言語空間+備忘録

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米連銀は「無限の」リスクをとれる

2011-05-23 | 日記
田中宇 『日本が「対米従属」を脱する日』 ( p.1 )

 ドルの崩壊は、米当局による金融危機対策の失敗の結果である。07年夏に金融危機が起き、投資家が金融市場のリスクを恐れる度合いを強めてリスク・プレミアムが急騰したとき、米国の連銀と財務省は、危機沈静化策として、市場内の相互信頼性を復活させて市場を再活性化するのではなく、金融界から不良債権を買い取り、貸し手としての機能を連銀と財務省が引き受けることで、リスク・プレミアムを低下させた。米当局は、金融の自由市場を復活するのではなく、金融市場を国有化することで危機を乗り越えた。
 これは、米金融界が抱えるすべての不良債権やリスクを連銀と財務省が引き受けることにつながっている。米金融界は、国有化された金融システムの中で、ゼロ金利政策を続ける連銀から事実上マイナス金利で金を借り、企業や個人に融資するのではなく金融商品に投資して利ざやを稼ぎ、金融危機が一段落した後、再び巨額の利益を出している。金融システムのリスクを米当局がとってくれるので、金融界は何もリスクをとらず、利益だけを享受している。対照的に、銀行が金を貸さなくなった実体経済は悪化し続けている。
 連銀が無限のリスクをとれるのは、連銀が何の担保も必要とせずドルを発行し続けられるからだ。1971年のニクソンショック(金ドル交換停止)以来、ドルは金地金とのつながりを切り、連銀は、覇権国としての米国の信用のみを担保に、無限にドルを発行してもリスクが拡大しないシステムになっている。これまでは、そう信じられてきた。
 しかし、金融危機対策費やイラク・アフガニスタンの戦費調達のために米財務省が発行する米国債は急増し、財政赤字は史上最高を更新し続けている。米国債の半分近くは、中国やアラブ原油諸国など、米国外の政府系を中心とした投資家が買っている。投資家は、米国が巨額の国債を外国勢に買わせたあげく、ドル安を演出して債務を減らす気ではないかと懸念している。売れ残りの米国債は、連銀がドルを発行して買い取り、国債売れ残りによる金利高騰を防いでいるが、これも国債購入者から見れば不健全な行為である。
 09年後半、米金融界は大増益に戻ったが、米政府の景気対策は金融機関を救済するばかりで実体経済を改善していない。金融システムは国有化され、市場として機能不全に陥っており、この点も外国投資家の対米投資の意欲を削いでいる。米市場の消費力は急減し、米国はアジアの製造業にとって魅力ある市場でなくなり、アジア諸国がドルを備蓄する必要性は落ちている。
 これらの新事態を受け、ロシアや中国など新興市場諸国は、08年のリーマンブラザーズ倒産後、ドルを単独の国際基軸通貨としている現体制を見直すべきだと主張し始めた。中国の中央銀行総裁やロシアのメドベージェフ大統領、フランスのサルコジ大統領、世界銀行のゼーリック総裁、国連の経済担当次官などが、ドル単独体制の代わりにIMF(国際通貨基金)のSDR(特別引き出し権)を活用した、複数の有力通貨を平均したものを今後の国際基軸通貨として使う「通貨の多極化」を支持している。


 米国の金融危機対策費や戦費調達のために発行される米国債は急増し、財政赤字は史上最高を更新し続けている。そのため米国債を買っている中国やアラブ原油諸国は懸念を強め、ドル単独の国債基軸通貨体制を見直すべきだと主張し始めた、と書かれています。



 著者は米国が「市場内の相互信頼性を復活させて市場を再活性化するのではなく、金融界から不良債権を買い取り、貸し手としての機能を連銀と財務省が引き受ける」道を選んだことを否定的に捉えていますが、

 「市場内の相互信頼性を復活させ」ることは不可能に近かったと考えられますし、そもそも「無限の」リスクをとれるのであれば、それはもはや「リスク」とはいえず、米国は最善の対処をした、と考えてよいのではないかと思います。



