田中宇 『日本が「対米従属」を脱する日』 ( p.94 )
イスラエルは追い込まれている、と書かれています。
まず、著者の指摘する「イスラエルの選択肢」についてですが、
先日、オバマ大統領がイスラエルの入植地撤退について言及したところ、イスラエルは激しく抵抗しました。イスラエルの「地形」を考えれば、イスラエル側の言い分(抵抗)は理解できます。したがってイスラエルとしては、(1) は「ありえない」ということになるでしょう。
しかし当然、イスラエルも (2) は嫌なはずで、残るは (3) になります。しかし、上記に引用している「ゴールドストーン報告書」について著者が記している内容を読むかぎり、状況は次第にイスラエルに不利になっています。まさに、イスラエルは「追い込まれている」といってよいと思います。
ここでイスラエルの立場に立って、「現実的な」選択肢を考えれば、道は2つあります。
一つは、著者のいう (1) を受け容れることです。イスラエルが入植地撤退を拒否する理由は、イスラエルの「地形」にあります。つまり、
この主張はたしかに説得的であり、イスラエルの立場に立てば、まさに「その通り」なのですが、それは「相手(アラブ)を信用できない」という「前提」があるからです。けれども、「和解」によって「もはやイスラエルが攻撃されることはない」とすれば、国が「ひょうたん形」になろうと問題はない、と考える余地があります。
したがってイスラエルとしては、リスクが大きいけれども、今後、さらに追い込まれれば (1) は「現実的な選択肢」となりうるものと思われます。
他の一つは、もっとイスラエルにとって受け容れやすい道です。どういう道かといえば、「次のアメリカ大統領選まで、様子をみる」というものです。次のアメリカ大統領選で「親イスラエル」の候補者が当選すれば、イスラエルに有利に「和平」が進む可能性があります。
私がイスラエルの大統領(または首相)であれば、間違いなく後者の道(様子見戦略)を選択します。なにも「急いで」アラブと和解する必要はありません。次のアメリカ大統領選は2012年(来年)です。それまで和解せず、様子をみたところで特段イスラエルに不利になることは(おそらく)ありません。次回、もし「親イスラエル」の大統領(候補者)が当選すれば、一気に状況はイスラエルに有利になる可能性があるのですから、「あえて」急いで和解することは、ある意味、バカバカしいともいえるでしょう。
かりにアラブと和解するとしても、それは「次のアメリカ大統領が、さらにイスラエルに厳しい態度をとったとき」でもよいわけです。
そしてそれまで、つまり次のアメリカ大統領選までの間に、(イスラエルとしては)アメリカでロビー活動(政界工作)に集中すればよいのです。
したがってイスラエルは追い込まれているけれども、当面、中東和平は進展しないと予想されます。イスラエルはアラブ側と和解せず、現状維持を貫くのではないかと思います。
オバマが提唱する世界的な核廃絶が進展した場合、最も激しく抵抗しそうな国はイスラエルである。「イランが核兵器を廃棄したら、イスラエルも廃棄せよ」という言い方が今後、世界的に強まりそうだが、「イランが核兵器開発している」という非難は米英イスラエルによる濡れ衣なので、事実上イスラエルのみが核兵器を廃棄させられる対象となる。イスラエルは、イスラム過激派(イラン、ヒズボラ、ハマスなど)との対立において劣勢になっている。国際圧力に屈して核廃棄に応じると、イスラエルはさらに弱さを露呈する。
イスラエルに対しては今後、従来からの中東和平の圧力に加えて、さらに核廃絶の圧力が加わる。
イスラエルの選択肢は、
(1) 弱体化を容認しつつ、核廃絶と入植地撤退、パレスチナ国家の創設を認め、アラブと和解して小さくまとまるか
(2) 弱体化容認の和平を拒否して最後まで突っ走り、最後はイスラム過激派との最終戦争に陥り、ハルマゲドン的な核兵器の使用に至るか
(3) どちらも嫌なので誤魔化して決定を先延ばしするか
というものだ。
