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monoろぐ

古典和歌をメインにブログを書いてます。歌題ごとに和歌を四季に分類。

大手拓次「手をのばす薔薇」

2021年04月23日 | 読書日記

手をのばす薔薇

ばらよ おまへはわたしのあたまのなかで鴉のやうにゆれてゐる。
ふしぎなあまいこゑをたててのどをからす野鳩のやうに
おまへはわたしの思ひのなかでたはむれてゐる。
はねをなくした駒鳥のやうに
おまへは影(かげ)をよみながらあるいてゐる。

このやうにさびしく ゆふぐれとよるとのくるたびに
わたしの白薔薇の花はいきいきとおとづれてくるのです。
みどりのおびをしめて まぼろしによみがへつてくる白薔薇の花、
おまへのすがたは生きた宝石の蛇、
かつ かつ かつととほいひづめのおとをつたへるおまへのゆめ、
薔薇はまよなかの手をわたしへのばさうとして、
ぽたりぽたりちつていつた。

(青空文庫より)


四月題詞

2021年04月09日 | 読書日記

 髪は生きてなまなまとひとみを持ち、もえさかる花の歩道に遊惰の影絵(シルーエツト)をきざみこむ。ふとり肉(じし)の哄笑は、銀色の夜を色どつて、おごそかに此世のなやみをそよがせ、なびかせ、あざむかせ、さては悔恨の毒酒のしづくを恋ひしたはせる。とげのなかに見出でる紫玉の夢は追ふにしたがつてにげさるこの悲しさ。
(『限定版 大手拓次全集 別巻』(白鳳社、1971年、446p)より「季節題詞」)


篠綾子「墨染の桜」

2021年04月04日 | 読書日記

 篠綾子「墨染の桜」(文春文庫、2014年)を読んで疑問に思ったこと。

 まず、着物一枚縫うための日数について。7日はかかるようですが、1~2日程度で縫えるものではないのでしょうか。
 主人公のおりんが越後屋のお針子として働くようになってから、「小袖一枚を10日で縫った」というような文章がありました。175~176ページの越後屋の主人のセリフから解釈すると、「今まで小袖1枚縫うのに10日かかっていたところを、店に常駐しているお針子に縫わせることで。7日で完成させることができる。」ということのようなので、早くて7日ということでしょうか。

 それから「白羽二重の下着を赤の絹糸で縫う」という箇所で、188ページで縫い終わったおりんが、表に返して縫目を確かめるシーンがありますが、和裁の縫い方だと、縫目が見えないのが普通なので、違和感をおぼえました。また、濃い地色のものならともかく、白地の生地に赤色の縫い糸を使用したら、赤糸がおもてから透けて見えると思います。ここは、本来は白の絹糸を使うはずだったのに、同僚の嫌がらせで赤の絹糸を使わざるをえなかった、という箇所。この「白羽二重の下着」というのが裏地に紅絹(もみ)を使っているなら赤色の糸で縫うのもあり得ますが・・・。


おもしろ文様

2020年11月08日 | 読書日記

 『絵画としての筒描』(遠谷茂、光村推古書院、平成19年)には、おもしろい文様がいろいろ載っています。

大黒鼠:大根を食う鼠が、丸紋として描かれている。「大根食う」が「大黒」と語呂合わせとなっている。江戸時代に考えられた文様。

五鯉躍(ごりやく):五匹の鯉が滝登りする図。「ご利益」の語呂合わせ。「鯉の滝登り」は、黄河の上流にある滝、竜門を登ることのできた鯉は竜になるという「後漢書」の故事から、立身出世することのたとえなので、「五鯉躍」の文様は、立身出世のご利益がありますように、という願いを込めた模様ということになります。

 扇獅子:開いた扇の要(かなめ)の部分に獅子の鬣(たてがみ)を付けた文様。能「石橋」の小道具として、扇に造花の牡丹と毛を付けたものを獅子に見立てるそうなので、この文様の起源も能なのかも。

熊手と箒:夫婦愛と長寿を寿ぐ能「高砂」の図柄として、老夫婦が松竹梅鶴亀と共に描かれているが、尉(じょう)は「九十九まで」を意味する「熊手」を、姥(うば)は「掃く」から転じて「百」を意味する「箒」を持っている。

菊慈童:擬人化というか、妖(あやかし)的な雰囲気の絵柄。体が菊の葉で顔は菊の花、という二体の菊の精が、片方が柄杓で酒をくむポーズで、もう片方が盃を両手でささげもっているポーズ。

猿に桃:猿が片手にキセルを持ち、大きな桃に寄りかかっている図。西王母の不老長寿の桃を食べてしまったのが孫悟空なので、「西遊記」を元にした柄かも。

踏馬御免:馬掛けに染められた文字。(これは文様ではありませんが。)


後家の島田髷?

2020年10月26日 | 読書日記

 諸田玲子「恋縫」(集英社文庫、2007年)を読んでたら、二十歳前半くらいの年齢の後家が島田を結っている描写が出てきました(97ページ)。「えっ? 島田髷って未婚女性の結うものじゃなかったっけ?」と思い、調べてみました。
 「後家島田」という種類の髷があることは分かりましたが、この髷は「主に、京・大坂で行なわれた」とのことなので、この小説の舞台の場所とは一致しないな~、と疑問しきりです。
 年輩の女性が年齢不相応の若い格好をすることをいう「四十島田」という語がありますが、この場合の四十女は未婚女性なんでしょうか?