言語空間+備忘録

メモ (備忘録) をつけながら、私なりの言論を形成すること (言語空間) を目指しています。

田中宇の政治的スタンス

2011-06-06 | 日記
田中宇 『日本が「対米従属」を脱する日』 ( p.116 )

 私はこれまで何度か中国を訪問して、大学や政府系研究所の中国人の国際問題の専門家と意見交換する機会があった。最近では、中国の人々も、自国が世界の「極」の一つになることを十分に自覚している。だが、2005年に北京を訪問して、共産党青年団系の組織が主催した国際問題に関する6人ほどによる意見交換会に参加した時には、私が米国の自滅的な衰退と覇権の多極化の傾向、そして中国が世界の極の一つになるとの予測を述べたのに対し、中国側参加者(国防大学、軍事科学院、精華大学、日本研究所などの研究者)は一様に「何を言ってんだ、こいつ?」という感じの怪訝な顔をした。
 中国の研究者からの発言は「米国と日本が組んで中国包囲網を強化している」「中国は、米国による封じ込めの被害者である」といった論調が主流だった。「北朝鮮核問題の6ヵ国協議などを通じて、米国は、東アジアの地域覇権を中国に委譲しようとしている」という私の分析に、部分的にでも賛同する人はおらず、私はやんわりと「トンデモ扱い」された。この前後、私はのべ15人ほどの中国の国際政治研究者と会ったが、私の多極化論に対して「ユニークな見方で参考になりました」という人はいても、逆に私が「なるほど」と思える中国側の世界分析には、全く出会えなかった。
 中国の専門家からのトンデモ扱い、もしくは「ユニークですね」という反応は、少し前まで日本の専門家から私が受けてきた反応と同じである。その意味で、日中の専門家は似たような水準ということもできるが、日本は対米従属を維持するため、戦後一貫して米国中枢の暗闘について「見ないふり」をしたのに対し、中国はむしろ多極化で台頭を果たせる立場にあり、日中は立場が全く異なる。私は、中国の台頭は中国自身の国家的意志と考える前提に立ち、「中国の専門家は日本の専門家と異なり、米国の覇権と衰退について私より鋭い分析をしているだろう」と期待したのだが、裏切られた。

(中略)

 私は、中国人専門家との対話から、中国が自分たちで国家戦略を立てて急速に国際台頭したわけではなさそうだと感じたが、それと裏腹に、現実の国際政治の世界では、中国はかなりうまく立ち回っている。たとえば90年代末に作られた上海協力機構(旧上海ファイブ)は、中国と中央アジア諸国の治安維持・テロ対策をテーマとした国際組織から、そこにロシアが入ってユーラシア大陸諸国の安全保障会議へと発展し、今ではインド・パキスタン・アフガニスタン・イランもオブザーバー参加し、NATOに対抗できる有力機構となった。中国はこの間ずっと目立たないように上海協力機構を運営してきた。米国は、一貫して上海協力機構を軽視し、中露に結束を許してしまった。中露の結束を軸に、BRIC4ヵ国の結束が生まれ、米国覇権に取って代わろうとしている。
 09年春からは、中国当局はドル離れを画策し、最近では米国債を買い控え、金地金や世界各地のエネルギー利権を買い漁るとともに、「ドルの基軸通貨としての地位は危ういので、代わりの国際通貨体制が必要だ」と世界に呼びかけている。対照的に日本などG7諸国は、中央銀行間で通貨スワップ協定を結ぶなど、ドルを支えることに徹し、ドルの縛りから抜けられない。もし今後、米国の財政赤字急増やドルの過剰発行が嫌気され、実際にドル崩壊の現象が起きるとしたら、中国は売り逃げできるが、G7諸国はドルと共倒れになりかねない。

(中略)

 中国によるこれらの巧妙な戦略は、誰が立案しているのか。すでに述べたように、中国の専門家には先見の明がない。国際情勢に関する中国のマスコミの記事も、おおむね英文からの翻訳の範囲を出ない。中国の外交官の質は、日本の外交官より、さらに低いかもしれない。
 私の推論は、中国の国家戦略を建てているのは、私が会ったような中堅の専門家ではなく、もっと上層の、北京の中南海(党首脳が執務する区域)の人々であり、中南海の人々は、米国の中枢(ニューヨークの資本家)からのアドバイス(先読み)を参考にしているのではないかということだ。