イスラエルは1995年のラビン首相暗殺以来、(1) は演技だけで、実際には (2) と (3) の間を行きつ戻りつしているが、先延ばしするほどイスラム過激派が強くなる。
イスラエル政界では、入植者など右派(極右)が強く、核廃棄にも中東和平にも応じる世論は少ない。しかし、核廃棄と中東和平を拒否し続けると、いずれイスラエルは滅びる。その際、中東を核戦争に巻き込むおそれがある。
(中略)
★オバマのノーベル平和賞受賞とイスラエル(2009年10月21日)
(中略)
国連では、ほかにもイスラエルを悪役にする動きが進んでいる。人権理事会が10月16日に採択した「ゴールドストーン報告書」である。報告書は、09年1月にパレスチナのガザにイスラエル軍が侵攻した「ガザ戦争」でのイスラエル軍による戦争犯罪行為について調査したもので、南アフリカの判事で国連戦争犯罪検察官も務めたリチャード・ゴールドストーンが中心になってまとめた。報告書自体には、イスラエル軍の戦争犯罪だけでなく、ガザのパレスチナ人武装組織ハマス(事実上のガザ政府)がイスラエルにロケット砲を撃ち込んだことも戦争犯罪だと書いているが、人権理事会での決議では、イスラエルの戦争犯罪のみが問題にされた。
ゴールドストーン報告書の経緯は、親イスラエルがいつの間にか反イスラエルになる展開の典型だ。ガザ戦争が起きたのはブッシュ政権末期で、米政府はイスラエルを抑止せず、好きなように戦争をやらせた。「米国はゴールドストーン報告書を使ってイスラエルを懲罰している」と題する、前出とは別の「ハアレツ」の記事は、「ガザ戦争でイスラエル軍は犠牲も少なく、当時は素晴らしい戦争(A wonderful war)と考えられていた。しかしイスラエルは、米国がオバマ政権になってゲームの規則がひそかに変わったことに気づかなかった」と書いている。
ガザ戦争では、ガザにある国連施設(女学校)がおそらく故意にイスラエル軍に空爆され、施設に避難していた約1000人の市民のうち50人が殺された。イスラエル軍の傍若無人に怒った国連は、人権理事会でガザ戦争の犯罪性について調べることにしたが、米国が了承した調査委員会の人事は、シオニストのユダヤ人だと自他ともに認めるゴールドストーンをトップに据えることだった。ゴールドストーンは、調査委員長を引き受けるに際して「イスラエル軍の戦争犯罪だけでなく、ハマスの戦争犯罪も平等に調査する」と宣言した。これは「ハマスの方が戦争犯罪を犯している」というイスラエルの言い分に沿っていた。
しかし09年春以降、実際に調査が始まってみると様相が変わった。6月にガザを訪問したゴールドストーンは、イスラエル軍が破壊したガザのあまりの惨状にショックを受けたと語り、イスラエル軍は少し注意するだけで一般市民の犠牲者をずっと減らせたはずなのにそれを怠り、一般市民が戦火を逃れて避難している場所だと屋根に記されている建物をいくつも空爆したと批判するようになった。
イスラエルは、国連によるガザ調査に協力しない態度を09年4月に表明し、やがてゴールドストーンを「反イスラエル主義者」と非難するようになった。こうした展開は、国連の調査報告書をさらにイスラエルに厳しい内容にする結果となった。
ゴールドストーンはCNNのインタビューに答えて「(第二次大戦などの戦争犯罪の犠牲者にされてきた)ユダヤ人だからこそ、私は戦争犯罪をきちんと捜査すべきだと思っている。ユダヤ人だからイスラエルを捜査してはいけないという考えは間違っている」と語っている。また彼の娘はイスラエルのラジオの取材に答えて「父が調査委員会の先導役でなかったら、報告書はもっと厳しいものになっていたはずです」と語っている。
イスラエルは追い込まれている、と書かれています。
まず、著者の指摘する「イスラエルの選択肢」についてですが、
イスラエルの選択肢は、という分析は、私も「正しい」と思います。
(1) 弱体化を容認しつつ、核廃絶と入植地撤退、パレスチナ国家の創設を認め、アラブと和解して小さくまとまるか
(2) 弱体化容認の和平を拒否して最後まで突っ走り、最後はイスラム過激派との最終戦争に陥り、ハルマゲドン的な核兵器の使用に至るか