 次に、「なぜ、連銀は無限のリスクをとれるのか」が問題になりますが、これは「日銀は無限のリスクをとれるか」という形で考えてみればよいのではないかと思います。

 著者は「連銀が無限のリスクをとれるのは、連銀が何の担保も必要とせずドルを発行し続けられるからだ」と書いています。ドルが金地金とのつながりを失っていることが連銀が「無限の」リスクをとれる根拠であるなら、日銀も「無限の」リスクをとれるのではないかと考えられます。しかし、日本円は国際基軸通貨ではありませんし、日本の軍事力を考えればおそらく不可能でしょう。外国が日本国債を買い続けるとはとうてい考えられないからです。

 したがって連銀が「無限の」リスクをとれるのは、ドルが金地金とのつながりが断たれていることのほか、「覇権国としての米国の信用」があるからだと考えてよいと思います。



 とすれば、米国は非常に有利な立場に立っていることになります。

 そこで次に、「なぜアメリカは、みずからアメリカの有利性を捨てようとするのか」が問題になります。「世界銀行のゼーリック総裁」はアメリカ人だからです (下記引用参照) 。「中国の中央銀行総裁やロシアのメドベージェフ大統領、フランスのサルコジ大統領」はともかく、なぜ、「世界銀行のゼーリック総裁」までもがSDRによる「通貨の多極化」を支持するのか、ということです。

 これについてはおそらく、著者がこの本のなかで次第に解き明かしていくはずです。そこで今度はこの本を読み進めつつ、米国の意図・戦略等を考えたいと思います。



Wikipedia」の「ロバート・ゼーリック

ロバート・ブルース・ゼーリック(Robert Bruce Zoellick、1953年7月25日 - )は、現在の世界銀行総裁。前職はアメリカ合衆国国務副長官(2006年7月7日に辞職)。その他、アメリカ合衆国通商代表として2001年2月7日から2005年2月22日まで仕えた。2006年6月19日にゴールドマン・サックス証券の国際戦略部のマネージング・ディレクター兼代表として加わるためであった。

ゼーリックはまた、多くの民間と公的組織での役員として役目を果たしている。アリアンス・キャピタル、セイドホールディングス、およびプレキューサー・グループなどがあり、エンロンとビベンチャーの顧問会議のメンバー、アスペン研究所の戦略グループの指導官、外交評議会、合衆国のドイツのマーシャル基金、および世界野生生物諮問委員会として、そして、ウィリアム・コーエン長官の防衛政策委員会のメンバーでもある。彼は外交評議会と日米欧委員会のメンバーである。彼のキャリアはビジネスと政府とが密接につながっていることを示している。

(中略)

★人物 [編集]

ゼーリックは、イリノイ州のナパービルで育てられ、ドイツ人とオランダ人の血が流れている(綴りが「ツェリック」)。

1975年にスワースモア大学卒業後、ハーバード大学行政大学院(ケネディ・スクール)で修士号を取得、さらに、同大学法律大学院で法律学博士号を取得した。

★来歴 [編集]

ブッシュ政権との関わり(1985-1992) [編集]ゼーリックは1985年から1988年まで財務省の様々な要職に就いた。ジョージ・H・W・ブッシュ政権に国務省顧問、経済担当次官として国務長官のジェームズ・ベーカーと共に貢献した。1992年8月には、ホワイトハウス副首席補佐官と大統領補佐官に任命された。また、1991年と1992年のG-7 経済サミットではシェルパに任命されている。

ビジネスとアカデミー(1993-2001) [編集]政府を離れた後にゼーリックは、1993年から1997年まで連邦の機関の副総裁に任命される。1997年から1998年までは米国海軍兵学校に国家安全保障の教授として勤め、ハーバード大学のジョン・F・ケネディスクールでもベルファーセンターの研究員として勤めた。また、ゴールドマンサックスのアドバイザーとなった。2000年の大統領l選挙ではコンドリーザ・ライスが導くグループの一員となり、外交政策アドバイザーとしてジョージ・W・ブッシュ陣営に参加した。