 (日本のみならず) 中国の国際問題専門家からも「トンデモ扱い」されたが、それは彼らの能力が低いからである。現実の世界では中国は巧妙に立ち回っており、中国の専門家の質が低いはずはない。したがってもっと上層の、実権を握っている人々は私と同じ見方をしているはずである、と書かれています。



 「民主党も勉強している」において、著者が日本の政治関係者から「トンデモ扱い」されたらしいことがわかりますが、なんと、著者は中国の専門家からも「トンデモ扱い」されていたようです。

 「米連銀は「無限の」リスクをとれる」や「資本の論理によるアメリカの自滅戦略?」・「民主化が前提の「政治面での多極化・核兵器のない世界」」・「ヒラリー・クリントン国務長官の外交問題評議会での講演」などに述べたとおり、

 私は基本的に著者の意見には否定的です。そのうえさらに、著者が日中の国際問題専門家双方から「トンデモ扱い」されたとなれば、ますます、著者の意見には懐疑的にならざるを得ないと思います。



 しかし、日中の専門家から「トンデモ扱い」されたにもかかわらず、著者(田中宇)はくじけません。「中国の専門家からのトンデモ扱い、もしくは『ユニークですね』という反応は、少し前まで日本の専門家から私が受けてきた反応と同じである。その意味で、日中の専門家は似たような水準ということもできる」「中国の専門家には先見の明がない」「中国の外交官の質は、日本の外交官より、さらに低いかもしれない」などと述べ、「中堅の専門家ではなく、もっと上層の、北京の中南海(党首脳が執務する区域)の人々」は私と同じ見方をしているはずだ、とまで述べています。

 私としては、基本的に著者の意見は支持しませんが、著者(田中宇)にはこれまで通り、ご自分の見解を披露していただきたいと思います。表現の自由のよいところは、一見「トンデモ」に見える意見が、じつは核心を衝いていることがあり、その意味で、多様な意見が表明されるのはよいことだからです。多数意見とは明らかに異なる意見が、きわめて有益なこともあるのです。



 そして、さらにいえば、著者(田中宇)が中国でも「トンデモ扱い」されたということは、逆にいえば、著者は一見「親中派」に見えるが、じつはそうではない、ということです。著者ははっきりと「中国の専門家や外交官」を「質が低い」と批判しています。やたらと中国を持ち上げるところが気にはなりますが、どうやら「親中派ではない」と考えられます (どちらかといえば「反・資本家」というべきでしょう) 。

 したがって著者・田中宇は中国を持ち上げようとしたり、(日本の)世論を中国有利に導こうとしているのではなく、たんに「自分の意見を述べているだけ」だと考えられます。周囲から「トンデモ扱い」されながらも、自分の意見を発表し続けるからには、著者にはそれなりの「自信」があるのでしょう。したがって、著者が次々に著作を発表されることを期待します。



 私のこのブログも、もしかすると「トンデモ」かもしれませんが、そう思われる場合には、ぜひともコメント欄で批判してください (私は批判・反対意見を歓迎しています) 。よろしくお願いいたします。

イスラエルは追い込まれているが、当面は妥協しない

2011-06-06 | 日記
田中宇 『日本が「対米従属」を脱する日』 ( p.94 )