(3) どちらも嫌なので誤魔化して決定を先延ばしするか
というものだ。
イスラエルは1995年のラビン首相暗殺以来、(1) は演技だけで、実際には (2) と (3) の間を行きつ戻りつしているが、先延ばしするほどイスラム過激派が強くなる。
イスラエル政界では、入植者など右派(極右)が強く、核廃棄にも中東和平にも応じる世論は少ない。しかし、核廃棄と中東和平を拒否し続けると、いずれイスラエルは滅びる。その際、中東を核戦争に巻き込むおそれがある。
先日、オバマ大統領がイスラエルの入植地撤退について言及したところ、イスラエルは激しく抵抗しました。イスラエルの「地形」を考えれば、イスラエル側の言い分(抵抗)は理解できます。したがってイスラエルとしては、(1) は「ありえない」ということになるでしょう。
しかし当然、イスラエルも (2) は嫌なはずで、残るは (3) になります。しかし、上記に引用している「ゴールドストーン報告書」について著者が記している内容を読むかぎり、状況は次第にイスラエルに不利になっています。まさに、イスラエルは「追い込まれている」といってよいと思います。
ここでイスラエルの立場に立って、「現実的な」選択肢を考えれば、道は2つあります。
一つは、著者のいう (1) を受け容れることです。イスラエルが入植地撤退を拒否する理由は、イスラエルの「地形」にあります。つまり、
イスラエルが入植地を放棄すればイスラエルが「ひょうたん形」になり、真ん中の部分を攻められれば国を守りきれない。したがってイスラエルとしては、入植地撤退など受け容れられないという論法です。
この主張はたしかに説得的であり、イスラエルの立場に立てば、まさに「その通り」なのですが、それは「相手(アラブ)を信用できない」という「前提」があるからです。けれども、「和解」によって「もはやイスラエルが攻撃されることはない」とすれば、国が「ひょうたん形」になろうと問題はない、と考える余地があります。
したがってイスラエルとしては、リスクが大きいけれども、今後、さらに追い込まれれば (1) は「現実的な選択肢」となりうるものと思われます。
他の一つは、もっとイスラエルにとって受け容れやすい道です。どういう道かといえば、「次のアメリカ大統領選まで、様子をみる」というものです。次のアメリカ大統領選で「親イスラエル」の候補者が当選すれば、イスラエルに有利に「和平」が進む可能性があります。
私がイスラエルの大統領(または首相)であれば、間違いなく後者の道(様子見戦略)を選択します。なにも「急いで」アラブと和解する必要はありません。次のアメリカ大統領選は2012年(来年)です。それまで和解せず、様子をみたところで特段イスラエルに不利になることは(おそらく)ありません。次回、もし「親イスラエル」の大統領(候補者)が当選すれば、一気に状況はイスラエルに有利になる可能性があるのですから、「あえて」急いで和解することは、ある意味、バカバカしいともいえるでしょう。
かりにアラブと和解するとしても、それは「次のアメリカ大統領が、さらにイスラエルに厳しい態度をとったとき」でもよいわけです。
そしてそれまで、つまり次のアメリカ大統領選までの間に、(イスラエルとしては)アメリカでロビー活動(政界工作)に集中すればよいのです。
したがってイスラエルは追い込まれているけれども、当面、中東和平は進展しないと予想されます。イスラエルはアラブ側と和解せず、現状維持を貫くのではないかと思います。
私が懸念するのは、選挙戦終盤になって、オバマ再選阻止が困難な情勢になった場合、イスラエルが平和的手段を放棄し、「禁じ手」を使うのではないか、と言うことである。
私には、ケネディとオバマがどうしてもダブって見えてしまうのだ。
米国の理想主義は、しばしば悲劇を生んできた。
一般的に民主党は親中、共和党は反中の傾向にあります。したがってイスラエルがオバマ再選阻止に動けば、日本に有利になる可能性があります。
中東情勢は日中関係にも密接に影響しています。原油のこともあり、遠い場所の出来事とはいえないですね。