雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

歴史散策  古代からのメッセージ ( 5 )

2015-04-21 19:20:09 | 歴史散策
          古代からのメッセージ ( 5 )

天の石屋

「うけい」で競い合った後、須佐之男命は天照大御神に言った。
「我が心は清く明るいので、私は女の子を得た。これにより、当然私の勝ちである」
そう宣言すると、勝ちに乗じて、須佐之男命は天照大御神が作られている田の畦を壊し、溝を埋め、大嘗(オオニエ)の儀式をされる御殿に糞をまき散らした。

しかし、天照大御神は、須佐之男命の乱暴の限りをとがめることもなく、
「糞のようなものは、我が弟が酔って吐き出したものであろう。また、田の畔を壊し溝を埋めたのは、使われていない部分がもったいないとでも思って、我が弟がそうしたのであろう」
と、庇われたのである。
けれども、須佐之男命の悪い行いは止むことなく、さらに激しくなった。

天照大御神が、忌服屋(イミハタヤ)にいらっしゃって、神御衣(カムミソ)を織らせていた時に、その忌服屋の屋根の頂に穴をあけて、高天原の斑入りの馬の皮を剥いで落し入れた。中に居た天の服織女(ハトリメ)は驚きのあまり、機織りの機材を下腹に突き立てて死んでしまった。
ここに至って天照大御神は、弟の命のあまりの乱暴を恐れ、天の石屋(アメノイワヤ)の戸を開き、中に籠ってしまわれた。
すると、天高原はすっかり暗くなり、芦原中国(アシハラノナカツクニ・地上の国)もことごとく暗くなってしまった。
こうして、光が失われ、いつ明けるとも知れない夜が長く続いた。

そして、大勢の神々が騒ぐ声は、五月の蠅の如くいっぱいとなり、たくさんの禍(ワザワイ)がことごとく起こった。
そこで、八百万の神々は天の安の河原に集まり、天照大御神を天の石屋から引き出す方法を相談した。
その結果、タカミムスヒノカミ(高御産巣日神)の子であるオモヒカネノカミ(思金神)に考えさせて、まず、常世(トコヨ・海の彼方の異郷)の長鳴鳥を集めて鳴かせ、天の安の河の河上にある堅い石を取り、天の金山の鉄(クロガネ)を取り、鍛冶師であるアマツマラを捜し出して、イシコリドメノミコトに命じて鏡を作らせ、タマノオヤノミコトに命じて八尺の勾玉を数多く長い緒に貫き通した玉飾りを作らせ、アメノコヤノミコトとフトタマノミコトを呼び出して、天の香山(アメノカグヤマ)の雄鹿の肩の骨を取り出させ、天の香山のハハカ(桜の一種)でその骨を焼いて占わせ、天の香山のよく茂った榊を根こそぎ掘り取ってきて、その上の枝には八尺の勾玉を数多く長い緒に貫き通した玉飾りを付け、中の枝には八尺の鏡をかけ、下の枝には白い幣と青い幣をさげて、この様々な品は、フトタマノミコトが尊い御幣として捧げ持ち、アメノコヤノミコトが尊い祝詞を寿ぎ申し上げて、アメノタヂカラオノカミが戸の脇に隠れて立ち、アメノウズメノミコトが天の香山の日蔭かずらを襷にして、天のまさきかずらを髪飾りにして、天の香山の笹の葉を束ねて手に持ち、天の石屋の戸の前に桶を伏せて踏み鳴らし、神懸かりして胸乳を露出させ、裳の紐を女陰まで押し垂らした。
そうすると、高天原がどよめき、八百万の神々はどっと笑った。

外の様子に、天照大御神は不思議に思い、天の石屋の戸をほんの少し開けて、内側から外の様子を窺った。
「私はここに籠っているので、天の原は自ずから暗くなり、また芦原中国もすべて暗いと思うのに、どうしてアメノウズメノミコトは桶を鳴らし踊っているのか。そのうえ、八百万の神々は皆大笑いしているのか」
と申された。
「あなた様よりも立派な神がいらっしゃりますので、皆が喜び笑って歌舞をしているのです」
と、アメノウズメノミコトがお答えする。
そのようにお答えしている間に、アメノコヤノミコトとフトタマノミコトがあの鏡を差し出して、天照大御神にお見せすると、それに写った姿を自分とは気づかず、少しずつ戸から出て鏡に写っている姿を確かめようとされた。

戸の脇に隠れてそれを待っていたアメノタヂカラオノカミがその御手を取って外へ引き出すと、すぐにフトタマノミコトが天照大御神の後ろに注連縄を引き渡して、
「これから内へお戻りになることはかないません」
と申し上げた。
こうして、天照大御神がお出ましになった時、高天原と芦原中国はもとのように明るくなったのである。

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