 オバマが提唱する世界的な核廃絶が進展した場合、最も激しく抵抗しそうな国はイスラエルである。「イランが核兵器を廃棄したら、イスラエルも廃棄せよ」という言い方が今後、世界的に強まりそうだが、「イランが核兵器開発している」という非難は米英イスラエルによる濡れ衣なので、事実上イスラエルのみが核兵器を廃棄させられる対象となる。イスラエルは、イスラム過激派(イラン、ヒズボラ、ハマスなど)との対立において劣勢になっている。国際圧力に屈して核廃棄に応じると、イスラエルはさらに弱さを露呈する。
 イスラエルに対しては今後、従来からの中東和平の圧力に加えて、さらに核廃絶の圧力が加わる。
 イスラエルの選択肢は、
 (1) 弱体化を容認しつつ、核廃絶と入植地撤退、パレスチナ国家の創設を認め、アラブと和解して小さくまとまるか
 (2) 弱体化容認の和平を拒否して最後まで突っ走り、最後はイスラム過激派との最終戦争に陥り、ハルマゲドン的な核兵器の使用に至るか
 (3) どちらも嫌なので誤魔化して決定を先延ばしするか
 というものだ。
 イスラエルは1995年のラビン首相暗殺以来、(1) は演技だけで、実際には (2) と (3) の間を行きつ戻りつしているが、先延ばしするほどイスラム過激派が強くなる。
 イスラエル政界では、入植者など右派(極右)が強く、核廃棄にも中東和平にも応じる世論は少ない。しかし、核廃棄と中東和平を拒否し続けると、いずれイスラエルは滅びる。その際、中東を核戦争に巻き込むおそれがある。

(中略)

★オバマのノーベル平和賞受賞とイスラエル(2009年10月21日)

(中略)

 国連では、ほかにもイスラエルを悪役にする動きが進んでいる。人権理事会が10月16日に採択した「ゴールドストーン報告書」である。報告書は、09年1月にパレスチナのガザにイスラエル軍が侵攻した「ガザ戦争」でのイスラエル軍による戦争犯罪行為について調査したもので、南アフリカの判事で国連戦争犯罪検察官も務めたリチャード・ゴールドストーンが中心になってまとめた。報告書自体には、イスラエル軍の戦争犯罪だけでなく、ガザのパレスチナ人武装組織ハマス(事実上のガザ政府)がイスラエルにロケット砲を撃ち込んだことも戦争犯罪だと書いているが、人権理事会での決議では、イスラエルの戦争犯罪のみが問題にされた。
 ゴールドストーン報告書の経緯は、親イスラエルがいつの間にか反イスラエルになる展開の典型だ。ガザ戦争が起きたのはブッシュ政権末期で、米政府はイスラエルを抑止せず、好きなように戦争をやらせた。「米国はゴールドストーン報告書を使ってイスラエルを懲罰している」と題する、前出とは別の「ハアレツ」の記事は、「ガザ戦争でイスラエル軍は犠牲も少なく、当時は素晴らしい戦争(A wonderful war)と考えられていた。しかしイスラエルは、米国がオバマ政権になってゲームの規則がひそかに変わったことに気づかなかった」と書いている。
 ガザ戦争では、ガザにある国連施設(女学校)がおそらく故意にイスラエル軍に空爆され、施設に避難していた約1000人の市民のうち50人が殺された。イスラエル軍の傍若無人に怒った国連は、人権理事会でガザ戦争の犯罪性について調べることにしたが、米国が了承した調査委員会の人事は、シオニストのユダヤ人だと自他ともに認めるゴールドストーンをトップに据えることだった。ゴールドストーンは、調査委員長を引き受けるに際して「イスラエル軍の戦争犯罪だけでなく、ハマスの戦争犯罪も平等に調査する」と宣言した。これは「ハマスの方が戦争犯罪を犯している」というイスラエルの言い分に沿っていた。
 しかし09年春以降、実際に調査が始まってみると様相が変わった。6月にガザを訪問したゴールドストーンは、イスラエル軍が破壊したガザのあまりの惨状にショックを受けたと語り、イスラエル軍は少し注意するだけで一般市民の犠牲者をずっと減らせたはずなのにそれを怠り、一般市民が戦火を逃れて避難している場所だと屋根に記されている建物をいくつも空爆したと批判するようになった。
 イスラエルは、国連によるガザ調査に協力しない態度を09年4月に表明し、やがてゴールドストーンを「反イスラエル主義者」と非難するようになった。こうした展開は、国連の調査報告書をさらにイスラエルに厳しい内容にする結果となった。
 ゴールドストーンはCNNのインタビューに答えて「(第二次大戦などの戦争犯罪の犠牲者にされてきた)ユダヤ人だからこそ、私は戦争犯罪をきちんと捜査すべきだと思っている。ユダヤ人だからイスラエルを捜査してはいけないという考えは間違っている」と語っている。また彼の娘はイスラエルのラジオの取材に答えて「父が調査委員会の先導役でなかったら、報告書はもっと厳しいものになっていたはずです」と語っている。