★米通商代表部(2001-2005) [編集]
ロバート・ゼーリック(右)とオランダの政治家ジャン・プロンク(左)ジョージ・W・ブッシュ大統領の1期目、事務総局の米通商代表部に参加した。米通商代表部ウェブサイトによると、ゼーリックは、中国と台湾の世界貿易機関(WTO)加入にむけた交渉に従事、ドーハでのWTOミーティングにおいて新しい多角的通商交渉を始めるための戦略立案、ジョーダン自由貿易協定・ベトナム貿易協定の際の議会監視など多くの局面で活躍し、2002年には新しい貿易促進権限を含んでいたTrade条例を通す為、議会と共に活動した。

★国務副長官(2005-2006) [編集]
2006年1月23日、日本の内閣官房長官安倍晋三(右)と会談するロバート・ゼーリック(中)2005年1月7日、ゼーリックはジョージ・W・ブッシュ大統領から、国務省の実務を担当する国務副長官に指名され、2005年2月22日に就任した。当初は、国務次官をつとめていたジョン・ボルトンがその地位に就くはずだったが、国務長官に就任したコンドリーザ・ライスとソリが合わないことからゼーリックの名が浮上する。しかし、2005年5月25日、ニューヨーク・タイムズ紙は、ゼーリックが自らの劣勢に疑問を持っており、すぐにでも辞職する可能性があることを報じた。ゼーリックは、最低1年間国務副長官として役目を果たすことに同意したが、民間部門に戻るというゼーリックの願望は広く知られていた。ゼーリックの国務副長官就任は日本にとっては、前任のリチャード・アーミテージが築いた日米蜜月時代とは打って変わり、日米の間に隙間風を吹き込む。アーミテージ時代に設立された、次官級の「日米戦略対話」はゼーリックの在任時代、ただの一度も開かれておらず、他方、中国に対してはブッシュ政権1期目に掲げていた「戦略的競争相手」から打って変わり、「責任あるステーク・ホルダー(利害共有者)」という位置づけをしている。台湾に対する対応は日本以上に顕著なもので、陳水扁総統が国交を持つ中南米訪問の際には、給油のみを認め、米国国内での政治活動は一切認めなかったほどである。ちなみに一期目においては、陳総統はブッシュ大統領の地元であるテキサス州滞在を許されている。日米間で行われなかった戦略対話は米中間においては何度も行われている。そのため、ゼーリックの国務副長官就任が取り沙汰された際、日本の外交当局者や山本一太参議院議員などは彼に対する警戒感を示していた。


5 コメント

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やはりドルは強い (四葉のクローバー)
2011-05-24 10:17:52
今のようなドル基軸体制が、いつまで続くのかは、わかりませんが、かと言って、ドルに代わる、或いは匹敵するような通貨が出てくるには相当の時間が掛かります。

ドルを脅かす最有力候補のユーロでさえ、南欧諸国の財政破綻により、最悪、北欧ユーロと南欧ユーロ、に分裂する危機さえ考えられます。

その点、米国は自国通貨が基軸通貨であるのは最大の強みです、何しろ“外貨準備高”など気にする必要がないのですから。


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Unknown (memo26)
2011-05-24 19:21:06
 著者は通貨バスケット?制を想定されているようです。
   ▼
 ドル単独体制の代わりにIMF(国際通貨基金)のSDR(特別引き出し権)を活用した、複数の有力通貨を平均したものを今後の国際基軸通貨として使う「通貨の多極化」


 問題は米国がこのような制度を認めるか、ということですね。
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米国は多分 (四葉のクローバー)
2011-05-24 19:52:05
潰しにかかるのではないでしょうか。
ドル基軸体制と核戦力は米国の最後の砦だし。
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Unknown (Unknown)
2011-05-26 15:37:36
 私も米国はドル基軸通貨体制も核も捨てないと思いますが、

 ドル基軸通貨体制も核も捨てる、というのが著者の主張です。

 ここ(この記事)では著者の主張の是非を検討しています。著者の主張が「正しい」可能性もあります。
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Unknown (memo26)
2011-05-26 15:38:45
 上記の Unknown は私です。名前を入れ忘れました。
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