むじな@金沢よろず批評ブログ

台湾、国際情勢、アニメなどについて批評

韓国大統領選挙は予想通りとはいえ、残念な結果に 経済右派候補当選し、改革進歩派が敗退

2007-12-24 01:14:25 | 韓国・北朝鮮
 ここ一ヶ月は、ほとんど台湾にいなかったため、ブログの更新ができませんでした。11月26日から12月5日までは著作執筆に関係する個人的な用事で日本に、さらに一日だけおいて12月6日から10日は大統領選挙戦の模様を見学に韓国ソウルに、そして12月16日から21日までは謝長廷訪日に関連して日本にそれぞれ行ってきた。

 そこで、韓国の大統領選挙だが、保守・右派野党のハンナラ党候補イ・ミョンバク氏が過半数に近い48.67%を獲得、二位でリベラル与党の大統合民主新党候補のチョン・ドンヨン候補の26.14%と大差をつけて、17代大統領に選ばれた。
 私自身が6-10日に韓国に行って取材して確かめた結果、ほぼイ・ミョンバクで決まりという感触だったので、予想通りだといえばそうだが、個人的には非常に残念な結果になったと思う。

■韓国に関する海外メディア情報は信用できないが
 もちろん、イミョンバクで確実というのは、事前に世界的に報道されてきたことだが、私は韓国については、あまり世界的な報道というものを信じない。というのも、韓国のニュースについて世界的に引用されることが多いのは、決まって朝鮮日報だの中央日報だののいわば「保守偏向紙」であって、そういった新聞はハンナラ党有利に報道するのに決まっているからだ。事実前回2002年も韓国の保守=右派に偏したメディア界の大勢は、イ・フェチャン優勢と書いていて外れたからだ。
 しかも、1980年代の韓国の民主化闘争にも参加して、韓国の民主化の軌跡を知るものとして、仮にも軍事独裁政権につながるハンナラ党がそんな易々と政権を取れるわけがない、と思っていた。
 しかし、そうなってしまった。

■リベラル派の「無能」という国民の判断
 もちろん、これは金大中政権以来10年間続いてきた民主化勢力による改革・進歩政権の行政能力・手腕の低さに国民がそっぽを向いた結果であり、それはこないだ韓国で買った月刊誌「マル」(80年代以来民主化を鼓吹してきたかつての反体制雑誌)12月号が、「韓国社会言論研究所」が10月に実施した意識調査を引用しつつ指摘していることでもある。
 この点は、現在の韓国リベラル政権と背景や路線を同じくする台湾のリベラル政権=民進党政権にとっても一つの教訓材料となることでもある。ただし、台湾の場合は韓国のように単純に「左右対立」だけでなく、国家アイデンティティの対立があるから、民進党の「改革」イメージが色あせつつあるといっても、韓国の民主新党のように急速に落ち込むことはなく、台湾アイデンティティで民進党がつなぎとめることができている点は大きく違う。

■ハンナラ党と国民党の違い
 もうひとつ大きく違うのは、韓国のハンナラ党と台湾の国民党の「党内民主化度」の違いである。国民党はまだまだ馬英九のような蒋経国時代の反動的な発想をもった人間を総統候補に立てたり、そういう思想の人がのさばっているところがある。つまり国民党はまだまだ反動的ファッショ政党をひきずっている。
 しかし、ハンナラ党の場合は、少なくとも表向きは「第5共和国」勢力は一掃され、民主化時代の保守政党に脱皮しつつある。もちろん、今回の訪問でハンナラ党の事務所を訪ねようとしたところ「アポがないならダメだ。東京の雑誌本社からアポを入れろ。われわれは大韓民国のハンナラ党だ」などとエラソーに言われてしまったので、やはり体質的には相変わらず権威主義・官僚主義的ではある。しかし、それでもキム・ヨンサム時代の統合の結果から民主化勢力もけっこう参加していて、実際イ・ミョンバク自身も学生運動経験者だし、その右腕のイ・ジェオにいたっては80年代には過激な民主化闘争人士だったくらいだから、独裁と闘った人間が皆無といっていい国民党とは大違いではある。
 そういう面でハンナラ党は「体質改善」が進み、しかもイミョンバクは経済面では新自由主義ばりばり経済右派であっても、政治思想的にはそれほど右翼ではないこともあって(だからだろうか、意外に民主新党や民主労働党の人でもイミョンバクに対する反感が少なかった)、国民がハンナラに入れても、よもや87年以前に戻らないだろうという一定の安心感があったからこそ、ハンナラ党に投票できたのかもしれない。

