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信州里山通信。自然写真家、郷土史研究家、男の料理、著書『信州の里山トレッキング東北信編』、村上春樹さんのブログも

ニホンカモシカが森の哲学者といわれるわけ (妻女山里山通信)

2012-03-24 | アウトドア・ネイチャーフォト
 天気がぐずついて気温も上がらず北信濃の春は足踏み状態。いつも3月初めには咲く近所の白梅もようやっと咲き始めたばかり。明後日の天気予報は雪マーク。こんな寒い春は、記憶では1984年ぐらいでしょうか。4月10日にブラジルから帰国した時、東京はまだ桜が開花していませんでした。

 あの年は東京都心では冬期間(12 - 2月)の総降雪量がなんと89cmでした。そして半年以上低温が続いたのです。ラニーニャがその原因のようですが、今年もラニーニャが収束しないと冷害が出て春夏の野菜が高騰するかもしれません。そうでなくても、関東東北の野菜は放射能の影響が出ているというのに。そんなわけで今年は例年以上に野菜の種類と量を増やして栽培することにしました。

 去年は、3月10日に冬毛が抜け落ちたのを確認した妻女山のニホンカモシカですが、今年はまだ夏毛になっていません。月の輪熊も3月中旬に目撃情報がありましたが、いずれも今年は遅れそうです。
●2011年3月1日:まだ冬毛のニホンカモシカ。
●2011年3月10日:冬毛が抜け落ち夏毛になったニホンカモシカ。(抜け落ちた冬毛のカットも)

 写真は、ニホンカモシカの塒(ねぐら)と糞場、角研ぎ場、餌場です。巣は急斜面に囲まれた杉林の林床にあり、ヤブソテツなどのシダ類が地面を覆っています。よく見ると杉の根元に座った窪みがあるのが分かります。このヤブソテツやリョウメンシダなどは、ベッドにもなり、また餌が少ない冬期の食料にもなります。

 夜明けとともに目覚めるとまず近くの糞場に行きます。糞場は決まっていて、シカのように歩きながらすることはありません。いっぱいになると近くに糞場を移します。脱糞は決まった糞場だけでなく採食歩行の途中にもするので、獣道の途中にも見られます。小用はどこでも。餌場は、歩きながら採食するので山中全部ですが、必ず立ち寄る場所が2、3カ所あります。

 ニホンカモシカは、オスメスともに角があるので見分けにくいのですが、小用のときに深くしゃがむのがメスで、割と高い位置でするのがオスです。オスの方が立ち小便がし易いというのは人間と同じですね。糞場からは、よくヒトヨタケ科のキノコが発生します。キララタケやササクレヒトヨタケなど。ササクレヒトヨタケは、真っ白でマッシュルームとエノキダケを合わせたような食感と味でバターソテーなどにすると美味しいのですが、さすがに糞場に出たものは食べません。

 角研ぎは、太さ3~4センチの木で行い、高さは50~80センチぐらい。子供はずっと低い位置で。写真の木はヤマザクラです。他にはリョウブとか。なぜ角研ぎをするかは、実はよく分かっていないようです。シカの場合は皮膚を削ぎ取る意味があるのですが、ニホンカモシカの場合は、それは不要ですし。

 武器として使用するために先端を尖らせると書いてあるのも見ましたが、どうでしょう。実際の角研ぎの場面を見ると先端ではなくむしろ根元の方をこすりつけています。老獣では、根元の方が、角研ぎによってえぐれているのを見る事ができます。角研ぎの後で眼下腺から液を出して縄張りを主張するマーキングをしているのを見たことがあるので、角研ぎ自体マーキングのひとつなのかもしれません。

 ニホンカモシカは、基本的に鳴かないので鳴き声を聞いたことのある人は少ないと思います。よく「シュッ」と鳴いたと書いてある記事がありますが、それは鼻から出す威嚇音で、鳴き声ではありません。私はたった一度だけ鞍骨山で子供が母親を呼ぶ鳴き声を聞いたことがありますが、その声は「グエ~ッ」という感じで濁声のヤギのようでした。普段鳴かないニホンカモシカが鳴いたのですから、その子にきっとただならぬ事が起きたのだろうと思いました。発情期には、メスもオスも鳴く事があるようですが、普段はいたって寡黙な動物です。森の哲学者といわれるゆえんです。しかし、好奇心が強いため狩られやすく、ニクバカとか単にニクなんて方言もあるちょっと可哀想な動物でもありました。







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