが、原曲と違ってそんなに暗くはなく、きれいなものに仕上がっていた。
 なお、3,7はビデオクリップを撮影中とのこと。

ベイルートでカラオケ

2005-10-11 01:35:16 | アラブポップス
 ベイルートでは二軒ばかりカラオケで歌いました。

 ひとつは、海岸通りの鳩の岩まん前にあるBay Rock Cafeで毎週木曜日午後10時から12時だけやっているカラオケ。本当はMagida el-Roumiのkalimaatだけは歌詞をほとんど覚えているから歌いたかったんだけど、本になかったなかった。仕方がないので、唯一歌えそうなPasale Machaalaniのkhayaalahを入れたが、これって歌ったことないし、テンポ速すぎてメタメタだった。酒はアラクのグラスを注文して、テーブルチャージ込みで大体10,000LL(700円くらい)だったと思う。飲み物を何か注文すれば歌える。
 他の客は、若者が多かったようで、他の客が歌っていたのはほとんどHaifaのragebとか、Darine Hadchitiのedam el-kullあたり。宗教は関係なく、あらゆる教派がいたようだ。
 レバノン人って、わりと気候も似ているからか、台湾人とかフィリピン人とノリが似ていた。要するにノリがいい。享楽的なようだ。

 もう一軒は、飲み屋街として知られるMonot通りの横丁にある、その名もKaraoke of Beirut。
 営業時間は毎晩午後7時半から午前2時まで。飲み物2杯25,000LL(2000円くらい)を注文すれば歌える。日本人客も時々来るようだ。
 ここのカラオケは、Bay rockのと同じ系統のものを使っていたが、アラビア語はHaifaなどの最近の歌手のはなかった。このカラオケ本、アラブの歌手で多かったのは、大御所ではWarda, 最近のではKazim Saher, Diana Haddad, Najwa Karamといったところ。Nawal el-Zoghbiもちょっとあった。くそー、どれもオレがそんなに聞きこんでいないのばっかだ。ほかには英語、フランス語、イタリア語、スペイン語があった。
 そこで、Umm Kalthoumの名曲Alf laila w lailaを入れた。「本当に歌えるの?」てな顔されたが、まあスローテンポなのでなんとか歌えた。ただ、客が増えてほとんどはフランス語や英語の歌ばかり入れるようになって、アラビア語の歌を入れるのを拒否されて(なんで?)、後はフランス語のPatricia KaasのMon mec a moi(でもやっぱりメロメロになったが), それから英語のThe Phantom of the Operaを歌った。他の客はフランス語5割、英語4割、イタリア語やスペイン語1割って感じだった。フランス語で教育受けているだけに、さすがフランス語の歌は堂に入っていた。

民進党の歴史を記録した本が出版される

2005-10-10 23:30:11 | 台湾政治
 民主進歩党および台湾民主化運動の過去を党外運動時代の1975年にさかのぼって記述した「色年代 - 台灣民主運動二十五年,一九七五~二○○○」がこのほど出版され、新書発表会(出版記念会)が10月12日午後3時から台北市西門町にある紅樓劇場2樓で開かれる。
 陳菊の司会で、游錫コン、謝長廷、姚嘉文、蘇貞昌がパネリスト、さらに党外運動時代の反体制歌手胡夫、邱垂貞が歌を披露する。
 同書は、党外時代以来台湾の民主化運動に参加してきた張富忠と邱萬興の編著。上下二冊、定価3200台湾元。準備に4年、整理執筆に2年を費やし、合計35万字、1800枚の写真および史料写真からなる。

自由時報10月10日付け記事
http://www.libertytimes.com.tw/2005/new/oct/10/today-p13.htm
色年代 民進黨回首來時路

http://www.libertytimes.com.tw/2005/new/oct/10/today-p14.htm
高舉黨外的民主旗幟前進
一篇未對外發表的民進黨創黨宣言

 ちなみに、民進党というところは、党史を編纂していない。現在政策委員会で正式の党史を編纂中という話だが、どうなることやら。というのも、そもそも昔の資料をばかばか捨てるところなので(私は5年前に1997年1年分の会議記録が捨てられているのを見たことがある)、まず資料がない。資料は書店「台湾の店」とか、昔から民主化にかかわってきた民間の学者らから借りているという話だ(でも、それも勝手に捨てたりして(苦笑))。

