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信州里山通信。自然写真家、郷土史研究家、男の料理、著書『信州の里山トレッキング東北信編』、村上春樹さんのブログも

スフラギスをつけたウスバシロチョウ。ミナミヒメヒラタアブ、ダイミョウセセリ、コミスジ、アカサシガメ。実山椒の煮物、淡竹の若竹煮(妻女山里山通信)

2023-05-30 | アウトドア・ネイチャーフォト
 はしり梅雨の様な天気が続く毎日。晴れの日が貴重な5月というのも珍しいのですが、そんな晴れの日が週末続いたので妻女山山系へ撮影にでかけました。キバネツノトンボの撮影が主でしたが、その他の昆虫もあちこちで活発に活動を始めました。北九州から東海は異例の早さで梅雨入りした模様。スーパー台風2号で災害がないといいのですが。キバネツノトンボの記事は、一つ前と二つ前にあります。産卵シーンがご覧いただけます。

 ハルジオン(春紫苑)で吸蜜中のメスのウスバシロチョウ(薄羽白蝶)。交尾を終えた印である三角のスフラギスをつけています。スフラギスはラテン語でシールの意味で、交尾を終えるとオスは多量の粘液を出してメスの交尾口を塞ぎます。そうして他のオスと交尾できないようにするのです。精子は精子包につつまれて挿入されます。精子の入る口と産卵の出口は別なので、産卵の妨げにはなりません。スフラギスは日本語では、交尾嚢・受胎糞・封減片・貞操帯などと表記します。作り方ですが、後部は穴が空いているので前方から左右に交互に壁を作っていくものと思われます。できればその動画が見たい。またスフラギスの成分を知りたいものです。
ウスバシロチョウの複数回交尾とスフラギスについて:寺 章夫

 あまりに小さいので、撮影するよりまず発見するのが難しいミナミヒメヒラタアブ。体長は8−9ミリ。これは複眼の間が離れているのでメス。胴も平べったく広いのが特徴。オスは細い丸胴です。幼虫はアブラムシを食べます。

 長い下口式の口器(唇弁)を出してハルジオンで花粉を吸っています。黄色い筒状の花弁には蜜が含まれています。動きが細かく素早いので撮影が大変です。撮影中は息を止めています。

 ハルジオンで口吻を差して吸蜜するダイミョウセセリ(大名挵)。イボタノキやスイカズラ、オカトラノオなどでも吸蜜します。食草はヤマノイモなどの葉。

 コミスジ(小三條)。羽ばたきと滑空を繰り返し軽やかに舞うチョウ。幼虫の食草はクズ、フジ、ハギ、ニセアカシアなどのマメ科植物。冬は3齢幼虫で越冬します。人の気配に敏感で、なかなか容易に撮影させてくれません。

 アカサシガメ(赤刺亀)。餌は小さな昆虫で体液を吸います。主にハムシの仲間を捕まえますが、時には自分より大きなコオロギを捕まえて体液を吸うこともあります。不用意につかむと刺されることがあります。

 川中島の戦いで上杉謙信の本陣となった陣場平。貝母(ばいも・編笠百合)は枯れていますがまだ倒れているものはわずかです。歴史マニアの人達が訪れました。ウスバシロチョウの撮影に来た人も。山蕗を採りに来た人達も。サンコウチョウやヒヨドリ、シジュウカラなどの鳴き声がしますが、特定外来生物のガビチョウの鳴き声も。

 枯れた貝母を伝ってアカネ(茜)が上へ上へと伸びています。アカネは万葉集にも詠われていますが、古くから根が草木染に使われてきました。その夕焼けを思わせる茜色は実に魅力的な色合いです。煮出した液に布を浸し、ミョウバンで媒染します。
「あかねさす 紫野行き 標野行き 野守は見ずや 君が袖振る」 額田王  萬葉集1巻20
「あかねさす 日並べなくに 我が恋は 吉野の川の 霧に立ちつつ」 車持千年 萬葉集6巻916


 陣場平入り口に設置したインセクトホテル。この間はベニボタルの仲間が来ていました。

 ウスバシロチョウが日向ぼっこ。陣場平は有害帰化植物のハルジオンは全て抜いてしまうので吸蜜できませんが、林道脇のものは残してあります。

 ヤブヘビイチゴ(藪蛇苺)が咲いているのですがウスバシロチョウは吸蜜しません。ヘビイチゴは陣場平の日の当たる場所に、ヤブヘビイチゴは半日陰に見られます。葉は、ヤブヘビイチゴは先が尖り、ヘビイチゴは全体が丸い印象。果実はヘビイチゴに艶がなく、ヤブヘビイチゴにはあります。果実は無味無臭ですが無毒。解熱や神経痛の生薬として用いられます。