■貧富格差がより拡大するのは目に見えているのに
 ただし違和感が残る。政策問題では、ノ・ムヒョン政権の「無能」が問題になり、貧富格差も指摘された。もちろん、ノムヒョン政権が当初の公約やイメージ通りにちゃんと中道左派的な分配政策に成功しなかったことに問題がある。しかし、それならどうして分配を強調していた与党系のムン・グクヒョンや、民主労働党のクォン・ヨンギルを選ぼうとせず、格差がますます拡大し、下手したら景気過熱で韓国経済をクラッシュさせてしまいかねない(というかそうなるのは目に見えている)「アゲ、アゲ、イケ、イケ」の指導者を選んだのか?という点である。
 この点を民主新党や民主労働党の人たちに聞いても「民意の流れはどうにもならない」と嘆くばかりだったが、民主主義というのは非常に難しく、韓国の民主主義もまだまだ成熟したものだとはいえないということだろうか。
 とはいえ、やはり国民一人一人が自分たちの指導者を選べるということは貴重なことである。

■個人的な嗜好を言えば
 ところで私自身は今回の選挙では無理だとはわかっていても、ムン・グクヒョンが実体経済とイデオロギーのバランスが取れていて、ベストと思っていた。私が日曜日に顔を出した労働運動支援の「ソンムンバク」教会での信者の一人がムン支持を表明していた。
 民主新党のチョン・ドンヨンは魅力がなさすぎた。
 しかし選挙は現実的に大政党の基盤がないと弱い。ムンはどうせなら民主新党で争って出ればよかったのに。次回に期待しよう。
 本来の私ならクォン・ヨンギルがベストだと思うはずだが、いまさら前回と同じくクォンを出す了見はどうかと思ったし、何よりクォンは自主派(NL派)の影響が強すぎる。いまどきチュチェ思想も何もないだろう。貧富格差の問題などに対応するには、民主労働党内でも平等派(PD派)が出てくるほうが良い。実際クォンは前回を1ポイントも下げての惨敗だった。どうせならノ・フェチャンあたりを出してくればもっと取れたはずなのにね。

■日本の右派の「期待」に反してイミョンバクは親北朝鮮に
 そういえば、日本の保守勢力は、イミョンバク当選に過剰に期待しているようであるが、はっきりいっておくと、それは幻想に終わるだろうということだ。
 期待というのは、対北政策の強硬化と対日関係改善への期待だが、実はどちらも「期待」できない。
 対北朝鮮についていえば、イミョンバクはハンナラ党の中では、新自由主義、新保守主義、経済右派路線なので、北朝鮮については「中国よりも低廉でかつ教育程度が高い労働力」に注目した投資や援助を大規模に行い、ノムヒョン政権以上に北朝鮮にコミットすることになるだろう。いや、ノムヒョン政権が「鉄道連結」などと他愛のない政策を掲げていて実害はなかったし、そもそも無能だったから、たいしたことは何もできなかったのに比べて、イミョンバクは経済的な実利に目がくらんでいて、さらに実行力があると来ているので、日本の保守派が嫌がる「南北朝鮮蜜月」がまさに実現されるだろう。
 しかも韓国では実は左であるほど北朝鮮に影響力を強めようとする中国への警戒と対抗から北朝鮮にコミットしようという民族主義と戦略的な思考があったが、イミョンバクは単に「金」だけだから、中国への警戒心も薄いだろう。

■右派の期待に反して対日改善も無理だろう
 それから、対日関係だが、イミョンバクは来年4月の国会議員選挙までに期待通りの成果を出せるわけがないから、与党が過半数が取れず、早々にレームダック化する可能性が高い。そうなると、韓国はお決まりのように反日を煽って、政権へのダメージを転化しようとする。
 そもそもキムデジュンもノムヒョンも、就任当初はいずれも日韓新時代と友好を歌い上げたことを忘れてはならない。韓国は右だろうが左だろうが、日本に対する態度は同じで、政権が安定しているときには親日の余裕があるが、政権支持率が低下すると反日を持ち出すのである。20代になれば、反日は建前すらなくなりつつあるが、少なくともその世代が社会の中枢になる15-20年後までは日韓関係の安定した改善は無理だろう。

■そういう意味でも実はリベラル政権のほうが良かった
 どうせ改善しない日韓関係ということを考えるなら、中国への警戒を含んだ対北朝鮮コミット戦略の展開、そして台湾の民進党との親和性を考えて、民主新党を中心とした改革進歩の中道左派政権が続くほうが、中長期的には東アジアの安定につながったと思う。ハンナラ党では、国粋原理右派だろうが、イミョンバクみたいな経済第一主義の新自由主義派だろうが、アジアのバランスを破壊させかねない。
 そもそも韓国のリベラル派・左派は日本のサヨクと違って、決して中国に甘くはないが、右派は経済利益に目がくらんで国際関係のバランスなどを考えない恐れがある。その点では、民主新党の敗退は残念である。


最新の画像もっと見る