雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

古体の人

2014-05-24 11:00:51 | 『枕草子』 清少納言さまからの贈り物
          枕草子 第二百五十四段  古体の人

古体の人の、指貫着たるこそ、いと怠々(タイダイ)しけれ。
前にひき当てて、まづ裾をみな籠め入れて、腰はうち捨てて、衣の前を整へ果てて、腰をおよびて取るほどに、うしろざまに手をさしやりて、猿の手結はれたるやうに、ほどき立てるは、頓のことに出で立つべくも見えざめり。


古めかしい人が、指貫をはこうとしているところは、何とも無精たらしい。
指貫の前の部分を体にあてがって、まず単衣や衣などを指貫の中に押し込んで、腰ひもは結んだままになっていて、衣の前の部分をきちんと整えてから、指貫の後ろの部分が垂れ下がっているのを、へっぴり腰で取ろうとして、後ろの方へ手を伸ばして、猿が後ろ手に縛られているような格好で、結んだままの腰ひもをほどきながら立ちあがるのは、火急の用には間に合うようには見えません。



若者びいきで、年寄りに厳しい少納言さまらしい内容です。
それにしても、年寄りがよろよろと指貫を着る様子を詳しく描写したものですねえ。

なお、「古体の人の」については諸説があって、「古代の人」というものもあるようです。ただ、文章の内容からすれば不自然と思われ、「古めかしい人」つまり「かなり老齢の人」として読み取りました。
コメント
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