No,25
ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ、「ベアタ・ベアトリクス」、19世紀イギリス、ラファエル前派。
ラファエル前派は、目の付け所はよかったが、芸術運動としては、イギリス的趣味に流れて、絵画としてあまりよいものは生まれなかった。おもしろい作品はあるがね、絵画本来の使命を果たせるものと言えば、かろうじてこれくらいしか思い浮かばない。まあ、全部を見たわけではないのだが。
この絵のモデルのエリザベス・シダルは、不幸の匂いのする美女だった。よくいるね。美しいが、どこかさみしい影がある。男はこういう美女に興味を持つが、妻にしたいとは思わない。自分も不幸になるような気がするからだ。
そのとおり、シダルはやがて、ロセッティの心を、ジェインという女に奪われる。ロセッティは自分に尽くしてくれたシダルに答えるために彼女を妻にするが、ジェインに惹かれる自分の心を抑えることはできず、結局妻を、自殺かと思われる変死においやるのである。
この絵は、そういう妻に対するロセッティの呵責が描かせたものだ。
ジェイン・モリスは、ポーカーフェイスを決め込んで、かなり痛いことを平気でやれる女だった。男をとりこにし、他の女を破滅させることなど、何とも思わない。シダルのような女は、こういう女に苦しめられるのである。
ロセッティは、勉強不足から、不器用さをつかれる画家だが、ラファエル前派においては、もっともおもしろい画家である。この、ふたりの女に引き裂かれた男の描いた絵が、男の馬鹿さ加減を、絶妙に表現している。