 イスラエルは追い込まれている、と書かれています。



 まず、著者の指摘する「イスラエルの選択肢」についてですが、
 イスラエルの選択肢は、
 (1) 弱体化を容認しつつ、核廃絶と入植地撤退、パレスチナ国家の創設を認め、アラブと和解して小さくまとまるか
 (2) 弱体化容認の和平を拒否して最後まで突っ走り、最後はイスラム過激派との最終戦争に陥り、ハルマゲドン的な核兵器の使用に至るか
 (3) どちらも嫌なので誤魔化して決定を先延ばしするか
 というものだ。
 イスラエルは1995年のラビン首相暗殺以来、(1) は演技だけで、実際には (2) と (3) の間を行きつ戻りつしているが、先延ばしするほどイスラム過激派が強くなる。
 イスラエル政界では、入植者など右派(極右)が強く、核廃棄にも中東和平にも応じる世論は少ない。しかし、核廃棄と中東和平を拒否し続けると、いずれイスラエルは滅びる。その際、中東を核戦争に巻き込むおそれがある。
という分析は、私も「正しい」と思います。

 先日、オバマ大統領がイスラエルの入植地撤退について言及したところ、イスラエルは激しく抵抗しました。イスラエルの「地形」を考えれば、イスラエル側の言い分(抵抗)は理解できます。したがってイスラエルとしては、(1) は「ありえない」ということになるでしょう。

 しかし当然、イスラエルも (2) は嫌なはずで、残るは (3) になります。しかし、上記に引用している「ゴールドストーン報告書」について著者が記している内容を読むかぎり、状況は次第にイスラエルに不利になっています。まさに、イスラエルは「追い込まれている」といってよいと思います。



 ここでイスラエルの立場に立って、「現実的な」選択肢を考えれば、道は2つあります。

 一つは、著者のいう (1) を受け容れることです。イスラエルが入植地撤退を拒否する理由は、イスラエルの「地形」にあります。つまり、
イスラエルが入植地を放棄すればイスラエルが「ひょうたん形」になり、真ん中の部分を攻められれば国を守りきれない。したがってイスラエルとしては、入植地撤退など受け容れられない
という論法です。

 この主張はたしかに説得的であり、イスラエルの立場に立てば、まさに「その通り」なのですが、それは「相手(アラブ)を信用できない」という「前提」があるからです。けれども、「和解」によって「もはやイスラエルが攻撃されることはない」とすれば、国が「ひょうたん形」になろうと問題はない、と考える余地があります。

 したがってイスラエルとしては、リスクが大きいけれども、今後、さらに追い込まれれば (1) は「現実的な選択肢」となりうるものと思われます。



 他の一つは、もっとイスラエルにとって受け容れやすい道です。どういう道かといえば、「次のアメリカ大統領選まで、様子をみる」というものです。次のアメリカ大統領選で「親イスラエル」の候補者が当選すれば、イスラエルに有利に「和平」が進む可能性があります。



 私がイスラエルの大統領(または首相)であれば、間違いなく後者の道(様子見戦略)を選択します。なにも「急いで」アラブと和解する必要はありません。次のアメリカ大統領選は2012年(来年)です。それまで和解せず、様子をみたところで特段イスラエルに不利になることは(おそらく)ありません。次回、もし「親イスラエル」の大統領(候補者)が当選すれば、一気に状況はイスラエルに有利になる可能性があるのですから、「あえて」急いで和解することは、ある意味、バカバカしいともいえるでしょう。

 かりにアラブと和解するとしても、それは「次のアメリカ大統領が、さらにイスラエルに厳しい態度をとったとき」でもよいわけです。

 そしてそれまで、つまり次のアメリカ大統領選までの間に、(イスラエルとしては)アメリカでロビー活動(政界工作)に集中すればよいのです。



 したがってイスラエルは追い込まれているけれども、当面、中東和平は進展しないと予想されます。イスラエルはアラブ側と和解せず、現状維持を貫くのではないかと思います。