今度のヒト

2010-09-16 02:16:46 | 2輪

ZZR250とお別れする決心をしたのは今年に入ってから。

ZZRは通勤用に買ったようなもので、市営駐輪場に停めていていつ傷をつけられても悔しくない程度の中古。
ぎっくり腰の時も、虫垂炎疑いの時も、ほんの少しだけ前傾した楽々ポジションのおかげで乗る事ができるほどの良いコでした。

250ccのわりに大きくて取り回しは面倒、しかも購入した段階でワイヤ類はサビだらけ、あちこち動きが渋くなってて、実際は2輪初心者の牛がメンテナンスの大切さを学ぶのに最適だったというのが実情だったりして。
できる事は自分でなんとかして、できない部分は助けてくれるヒトにお願いしたり。
それでもこのままじゃ危ないなと思ったのは、ある日、大した速度じゃないのにリアが振られて、しかもそれが路面がちょっと濡れてるだけの直進時だったからだった。

それっきり遠出はしなくなって、近場で乗るにも恐る恐る。
風の中を行くのは心地よくて、エンジンが足元で働いてくれるのも嬉しかったけど、コーナーの一つ一つで後頭部あたりにぼんやりした不信感が常にあって、心から楽しめるような状態じゃなかった。
信頼関係はなくなってた。
それから間もなく、ZZRは実家の玄関の前でひとり暮らす牛母のための防犯バイクとしての日々を過ごすことになったのだった。

このまま乗らなくなるのは辛い。乗れなくなるのも辛い。
手放さなくちゃ。次のバイクはどうする?
いっそバイクじゃなくて他のものにしようか。
パラグライダーは今でもやりたいと思ってる。モーターパラならエンジンと一緒に空を飛べるのは魅力かも。

結局。

Fun Ride Garageに足を運んだその時も、牛は次のバイクを決めてたわけじゃなかった。
何かを選ぶ時決めるのはいつも自分自身と心に誓っていても、だからこそ迷い始めた牛の向かう先はなかなか定まらない。
こういう時にすべきことはわかってる。言葉にすること。

「ねぇ、私、何に乗ったらいいですか?」
「何に乗りたいの?」
「わかんない。乗りたいと思えるものが無くて。」
「限定解除したら幅が広がるよ」
「でも今、時間的な余裕は無いんですよねぇ。」
「たとえばコレとかコレとか…コレとか。」
「うーん…」

Fun Ride Garageの須藤さんは馴染みのヒトなので気後れせずにこんな話ができる。なじみの串焼屋でよくやる「お酒、どれ飲んだらいいと思う?」みたいで非常に乱暴ではあるけど(笑)
案の定、(彼自身全く意識してないだろうけど)牛に必要な「言葉にする」作業を上手に手伝ってくれた。
迷っていることを自覚すること。
今できることとできない事をはっきりさせること。
そして本当に心の中に何も無いのか、何があるのかを確認すること。
結局その会話の流れの中で何がきっかけだったのかは覚えていない。

「好きなバイクに乗るのが一番だよ。」
「…昔、憧れてたのはカタナだなぁ。一度、あるショップのヒトがカタナに跨らせてくれて、嬉しかったけどすごくポジションが辛くって、首悪いし、こりゃ乗れないなぁと思って諦めたの。」
「それ1100でしょ。あれはタンク長いから大変だよね。でも400だったらそうでもないよ。ほら、中古でだいたいこの位。」

思い出した。
BMWもドカティも憧れのバイクは排気量的に無理。
現実的に乗れるもので、牛が欲しいと思ってたバイクはカタナだった。
でも、乗れるの?

古い腐りかけバイクで苦労するのはモウ嫌、なんて言いつつ、程度の良いのを探して見つかったら連絡するよという話になってから、本当に連絡が来るまではすぐだった。
確実に診てくれる須藤さんの仕事ぶりはすぐ近くで見ていたから良く知ってる。彼の人柄も。
たぶん、他の店にふらりと立ち寄っても同じようには絶対にいかない。
誰にだってそうであるように、信頼できることが何よりも大切。

そうしてついに。

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ちょっと色黒だけどとても美しいヒト、「ハイパーさん(通称)」が牛の新しい相棒になりました。
ちょっと待ってよ、SUZUKIだよ。
SUZUKIとご縁があるとしたら、スイスポかSX4(もしくはカプチーノ…)だと思ってたのに!

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土日は残念ながら雨のせいで乗れなかったけど、須藤さんが連れてきてくれた「ハイパーさん」はやっぱりとても美しかった。
果たして乗りこなせるんだろうか。ずいぶんブランクがあるしすごく不安。

この間、エンジンの音を聞きながら思ったこと。
牛はどうして乗りたいのかな。
車もバイクも飛行機も。
特にバイクはそれほど大好きなわけじゃないと思ってたのに。
でも乗れなくなると思ったら、それは嫌だと思ったんだよね。

誰よりも速く、誰よりも先を行きたいヒトがいる。
牛はゆっくり走るから、いつも追い越されていく。
追い越してゆく彼らの後姿はとてもキレイで、やっぱり走りたくなっちゃうんだ。
牛はいつだって見ていたいんだもの。

エンジンに火が入って、液体が爆発する刹那が連鎖して、その動きが唸りになって、それぞれの音を奏でて回転運動になる。その先へ繋がるもろもろの間に魔法のほうに伝わって、タイヤは廻る、プロペラも廻る。車は走る、バイクは駆ける、飛行機は飛ぶ。そのスロットルを操る人たちの見つめる先に広がる景色がいったいどんなふうなのか。世界は、どんなふうに翳り、輝くのか。
たとえ牛は追いつけなくても、彼らの瞳に映るものの切れ端を探したい。探求するヒトたちの姿を見ていたい。

今まだ言葉にできない事もあるけど。
それでも、どこまでも続く道をたどれるように。