年末県市長選挙候補者登録

2005-10-10 23:29:10 | 台湾政治
 まず、台北駐日代表部が発行する「台湾週報」より報道資料を引用する。

「三合一選挙」県市長候補に77名が登録
http://www.roc-taiwan.or.jp/news/week/05/051005a.htm
 今年12月3日に同時実施される県市長、県市議会議員、郷鎮市長選挙(三合一選挙)の候補者登録が9月30日~10月4日行われ、県市長候補者77人、県市議会議員候補者1693人、郷鎮市長候補者791人が登録を済ませた。中央選挙委員会は11月22日に各選挙の立候補者名簿を公示する。選挙活動期間は県市長、県市議会議員、郷鎮市長選挙とも、11月23日から投票前日の12月2日まで10日間となっている。
 各選挙の政党別候補者数は以下の通り。
 (1) 県市長選挙(23の県市)
     民主進歩党:20人 中国国民党:20人 新党:1人 
     親民党:4人 台湾団結連盟:2人 無所属:30人
 (2) 県市議会議員選挙
     民主進歩党:276人 中国国民党:610人 新党:8人 
     親民党:67人 台湾団結連盟:46人 工教連盟:2人
     無党団結連盟:2人 保護台湾大連盟:1人 無所属:681人
 (3) 郷鎮市長選挙
     民主進歩党:117人 中国国民党:288人 建国党:1人
     親民党:18人 台湾団結連盟:5人 無党団結連盟:1人
     無所属:361人
 県市長選挙立候補者一覧
 (民=民主進歩党、国=中国国民党、台連=台湾団結連盟、親=親民党、新=新党)
 ▼台北県:候補者6人
   陳誠鈞、黄福卿、羅文嘉(民)周錫[王+韋](国)陳俊傑、黄茂全
 ▼宜蘭県:候補者3人
   呂国華(国)、陳定南(民)謝李靜宜
 ▼桃園県:候補者3人
   鄭寶清(民) 、朱立倫(国)、呉家登
 ▼新竹県:候補者2人
   鄭永金(国)、林光華(民)
 ▼苗栗県:候補者6人
   邱炳坤(民)、 劉政鴻(国)、陳秀龍、徐耀昌(国系)、顏培元、江炳輝
 ▼台中県:候補者3人
   黄仲生(国)、邱太三(民)、林振昌
 ▼彰化県:候補者4人
   翁金珠(民)、卓伯源(国)、陳進丁、陳朝容
 ▼南投県:候補者4人
   蔡煌瑯(民)、李朝卿(国)、 林宗男(民系)、林明[サンズイ+秦]
 ▼雲林県:候補者3人
   林佳瑜、蘇治芬(民)、許舒博(国)、
 ▼嘉義県:候補者2人
   陳明文(民) 、陳明振(国)
 ▼台南県:候補者4人
   蘇煥智(民) 蔡四結、郭添財(国)、張博森
 ▼高雄県:候補者2人
   林益世(国)、楊秋興(民)
 ▼屏東県:候補者4人
   宋麗華、王進士(国)、曹啓鴻(民)、 李景[雨/文]
 ▼台東県:候補者3人
   呉俊立(国系)、彭權國、劉櫂豪(民系)
 ▼花蓮県:候補者4人
   盧博基(民) 、謝深山(国) 、傅[山+昆][草/其](親)、柯賜海
 ▼澎湖県:候補者3人
   許敬民、陳光復(民)、王乾發(国)
 ▼基隆市:候補者3人
   陳建銘(台連) 、劉文雄(親)、許財利(国)
 ▼新竹市:候補者2人
   鄭貴元(民)、林政則(国)
 ▼台中市:候補者4人
   林佳龍(民)、沈智慧(親)、李貴富、胡志強(国)
 ▼嘉義市:候補者2人
   陳麗貞(民)、 黄敏惠(国)
 ▼台南市:候補者3人
   錢林慧君(台連)、許添財(民)、陳榮盛(国)
 ▼金門県:候補者2人
   陳平、李[火+主]烽(新)、陳福海
 ▼連江県:候補者3人
   楊綏生、呉軾子、陳雪生(親)

(引用終わり)
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 私が知っている限りでは、現在、民進党の情勢は良くない。高雄MRT(都市交通システム)建設をめぐる汚職疑惑、その他民進党政権にかかわる不正疑惑が次々に出てきて民進党のクリーンイメージが打撃を受けているからだ。とはいえ、国民党も親民党との選挙協力がうまく行かず、しかも馬英九主席が軟弱というイメージが支持者にもあってパンチ不足。
 現在のところ、民進党は嘉義県、台南市、台南県、高雄県、屏東県で優勢。国民党・親民党・新党は桃園県、新竹県、新竹市、花蓮県、言わずもがなの金門県と連江県で優勢。その他は混戦模様。
 民進党は台北県、苗栗県、彰化県ではやや有利か。雲林県では可能性があるし、台東県は民進党系無所属は可能性がある。逆に当初楽勝とみられた宜蘭県は長年の民進党県政への飽きが出てきていて苦しい。嘉義市も苦しい。
 民進党は現在9県市をもっていて、11県市を目標として、9県市だとまあまあ、ただし台北県を落としたらいずれにしても敗北と位置づけている。
 結果次第では、民進党のトップ人事(行政院長、総統府秘書長、民進党主席)異動と08年総統候補レース、国民党馬主席の08年総統候補の確度に影響が出る。
 国民党が増えれば馬主席は総統候補確定だが、そうでなければ流動的になる。