 サンショウ(山椒)の実が日当たりの良いところは大きくなってきました。昨年より1週間ほど早めです。実山椒を摘みました。

 イボタノキ(水蝋樹・疣取木)も早めに咲きだしました。モクセイ科イボタノキ属の落葉低木。別名は、トスベリノキ、カワネズミモチ。ウラゴマダラシジミの食草です。樹皮にイボタロウムシがつき、イボタ蝋(ろう)が取れ、家具の艶出しや日本刀の手入れなどに用いられます。材は決めが細かいので、楊枝や木工芸に使われます。

 キツネアザミ(狐薊)。アザミとつきますが、アザミではなくキク科キツネアザミ属の2年草です。消炎などの薬草です。古代に農耕と共に中国から渡来した史前帰化植物。江戸時代には、化粧道具に似ていることから狐の眉掃とか眉掃薊と呼ばれていました。

 採ってきた実山椒をコウナゴ(小女子・イカナゴ)とで、白出汁とあご出汁で煮ました。はじめに茹でこぼしてアク抜きをします。実山椒は京土産の縮緬山椒の佃煮が有名ですが、こんな風に薄味で煮付けるのも非常に美味です。山椒は、サンショオールなどの働きで血行構を良くし整腸作用があり、鎮痛、殺虫、解毒、嘔吐、腹痛、下痢、消化不良、寄生虫駆除などの効能があります。ただし、キサントキシンと呼ばれる麻痺成分が含まれているので過食は禁物です。だから痺れるのですけどね。昔訪れたアマゾンには「タカカ」という飲むと痺れる美味しいスープがあります。遠くジャングルが見える大河のほとりで屋台のタカカを飲んだ思い出は忘れられません。
 私達が食べている野菜は、本来野草や山菜だったものを品種改良して食べられるようにしたものです。野草や山菜は主に昆虫や動物に食べられないために有毒のものがほとんど。アクも食べられないための物質。栄養も豊富ですが毒も多いのです。ただ閾値(しきいち)というものがあり、ある量までは薬効がありそれを超えると有毒となります。野草や山菜を食べるには、正しい知識を得ることが大事です。

 淡竹(はちく)とワカメ(若布、和布、稚海藻)の若竹煮。淡竹はアク抜きが不要ですが、10分ほど茹でて置いておくとわずかなアクが取れます。今が季節のワカメと白出汁、ホタテ出汁で煮ます。そのままゆっくり冷ますと味が染み込み皐月の透き通った滋味の味になります。まだ筍があるので、筍ご飯は中華風にしようかなと思っています。

 山蕗も終盤。干しホタルイカやソフト鰊の煮物も堪能。他に無いかと思いついたのが山蕗とスルメの煮物。白出汁、炒り粉出汁、ホタテパウダー、アサリパウダーで煮てみた。実山椒も入れて。炙ったスルメが最高にいい仕事をしている。絶品。

「鶏と淡竹とウドの中華炊き込みご飯」鶏肉を中華醤油と牡蠣油に浸けておくのがポイント。干し椎茸、ニンジン、長ネギ。中華出汁、貝出汁、ごま油、多めのすりおろし生姜で炊きます。「淡竹と鯖の水煮缶詰と新玉ねぎの味噌汁」自家製味噌が肝。北信の郷土料理。淡竹は採ってすぐならアク抜きが不要ですが、買ってきた場合は茹でてしばらく置くとアクが抜けます。根曲がり竹の半額ぐらいです。細いものもありますが、根曲がり竹の倍以上の太さのものもあります。ひき肉や、魚やエビのすり身をつけてフライにすると美味です。

「淡竹と鯖の水煮缶詰と新玉ねぎの味噌汁」をたくさん作ったので、翌日は煮込みうどんに。うどんは友人が育てた幻の小麦「伊賀筑後オレゴン」で手打ちうどん。信州の善光寺平から上田にいたる間の千曲川の沿岸で、大正時代から戦後まで作られた人気の小麦でした。三重県伊賀上野市の農林省関西試験場が、筑後平野で作っている小麦と、アメリカ西部のオレゴン州の小麦を交配して作った硬質小麦です。日本の小麦は、軟質小麦。アメリカのオレゴン種はグルテンが多い硬質小麦です。この二つを交配して作られたのが伊賀筑後オレゴン種で、準強力粉です。わが家でも父が昭和30年代半ばまで作っていました。

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