枕草子 第二百五十二段 人のうえいふを
人のうえいふを腹立つ人こそ、いとわりなけれ。
いかでか、いはではあらむ。わが身をばさし措きて、さばかりもどかしくいはまほしきものやはある。
されど、けしからぬやうにもあり。また、おのづからききつけて、恨みもぞする、あいなし。
また、思ひ放つまじきあたりは、「いとほし」など思ひ解けば、念じていはぬをや。さだになくば、うち出で、わらひもしつべし。
人の噂をするのに腹を立てる人ときたら、全くやりきれません。
どうして、人の噂を言わないでいられましょうか。自分のことは別にして、他人の噂ほど無性に話したくなるものが他にありますでしょうか。
けれども、噂話は、あまり褒められたものでもないですわね。そのうえ、本人が自然と耳にして、恨みに思うかもしれないのが、まずいのです。
また、きっぱりと嫌いになってしまえない人のことなどは、「気の毒だ」などと大目に見るので、我慢して言わないのですよ。そんな気兼ねのない時は、人前で存分に噂話をして、笑い者にしてしまうのですよ。
いやいや、大変な内容の章段です。
少納言さまが特別そうだったのか、宮中の女房方全体がそうだったのかはともかく、こうまではっきりとは言えないまでも、現代人の心理も大差ないような気もします。
それにしても、「人のうえいふを腹立つ人こそ、いとわりなけれ」という書き出しは強烈です。
人のうえいふを腹立つ人こそ、いとわりなけれ。
いかでか、いはではあらむ。わが身をばさし措きて、さばかりもどかしくいはまほしきものやはある。
されど、けしからぬやうにもあり。また、おのづからききつけて、恨みもぞする、あいなし。
また、思ひ放つまじきあたりは、「いとほし」など思ひ解けば、念じていはぬをや。さだになくば、うち出で、わらひもしつべし。
人の噂をするのに腹を立てる人ときたら、全くやりきれません。
どうして、人の噂を言わないでいられましょうか。自分のことは別にして、他人の噂ほど無性に話したくなるものが他にありますでしょうか。
けれども、噂話は、あまり褒められたものでもないですわね。そのうえ、本人が自然と耳にして、恨みに思うかもしれないのが、まずいのです。
また、きっぱりと嫌いになってしまえない人のことなどは、「気の毒だ」などと大目に見るので、我慢して言わないのですよ。そんな気兼ねのない時は、人前で存分に噂話をして、笑い者にしてしまうのですよ。
いやいや、大変な内容の章段です。
少納言さまが特別そうだったのか、宮中の女房方全体がそうだったのかはともかく、こうまではっきりとは言えないまでも、現代人の心理も大差ないような気もします。
それにしても、「人のうえいふを腹立つ人こそ、いとわりなけれ」という書き出しは強烈です。